──緑に還る──

さくら乃

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第五章

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「ああ、さっきはたいした騒ぎだったね」
「天音くん見てたの?」
「うん。ここに入ろうと思ったら、ね。冬馬くんは眼の前を通っていったけど、僕らのことは全然見えてなかったみたいだね」

 冬馬は何も答えない。

「残念だなぁ。冬馬くんのお気に入りの石蕗秋穂くんとも、お話してみたかったのに。また今度紹介してね」
 空気読めないを装った軽い口調に、その場の温度が二、三度下がったような気がして、詩雨は背後のソファを見ることができなかった。
「天音くんっ」
 詩雨が怒った顔で天音を見ても、彼はにこにこするばかりだ。


「あ、そう言えばー、石蕗壱也くんのとりまきくんが一人、君たちの後をつけていったみたいだけど」
「え……?それって……」
 詩雨が言いかけて口を噤む。後ろに座っていた男が自分の隣に立ち、天音と向かい合っていたからだ。
「冬馬……」
「でも、部屋はオートロックで、カードキーは俺が持っています」
 焦りを隠して言う言葉は、自分に言い聞かせているようだった。
「冬馬くん、知らなかったの?ここ石蕗リゾート系列のホテルなんだけど」
「……忘れてた……」

 動揺と怒り。石蕗リゾートの次期社長であれば、客室の鍵を開けることができなくはないかもしれない。あくまで笑顔の天音をひと睨みすると、冬馬は走りだした。

「トーマ!」

 呼び止めるが振り向かない。そのまま見送り、詩雨も天音にきつい眼を向けた。
「天音くん!どうして、早く言ってくれなかったんだよっ。秋穂に何かあったら……」

 秋穂と壱也の間に何があるのか、冬馬は何も言わない。でも先程の様子を見れば、察することはできる。

「んー?そうだね、あのコが、どうにかなっちゃえばいいかな、なんて。── 僕が大事なのは詩雨くんだけだからね」
「え……」

 このひとは何を言っているのだろう。まるで楽しい話をしているかのように残酷なことを言うので、自分の耳がおかしくなったように思えた。天音の言うことは、時々理解できない。

「もし、あのコがいなければ、って思うこと──詩雨くんにも、あるだろ?」
「そんなわけ、あるかっ」

 意味深な笑みを浮かべている天音に食ってかかろうとして、朱音に止められる。
「詩雨、天音のことは放っておいていいから。早く行きなさい」
「あ、うん」


 朱音に急かされその場を後にする。部屋を出て辺りを見回しても、もう冬馬の姿は見えなかった。
「えーっと、オレ、これからどうしたらいい?」
 答えが返るはずもないが、つい口から零れてしまう。
( っていうか、オレが行ってどうにかなるのか? )
 しかし、冬馬のあの様子では何をするかわからない。
( とにかく、冬馬のところに、行くか )
 詩雨はスーツの内ポケットから携帯電話を出して、冬馬に電話をかけた。

( ──でない )
    
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