蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

文字の大きさ
58 / 72
第6章:眠れぬ夜

第7話:醜い争い

しおりを挟む
 ベル=ラプソティはカナリア=ソナタのその一言で、肩をがっくしと落とし、さらには蓄積した疲労感でその場から動けなくなってしまう。クォール=コンチェルト第1王子を襲っている女性淫魔サッキュバスが似せている姿が誰かなど、確認しなくてもわかるからだ。そして、その女性淫魔サッキュバスを視認した途端、アリス=ロンドがベル=ラプソティの許可無くフルバースト・エンジェルモードへと移行してしまうことも自明の理であった。

「こんな時、どんな顔すれば良いのかわからないわ」

「失笑しておくのが一番だと思うのですゥ……。って、あれれ? クォール殿下が居ると思われる天幕から女性淫魔サッキュバスが飛び出してきましたよォ?」

 数ある天幕のひとつから天幕の入り口を覆っている布を跳ね上げて、飛び出してきた小柄な女性淫魔サッキュバスが居た。そして、その姿はアリス=ロンドに瓜二つであり、やっぱりね……と思うしかないベル=ラプソティであった。

 しかもだ。その女性淫魔サッキュバスを追って、天幕から飛び出してきたのがクォール=コンチェルト第1王子、そのひとであった。しかも、かなり立腹しているらしく、尻餅をついているアリス=ロンド似で裸体の女性淫魔サッキュバスに向かって、銀色に輝く長剣ロング・ソードの切っ先を突きつけている。

「俺のアリスたんを侮辱しおってぇぇぇ!! アリスたんにおちんこさんがついてないとはどういうことだっ! 女性淫魔サッキュバスたるもの、男の娘のオーダーをしっかりとその身体で示せっ!」

 ベル=ラプソティは身体全体から力が抜けていくのを止めることは出来ず、その場で膝から崩れ落ちることになる。カナリア=ソナタは、アハハ……と失笑する他無かった。そして、立腹して当然であるはずの本物のアリス=ロンドは意外なことに冷静であった。

「可愛らしい男の娘だと思った? ざんね~ん。女の子でしたぁぁぁ! って奴デスネ。ちょっとだけクォールに同情しマス。ちょっとだけですケド」

 アリス=ロンドとしては自分の姿に似せていようが、おちんこさんが付いてない時点で、それが自分とは似ても似つかぬ女性淫魔サッキュバスだという認識であった。それゆえにその女性淫魔サッキュバスをクォール=コンチェルトが蹂躙しようが知ったこっちゃないというのがアリス=ロンドの本音である。

「アリス。わたくしはどっと疲れがでましたことよ。クォール殿下に女性淫魔サッキュバスを退治してもらうのは無理だから、アリスが浄化してちょうだい」

「わかりまシタ。クォールが半狂乱になっている姿を見ているだけでも、嬉しいのですが、女性淫魔サッキュバスが必要以上に痛めつけらるのも見ていて忍びないですカラ」

 悪魔を光で浄化できるのは天使だけである。いくら低級の低級である悪魔と言えども、ニンゲン如きに命まで取られることはない。それゆえにクォール=コンチェルトが眼の前の女性淫魔サッキュバスを散々に痛めつける残虐行為に走る前に、女性淫魔サッキュバスを光の向こう側へと送ってしまおうとするアリス=ロンドであった。

 しかし、アリス=ロンドがそうしようとした間際、アリス=ロンドに似た女性淫魔サッキュバスの身体から魔素が噴き出し、アリス=ロンドは短めの短剣ダガーを振るうのを止めて、バックステップを繰り返し、女性淫魔サッキュバスから物理的に距離を開けることになる。

「ワレをいたずらに傷つけようとするのならば、ワレも本気を出そうゾっ!」

 窮地に追いやられた女性淫魔サッキュバスは悪魔としての真価を発揮する。両足が溶けるように交わり合い、それは蛇の同体となる。上半身はアリス=ロンドに似ていたが、下半身は蛇の姿となる。さらには両手の先から長い爪が伸び、その爪で半狂乱となっているクォール=コンチェルト第1王子を串刺しにしてしまおうとする。

 クォール=コンチェルト第1王子はさすがは凱旋王の長子なだけはあり、不意打ちに似た女性淫魔サッキュバスの反撃であったが、右手に持つ銀色に輝く長剣ロング・ソードで致命の一撃を切り払ってみせる。

「すごいわね。女性淫魔サッキュバスからラミアへと昇格した悪魔の一撃を払いのけてみせたわよ? クォール殿下の評価を少しだけ上げないとダメかしら?」

 ベル=ラプソティは素直に今のクォール=コンチェルト第1王子の反応の良さを褒めてみせる。女性淫魔サッキュバスは怒りにより、低級の低級から低級の上位ほどの悪魔へと進化してみせた。それなのにクォール=コンチェルト第1王子は自分の身に突き立てられてくる鋭い爪をこれでもかと、銀色に輝く長剣ロング・ソード1本でかち上げ、打ち払い、さらには叩き落としてみせる。

 クォール=コンチェルト第1王子の勇ましい姿に惚れ惚れとしてしまうのがマリーヤ=ポルヤノフであった。うっとりとした表情でラミアとクォール=コンチェルト第1王子の醜い争いを観戦し続けていた。

 何故、醜い争いかと言えば、ラミアと化した女性淫魔サッキュバスとクォール=コンチェルト第1王子が口汚く互いを罵りあっていたからだ。クォール=コンチェルトとしては、素敵な淫夢を見せてくれるはずの女性淫魔サッキュバスにおちんこさんがついていなかったことへのクレームを。女性淫魔サッキュバスとしては、特殊な性的指向に関して、いちいち細やかに対応してられるかっ! という文句である。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからずという言葉がある。悪魔と天使は長い年月を血で血を洗う戦いをしてきた。それゆえに相手がどんな特徴を持っているかを知り尽くしているとも言って良い。そして、ベル=ラプソティたちはインキュバスや女性淫魔サッキュバスがどのような存在であるかも重々承知であった。

「時代も変わったってことかしら? 客のクレームに近い注文ですら、女性淫魔サッキュバスは喜んで承りまししたっ! って頭を下げるべきなの?」

「あたしが女性淫魔サッキュバスなら、そもそもそんな面倒くさいヒトを客として選ばないのですゥ。サービスを提供する側がお客様は神様だとのたまうよりかは、ターゲットとする客層を明確に絞ったほうが色々と効率的ですし、利益もしっかりと出るのですゥ」

 カナリア=ソナタの的確すぎる指摘になるほどと思ってしまうベル=ラプソティであった。今の性的指向が何かしらの理由で捻じ曲がってしまっているクォール=コンチェルト第1王子に近づいたこと自体が間違いだったのだ、ラミアへと進化した女性淫魔サッキュバスは。それに関して、ラミアに助言したいベル=ラプソティたちであったが、そもそもとして、醜い争いが終わりを告げる気配もない。

 ベル=ラプソティはやれやれと身体の左右に両腕を広げる仕草をした後、ギャラリーが集まり始めたのをきっかけとして、アリス=ロンドにラミアの相手をするようにと指示を出す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

処理中です...