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第十三章
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しおりを挟むこれから向かうのは積雪のある場所だ。途中のサービスエリアで、スタッドレスタイヤに履き替える。高速を降りてからは、目的地までの道をよく知る冬馬が運転した。
雪がちらつき始めていた。
白く染め上げられた木々の間を抜けると、見覚えのある屋敷が姿を現す。中学一年から高校一年までの夏を、共に過ごさせて貰った橘家所有の別荘。雪化粧で雰囲気は違って見えたが、間違いなくあの屋敷だった。
高一の夏を最後に、秋穂が訪れることはなかった。冬馬は自分で運転するようになってから、再び来るようになったという。夏だけではなく他の季節にも、独りになりたい時に訪れていた。
屋敷内は近くに住む管理人が、定期的に清掃や食料品などの補充をしており、いつでも快適に過ごせるように整えられていた。
身体はふたりとも冷えきっていた。秋穂は、冬馬の身体も湯で温めてあげたかった。しかし、傷にも障るし、何しろぐったりと疲れている様子だったので、とにかく早く休ませることにした。リビングで包帯を替え、別荘に常備してあった部屋着に着替えさせた。
夏の間、彼が常に使っていた一階のベッドルームに寝かせた後、秋穂はバスタブに溜めた湯に身を沈めた。そうすると、思ったよりも身体が冷えきっていたのだと感じた。身体が温まって落ち着くと、どっと疲れが出てきた。
( ……これから、いったい、どうしたら…… )
深い溜息が漏れる。湯から出した両手は温かいのに、小刻みに震えていた。
秋穂は冬馬の寝室に入ると、ベッドの傍らに立った。
眠っていると思っていた冬馬が眼を開け、身を起こした。疲れているはずなのだが、眠れないのかも知れない。
「眠れない?傷、痛む?」
冬馬を気遣いながら、ベッドの端に腰を下ろした。
冬馬はそれには答えず、秋穂の背に腕を回し、彼の膝の上に頭を載せた。ぎゅっと子どものように縋りつく。
( こんな冬馬、見たことないな…… )
彼の髪を撫でながら、酷く甘酸っぱい気持ちになる。今まで頼ってばかりの自分が、頼られるのが嬉しかった。
( こんな状況で不謹慎かな )
そんなことを考えていると、背に回っていた手が直に背筋を撫でているのに気がついた。びくっとして視線を下に向けると、熱の籠った瞳とぶつかった。
「冬馬……?」
冬馬の唇がゆっくりと腹から胸へと這い上がってくる。胸で留まり秋穂の弱い部分を、布越しに甘噛みした。
「あ……っ」
背筋にびりっと電流が流れるような感覚がし、思わず声を上げそうになるのを、慌てて自分の手で押さえた。
その手を冬馬が退かし唇で塞いだ。その間も彼の両手は、秋穂の身体を這い回っていた。唇は離れては塞ぎ、塞いでは離れるを繰り返す。
秋穂は唇が離れる度に、彼の行為を止める言葉を言う。
「だめ、だめだよ。冬馬、傷に障る」
こんな時に、とは思わない。たぶん神経が昂っているのだろう。そして、とても不安に違いない。何かに縋りつきたいくらいに。
だけど。やっと血の止まりかけた傷が、激しい行為に耐えられるのか。
「冬馬……。わかったよ。でも、冬馬は動いてはだめだよ ── 僕が、するから」
秋穂は彼を優しく横たわらせ、自身の衣服はすべて取り去りベッドの脇に落とした。なるべく傷に触れないよう、冬馬の服は下だけを脱がした。
やはりここに来るまでずっと気が昂っていたのだろう。冬馬の露になったそこは、既に半勃ちになっていた。
秋穂はそれを何度か舐め上げた後、口に含んだ。その行為は壱也にも強要され、何度かしたことがあるが、自分からしようとはけして思わなかった。
だけど、冬馬は別だ ── これまでずっと、冬馬に甘やかされてきた。だから今日は、冬馬に何でもしてあげたい。
( 最後かも知らないから )
誰かが耳許で囁いたように、突然脳裏を過った言葉だった。
( あれ、なんでこんなこと、思ったんだろう )
ふっと形にならない不安に駆られ、それを振り切るように行為に没頭した。
次第に秋穂の口の中のものは硬さを増し、熱い吐息が漏れ始めた。冬馬が感じてくれているのが嬉しくて、先程の形にならないもやもやは霧散し、その行為に夢中になった。そして、冬馬を受け入れる為に、秘められた場所を自分で解し始めた。
「アキ……」
熱い吐息と共に名を呼ばれ、彼の両手が秋穂の腰に触れる。優しく、しかし強い力で後ろに引かれ、秋穂に替わって今度は彼の指と舌が慣らし始めた。しばらく互いを愛しみ合った。
「冬馬……もう……」
乱れた息を漏らして、秋穂はゆっくりと上体を起こす。一旦身体を離すと、横たわる男の上に跨がった。そして自分の内に彼を迎え入れた。それはとても苦しくて、すべてを飲み込むことができないまま、ゆるゆると身体を揺らす。
( このまま、ずっと、繋がっていたい。ふたり溶け合って、ひとつになってしまえればいいのに )
身体を反らし動きながら、また先程の形にならない不安が頭をもたげた。
**
水底のような仄暗い部屋の中で、白い魚のようにゆらゆらと動く裸体を、少し苦しげな何故か切なげな顔を、酷く美しい、と冬馬は思った。
同時にゆったりとしたその動きはもどかしく、現実感のない彼の姿は不安を煽り、もっと自分に繋ぎ止めたいという想いに駆られる。冬馬はふいに起き上がり、繋がったままで体制を入れ替えた。
秋穂はもうそれを止めない。今は何も考えたくない、この不安を吹き飛ばして欲しいと、切に願った。彼の首に腕を回して縋りつき、冬馬に激しく揺さぶられ続けた。
ふと気がつくと、秋穂の身体を抱き締めたまま眠る男の顔が、すぐ傍にあった。ふたりとも裸のままだったが、後始末はされているようだった。
( また意識とんだ…… )
恥ずかしさもあったが、心は満たされていた。
起き上がって窓の方を見ると、別荘に着いた頃よりも強く雪が降っていた。雪の中にすべての音が吸収されてしまうかのように、しんと静まり返っている。
冬馬の寝息が聞こえる。彼の少しやつれた寝顔を見つめた。
( よかった……やっと眠れたね )
起こさないよう、そっと彼の髪を撫でてから、再び傍らに潜り込み眼を閉じた。
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