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第七章
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しおりを挟む細く開いた扉の隙間から、キスを交わす男女が見えた。
男は、背が高く均整のとれた体つきをしており、眼は切れ長で少し浅黒い精悍な顔立ちをしている。上質のスーツを少し乱して着ているところに男の色気が漂う。
女は ── いや、女のことはどうでもいい、と彼は思った。こんな場面は何度となく見ているし、たいがい女はいつも違う。
柑奈詩雨は小さく溜息をついて、軽くノックをした。女が慌てて離れるのが見えた。返事も聞かずに部屋に入ると、彼女は詩雨を睨みつけながら出ていった。
「おじゃまさま」
そう言いながら、手に持っていた封筒を冬馬のデスクに置いた。
「どうも」
まったく悪いとも思っていない詩雨と、羞恥の欠片も見せない橘冬馬。
「この前見た時は、違うオンナだったよなぁ?」
冬馬の乱れた襟許を直しながら言う。最後にネクタイをキュッと上げる。
「ほんのひと月くらい前の話だと思うけど?」
生粋の日本人とは違う薄い色の瞳は、濃い色のコンタクトレンズで覆われていたが、その何もかも見透かすような強い光は失ってはいない。慣れない人間には少し怖く感じるその視線をまともに受け、冬馬はやや高慢にも見える笑みを浮かべている。
「そうか?覚えてない」
そう嘯く。
「ふうん」
詩雨は小さく鼻を鳴らし、両腕を冬馬の首に絡めた。
「ただの性欲処理なら ── オレでも、いいんじゃね?」
白い肌に際立つ紅い唇が挑戦的に微笑する。
冬馬はそんな媚態にも惑わされない。
「お前、男じゃん」
悪戯っぽい顔で、拒絶。
( はあ?おまえがずっと想っている相手は、男でしょうがっっ )
声を上げそうになるが、我慢。ふと見ると、眼前の男はふざけた顔を引っ込め、真剣に自分を見つめていた。
「 ── 駄目だ、お前とは、しない」
その言葉に更にムッとするが、髪に優しく指を差し入れられると、黙って身を任せた。
──その癖は、まだ残ったままだ。
肩よりも少し長めの髪を、昔と変わらず紅い紐で結っている。しかしその髪は、陽に透けて金色に煌めいていた昔とは違う。瞳と同じく濃い色に塗り替えられている。
冬馬にはそれが少しだけ痛ましく思えた。
「お前のことは大事だ ── だから、しない」
その眼差しは温かい。それが詩雨には哀しい。その温かさは愛情ではあっても、恋情ではない。
( ──── そうだな、あの夏も、結局おまえはオレを抱いたりはしなかった。ただ、お互いの手で、した、だけ )
小さく溜息を漏らした。
「まあ……」
瞳に翳りを残したまま、にっと笑う。
「それはさておき」
自分から仕掛けておきながら、今までの展開をサラっと流した。
冬馬のデスクに置いた封筒を手に取り、中から四つ切サイズの写真を出す。
「この間の写真なんだけど──」
冬馬が受け取り、その数枚の写真を眺める。
「ああ、いいな。これでよろしく」
「りょーかい」
すっかりふたりとも仕事用の顔になる。
アパレルショップ《Citrus》のオーナー橘冬馬は、プロカメラマン《SHIU》に仕事を依頼していた。
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