さくらさくら……そのしたで

さくら乃

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  桜の降りしきる夜だった。

 その美しいひとは佇んでいた。
 夜の神社の人気のない境内にある桜の木の下で、もうずいぶんと長いこと誰かを待ち続けているようであった。
 月の光に透き通るような肌が艶めかしく浮び上がり、春ののまだ冷たい風に長く美しい黒髪が微かに揺れる。彼女は華奢な身体を白いワンピースに包み込んでいた。

 私がその美しいひとに出逢ったのは――この夜で三度目だった。



 あの桜の木の下で、初めて彼女を見たのは昨年の今頃。桜がまだ咲き始めたばかりの静かな夜だった。
 彼女はそのも白いワンピースに身を包み、桜の木の下で男の腕にいだかれていた。ごつごつとした太い幹に背を凭せ掛け、長い口吻を受けていた。
 男の顔は私のほうからは見えない。見たいとも思わなかった。ただ私の脳裏に刻まれたのは幸せそうな微笑みだけ。一度見たら忘れられそうにない、そのひとの美しい顔だけだった。

 その夜から一週間ばかりが過ぎた、桜の花弁はなびらが舞い散る風の強い晩だった。
 私は二度にたび白いワンピースの女性に逢った。そして傍らにはやはり同一人物らしい男の背中があった。



 そして、今夜。
 三度みたびその美しいひとに出逢う。

 はいなかった。
 彼女は一人佇んでいる。
 たった一人で誰かを待っている。そう思えた。
 桜の木の下で――月の光を浴びて白く闇の中に浮かぶ、ざわざわと胸が騒ぐほどに妖しく美しい桜の、その木の下で。 

 微風に誘われ舞い散る花弁が、彼女の華奢な身を愛おしげに包み込んでは落ちて行く。時折その肩にその黒髪に残った花弁を白く細い指で口許へ運ぶ。艶かしい紅い唇がゆうるりと桜をむ。
 
 時が止まったような。
 妖しく美しい情景。 
 その美しい女は桜食う鬼のようだ。

 私はうっとりと眺める。
 そして、引き寄せられるように彼女の傍らに立った。


「何を……しているの?」
 三度みたび出逢った。しかし、話し掛けたのはこれが初めてだった。
「待っているの……」
 と紅い唇が動く。
 消え入りそうな細い声。りんりんと鈴が鳴るような。
 彼女は繰り返す。
「待っているの」
 と。
「待って? 誰を?」

を待っているの……。どうしたのかしら……何故来てくれないのかしら……」

 詠うように言葉が零れる。彼女が口を開く度にりんりんと鈴の音が聞こえるような気がした。彼女の空虚うつろに開かれた黒曜石の瞳は、目の前にいる私の顔をけして映してはいない。何処か遠い別の世界を見ているようだった。

ようさん……」
 小さく誰かの名を呟く。
「遥さん……遥さん……?」
 空虚な瞳に徐々に光が宿り始めた。
 ――彼女は

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