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しおりを挟むイオが眼を細める。
今のトール、前世のトールが混在しているようで、愛おしさが募る。
今度はイオが彼の肩を抱き締め、その髪に唇を寄せる。
「──あの神の見越した通りだった。お前が大人になるまで、見守ることができなかった。──ほぼ力を封じられた状態でも変わらずこの地を護らなければならない。そして、この親子に関わる記憶を捻曲げることにも力を注がなくてはならない。次第に綻びが出てきた……」
何度も見る、白銀の獅子と出逢った夢。
十三の歳に初めて来た筈の谷に、幼い頃に来たような気がしていた……。
そんなことも、綻びのひとつなのだろうか……。
伯母さんがずっと、イオ良く思っていなかったことは?
口にしなかった問いに答えるように。
「お前の母親の眼にだけは、私は獣の姿に映ったらしい。白銀の毛、銀と青の瞳が、禍々しく。理由はわからない、夫を深く愛するが故か。──元々弱っていた身体は耐えき切れずに……」
「…………」
身体が弱く子どもの面倒も見れなかった母親のことは、まるで覚えていなかった。それでも、話を聞けばやはり辛かった。
「死の際にお前の伯母、リィナに話したようだ。リィナとお前の母親は姉妹仲が良く、外から来たお前の父親のことは良く思っていなかったようだ。妹の最期の言葉を信じたのだろう。私のことを酷く嫌っていた……」
長い長い話。
イオは疲れたのか、黙り込んだ。
そして、唐突に瑠璃の花の上に仰向けに寝転ぶと、トールの腕も引っ張って巻き込む。
美しい月を静かに眺めていた。
トールも、腕枕をされながら……。
つい流されそうになるが。
訊きたいことは、まだ、ある。
一番大事なこと。
トールは、抱え込まれるように自分の胸の辺りまで回された腕をゆっくりと外し、起き上がった。
イオの顔を覗き込む。
「……なんで……ボクを置いていったの……?」
何度目かの問いだった。
ふっ……と小さく溜息が漏れた。
「──フィーネだ。あの朝お前を起こす前に、フィーネが森で山犬に追いかけられているのを感じたんだ。急いで家を出たが間に合わなかった……フィーネはもう瀕死の状態だった」
と彼は言った。
「少しずつ綻んでも、お前が今の歳になるくらいまで、見守れると思っていた。でも、フィーネの怪我を治す為に──この銀の瞳を解放したんだ」
その瞳を厭うように、掌で覆い隠す。
「呪のかかった瞳を無理矢理抉じ開けた。神の力を使える本来の姿に戻り、フィーネを治癒した──彼女の怪我は命に関わる程酷く、軽症までにするのにはかなりの力を要した。人間の姿を保てないくらいに」
フィンが言っていた、不思議な夜の出来事。
あの白銀の獅子は、やっぱりイオだったんだ。
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