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しおりを挟む( ……ハルが、こんなに長く喋るの……初めて聞いたな…… )
痛さに顔を顰めながらも、ぼんやりと頭に浮かぶのはそんなこと。もう思考は麻痺している。
耳朶を掠めるように、また声がする。唇を肌に押しつけているせいか、少しくぐもって聞こえる。
「あんたはピアノを辞め、俺は転校した。偶然、再会して ── 初めは、思い出せなかった。でも、あの沖縄の海で夕陽に染まったあんたの顔と、あの窓辺で同じように夕陽に染まった顔が重なって ── 全部思い出したんだ」
ハルは顔を離し、再び上からオレを見つめる。
口許が紅い ── オレの血だろうか。それを見たオレの心臓が、何故だかドクンと跳ね上がった。
「俺は今のあんたを好きになって、気がついたんだ」
( オレを……好きだって? )
「あの頃もあんたに恋してたってことに。あれは幼くて綺麗な恋だったけど、今は違う ── もっと ── 」
その先は言わなくても感じる。
欲を孕んだ熱い瞳。オレの血で汚れた口が、獣のように見える。
今までこんな瞳でオレを見た人間がいただろうか。
( こんな瞳で、冬馬に見られたかった )
「何考えてるの?橘オーナーのこと?」
言い当てられ、オレは顔を背けた。このまま見つめられていると、全て読み取られしまいそうな気がした。
「何で、言わなかったんだ。聖愛にいたこと。オレを知っていたこと」
これ以上変な雰囲気にならないよう、オレは話を逸らした。
「それは……シウさんが、昔のことに触れられたくないんだと思ったから。そんな風に髪の色も眼の色も変えて、SIHUなんて、プロフィールを明かさない写真家としてやってたから……」
声が弱々しくなる。両手首を掴んでいた手の力も少し緩む。いつものハルに戻りつつあるのを感じながら、話を続けようとした。
「そうか、ありがとうな」
しかし、もう一度ハルの顔を見直すと、その瞳の中にある熱は、少しも変わっていなかった。
オレの心を見透かすように、じっと見つめている。そうしながら、再び手に力を込める。
( あ……また…… )
「聖愛の森の中で、あんたが何であのふたりをあんなに辛そうに見ていたのか、あの頃はわからなかった。でも……今ならわかる」
( なにが……?なにがわかるって、言うんだ……? )
さわ……と、胸の内を撫でられるように、不安が忍び寄る。
「SHIUの個展で一番最後に飾られていた小さなパネル ── 一面緑の、あれを見た時から不安はあった。そして、橘オーナーに会った時に気づいたんだ。あんたはあの人が好きだったんだってこと」
( あの写真で……? )
一番辛い風景なのに、飾らずにはいられなかった、小さなパネル。
「 ── だから、あのふたりを見ているのが辛かった。他人が入ることが許されないような、あのふたりを見ているのが辛かったんだ」
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