Crescendo ──春(ハル)ノクルオト

さくら乃

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 遙人はオレの項を愛しながら、片手をするりとTシャツの裾から潜り込ませる。大きなその手はつつっと腹を撫で、さらっと胸全体を撫で、そして、その頂きに触れる。

 たったそれだけで。

 身体の内に熱が溜まり始めるのを感じる。
 オレってちょろいんじゃないか。そう思われたくなくて。
 それを逃そうと、何かしら別の物に意識を移そうとする。

 それがまずかった。

 視線を巡らせた先に、よく磨かれた鍵盤蓋。そこに映っているのは、高い背を傾げ首筋に口づけている遙人の頭と、片側の頂をこねくりまわしている長い指先。
 そして、蕩けたような、オレの顔。
 それらが眼に映った瞬間、カッと身体中が熱くなる。

「はぁ……」
 吐息が零れるとともに身体の力が抜け、ずるっと椅子から滑り落ちそうになる。
 それをぐっと、直に肌に触れている手が支える。
「大丈夫?シウさん、力抜けちゃった?」
 頭上を越して覗き込んでくる、遙人の顔。
 ちょっと意地悪そうで、それでいて愛おしい者を見る眼。
 ちゅっと唇に軽くキスをすると、オレの前に移動してくる。
 片腕は両膝の裏、もう一方は背中に当てている。ひょっとして、オレを抱き上げるつもりか。

( いや、無理でしょ )

「ハル、無理だって」
 細身とはいえ、決して小さくはない男のオレ。しかし、遙人はそんなオレを軽々抱き上げ、
「ん?」
 と、涼しげな顔でオレの顔を覗き込む。
 その力強さや密着する素肌に、オレの方は眩暈を起こしそうだというのに。


**


「シウさん。もう……いい?」
 その瞳には隠しようのない情欲の色が浮かんでいる。

 熱にやられ、ふわふわした頭では、すぐに反応できない。「えっ?」と口を開けた途端、その唇を塞がれた。そして、難なく舌が入り込み、オレの舌を絡めとる。
 オレを横抱きにしたまま、咥内を激しくまさぐりながら、器用にテーブルを避け、ベッドの前まで来る。

 オレは苦しくて仕方がなかった。息もできず、どちらのものかもわからない唾液が、顎を伝って落ちていく。
 やっと唇を離され、はぁ……と一呼吸している間に、ふわぁっとベッドに下ろされた。

 ── は突き飛ばされて沈まされた。

 そう思い返す。
 
 遙人もベッドの上に乗り、向かい合って座る。
 顔が近づいてきて、ちゅっとまたキス。すぐに離れて、首筋に唇を寄せる。ちゅっちゅっと下から上へ這い上がり、耳朶を甘噛みする。
 それだけなのに。
 ざわざわっと全身鳥肌が立つ。


「── 優しくさせて?」
 甘さと欲の混じり合ったような声が、耳の内に流れ込む。
 どくんっと心臓が大きく波打つ。

 なに、その言い方。なに、その声。
 普通に「優しくする」と言われるよりも、かなり
 セクシャルなことを全く感じさせないストイックさを持つ『ハル』。
 そう思っていたのが、嘘のような手慣れた感じ。

「優しくして」
 そう答えた方がいい?
 でも、オレには言えない。経験値ほぼゼロ。

    
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