蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

文字の大きさ
29 / 72
第3章:星皇の重い愛

第8話:外道スライム

しおりを挟む
 崑崙山クンルンシャンの麓に出来上がったクレーター内は初夏の熱を生み出していた。そこをグリーンフォレスト国の1軍と聖地の生き残りたち、総数3000余りの一団が何事もなく進み続ける。最初はおっかなびっくりと言った感じであったが、魔物モンスターの襲撃も無く、皆の足取りは段々と軽やかになっていく。

「これが星皇様からアリス殿に贈られプレゼントということか。これをハイヨル混沌軍団が破壊しようとして、このような大惨事が起きたとは……」

「え、ええっ。そうなのっ! アリスの存在を危険視したハイヨル混沌が破壊しようとしたのですわっ!」

 横5ミャートル、縦3ミャートル、高さ3ミャートルの金属製の箱を前にして、クォール=コンチェルト第1王子が苦々しい表情でハイヨル混沌に対しての文句を言ってみせる。しかしながら、事情を知っているベル=ラプソティは彼の感情に無理やり合わせることで、真実を知られないようにと務めるのであった。

「表面はかなり焼け焦げていますけどォ。中身の方は大丈夫なのでしょうかァ?」

 念のため、金属製の箱から15ミャートルほど離れた位置にいるクォール=コンチェルト第1王子たちの中でも、その金属製の箱に興味津々といった感じのカナリア=ソナタがそう呟く。彼女は赤縁あかぶち眼鏡に仕込まれている魔力残量確認石マジック・チェッカーで、中身が壊れていないか確かめてみる。

 しかし、金属製の箱の中身がどうなっているかの確認は出来なかった。金属製の箱がそもそも、そういった認識系の魔術を阻害する仕掛けを施されている。確かにそこにあるのだが、存在感が希薄であった、その金属製の箱は。

「むむゥ……、箱を開けてみないと、何が入っているのかわかりません。アリス様へのプレゼントなので、危険は無いと思うのですがァ」

「了解しまシタ。ボクが箱を開けマス。星皇様のことなのでイタズラを仕込まれている可能性を否定できまセンノデ」

 アリス=ロンドはそう言うと、無警戒に近い形で横5ミャートル、縦3ミャートル、高さ3ミャートルの金属製の箱へとテクテクと歩いていく。ベル=ラプソティとカナリア=ソナタは何が起きても良いようにと、クォール=コンチェルト第1王子の後ろへと隠れる。

「何かとんでもない仕掛けが施されてたら、アリスを援護するわよっ」

「説得力がまるで皆無ですけどォ。クォール様を盾にしながら、どうにかするのですゥ」

 クォール=コンチェルト第1王子としては苦笑する他無かった。女性レディが2人、自分の背中の方へ回り込み、グイグイと後ろから押してくる。ノーマルな性的指向を持つ者なら喜ばしい状況であるのだが、クォール=コンチェルト第1王子は、こうしてくれるのがアリス殿であれば良かったのにと思わざるをえなくなる。

「あっ。これはダメデス。ベル様、お下がりくだサイ。罠を仕掛けれれていまシタ」

「えっ、どういうことですの!?」

 ベル=ラプソティは最初、星皇がまた何かしでかしたのかと思ったが、金属製の箱からは真っ黒なオーラが立ち昇ったことで、星皇の仕業でないこをいち早く察する。しかしながら、ベル=ラプソティはアリス=ロンドを援護する前に、アリス=ロンドは金属製の箱から発せられた黒いオーラに身体をすっぽりと包み込まれてしまうのであった。

 黒いオーラは実のところ、物体であった。ネバネバとした粘液がアリス=ロンドに絡みつき、ジュウジュウとまるで肉を焼くような音が辺りに響き渡る。その音を聞き、カナリア=ソナタはクォール=コンチェルト第1王子の背中側から飛び出そうとしていたベル=ラプソティを羽交い絞めにして、アリス=ロンドに近づかないようにと、無理やりにベル=ラプソティを止めてしまう。

「アレに近づいてはいけないのですゥ! 悪魔の中でも最下位に位置する悪魔ですけど、アレは危険すぎるのですゥ!」

「ちょっとっ! わたくしでもそんな低位な悪魔相手に遅れを取るわけがないでしょ!?」

「アリス様の御姿をしっかりと見るのですゥ! 超一級天使装束と言えども、溶けだしているのですゥ! アレは外道スライムなのですゥ!」

 ベル=ラプソティは『外道スライム』という言葉を聞き、ビクッ! と身体を震わせて、その場で立ち止まることになる。その悪魔は外道という言葉がお似合いすぎる悪魔であった。戦闘力自体はとんでもなく低く、怨霊の軍勢レギオンを相手にするよりかは、遥かに倒しやすい悪魔であった。

 しかし、外道スライムと『外道』がわざわざ名前についている理由は、かの悪魔が着ている衣服や鎧をその粘液で溶かしてしまうことにある。都合の良いことに、肉の身を溶かすわけではないゆえに、人畜無害の悪魔ではあるが、衣服や鎧を溶かす以上、女性にとっては天敵以外の何者では無い。

 そして、外道スライムに溶かせぬ衣服や鎧など無いと言っても過言ではない。現にアリス=ロンドの身を包んでいる超一級天使装束すら、ボロボロの布切れへとあっという間に変換されていく。ここまでの時間は1分も経っていないというのに、アリス=ロンドの身を護っている超一級天使装束の4割近くが溶けてなくなってしまっていた。

 超一級天使装束でこれなら、それに劣る戦乙女ヴァルキリー・天使装束を着込んでいるベル=ラプソティならば、どうなるかなど、容易く想像がついた。超一級天使装束でアレなら、戦乙女ヴァルキリー・天使装束など、流水の中にティッシュペーパーを突っ込んだ如くに、一瞬でズタボロにされてしまうのは自明の理であった。

 それゆえに、アリス=ロンドを手助けすることに躊躇してしまうベル=ラプソティとカナリア=ソナタであった。アリス=ロンドは手足をばたつかせ、自分の身体に纏わりつく外道スライムを剥がそうと暴れ回る。しかし、そうすればそうするほど、外道スライムは喜びを感じ、アリス=ロンドに絡みつく。さらには腸一級天使装束が溶けて、肌が露出している部分にピタリとくっつき、アリス=ロンドの毛穴に侵食を開始しようとする。

 しかしながら、外道スライムと言えども、アリス=ロンドが頭に被っているオープン型フルフェイス・ヘルメットと彼女の股間を覆うオリハルコンの糸が織り込まれた革製のョーツを溶かすことは出来なかった。外道スライムはヒトの衣服を溶かし切ったあとは、穴という穴を蹂躙し、辱めを与えようとする悪魔だ。だが、それを為すことが出来ず、ついに憤慨してしまう。

「すごいのですゥ。さすがは腸一級天使装束なのですゥ。アリス様はあの状態から外道スライムに抗っているのですゥ!」

 カナリア=ソナタは素直にアリス様が身につけている超一級天使装束の防御力に感心せざるをえなかった。今や、アリス様はヘルメットを被り、パンツ一丁姿という、どこをどう見てもただの変態姿だというのに、それ以上の浸食を決して許そうとはしなかったのだ。こればかりはカナリア=ソナタはアリス様を羨ましいとしか感じられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...