蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

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第7章:淫蕩の王

第9話:村正

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 ベル=ラプソティはマリーヤ=ポルヤノフを伴い、走りに走り、アスモウデスの所まで辿り着く。そこではコッシロー=ネヅが神聖なブレスを吐き、アスモウデスがこれ以上、インキュバスと女性淫魔サッキュバス、ラミアを生み出さないように努めていた。しかし、アスモウデスの残された身体からあふれ出す血が津波と化して、周囲へとばらまかれようとしていた。

「コッシロー、お待たせっ! 援軍を連れてきたわよっ!」

「ベル様、気は済んだッチュウか!? って、援軍って、マリーヤさんなのでッチュウ!?」

 コッシロー=ネヅは援軍と聞き、まず第1にグリーンフォレスト国の兵士たちを束ねるクォール=コンチェルト第1王子のことだと思った。だが、ベル=ラプソティの隣に立っているのはクォール=コンチェルト第1王子ではなく、マリーヤ=ポルヤノフであった。コッシロー=ネヅは驚きの表情をその顔に浮かべるが、マリーヤ=ポルヤノフが腰の左側に佩いている鞘から禍々しいオーラを纏う一本のカタナを抜き出したことで、驚愕の表情へと移り変わる。

「今宵の村正は血を求めているのじゃ。ラミア如き、斬り伏せてくれようぞっ!」

 マリーヤ=ポルヤノフは『村正』と呼ばれるカタナの柄を両手で握りしめると、それを上段構えにし、アスモウデスまでの壁となっているラミアの一匹を一刀両断にしてしまう。そして、返す刀で斜め下から斜め上へと振り上げ、その隣のラミアをまたしても一刀両断してしまう。

 これにはベル=ラプソティもヒュゥ! と感嘆の口笛を吹いてしまうことになる。デーモン狩人ハンターと言えども、ピンからキリまであり、低級の低級程度のインキュバスや女性淫魔サッキュバス相手くらいしか出来ないだろうとタカを括っていたというのに、ラミアを倒せるとなれば、こちらとしても計算しやすくなる。

 ベル=ラプソティもマリーヤ=ポルヤノフに負けじと、ラミアの大軍という壁に穴を開けようとする。大剣クレイモアほどの大きさがある帆先を持つ光槍をブンブンと上下左右に振り回し、マリーヤ=ポルヤノフと共に、バッサバッサととラミアを斬り伏せていく。

 ラミアの大軍はこの異常事態に対して、集結し始め、その肉体を肉壁として、ベル=ラプソティたちの前へと立ちふさがる。ベル=ラプソティたちが斬っても斬っても、アスモウデスの残された身体から津波のように流れ出る血液がラミアと化し、糠に釘といった状態へと押しやられることになる。

「いったい、何匹、斬り伏せたら、この壁に穴が開くのよっ!」

「あたしの計算では、あと100匹ほど倒してくれれば、アスモウデスにトドメの一撃を入れられるはずなのですゥ!」

「そんな冷静な計算なんて、今はいらないわよっ! マリーヤ、あんたが50で、わたくしが50ねっ!」

「それはあちきの負担が大きすぎやしないかえ!? あちきは言っても、ただの半狐半人ハーフ・ダ・コーンなのじゃぞ!?」

 ベル=ラプソティがカナリア=ソナタに文句を言いつつ、同時にマリーヤ=ポルヤノフに無茶振りをするという高等口述を繰り出す。実際のところ、コッシロー=ネヅはラミアという物理的な肉壁に穴が開いたと同時に、肺の中に貯めに貯めた神聖なブレスをアスモウデスのコアに向かって、吹き付けなければならない。それゆえに、コッシロー=ネヅに加勢してもらうことが出来ない今、ベル=ラプソティが頼るべきパートナーはマリーヤ=ポルヤノフだけである。

 文句を言ったというのに、まるっきりこちらに返答をしてくれないベル=ラプソティに対して、憤りを感じてしまうマリーヤ=ポルヤノフであったが、自分が死力を尽くさなければならないのは、ベル=ラプソティの真剣な顔つきを横で見ていても察することが出来た。マリーヤは意を決し、村正を握る両手に再度、力を込め直し、これでもかとラミアを斬り伏せていく。

「どうじゃっ! 50は切り伏せたぞっ!」

「じゃあ、あと50追加ねっ! これだから、カナリアの計算はここぞって時に役に立たないのよっ!」

「あたしのせいにされても困りますゥ! アスモウデスの抵抗が予測よりも激しくなってしまっただけなのですゥ!」

 いくさが予想通りに運ぶことは稀である。ラミアの大軍の壁を開けようとすればするほど、アスモウデスに一歩、また一歩、近づけば近づくほど、アスモウデスは抗いを見せる。アスモウデスの身体から生み出されるラミアは、その形を歪ませてしまっているほどに、急造のモノに変化していた。腕を欠損しているだけならまだしも、頭すらも無いラミアが蛇の下半身をのたうち回せながら、アスモウデスとベル=ラプソティたちの間に割って入ってきて、肉壁となったのである。

 こればかりは、いくらカナリア=ソナタだとしても計算外、甚だしいモノであった。いっそ、コッシロー=ネヅに出来損ないのラミアを神聖なブレスで一掃してほしいくらいであった。それほどまでに形が歪んだラミアばかりになってしまっていたのである。しかし、これはさすがにアスモウデスの誘いだと思えてしょうがないカナリア=ソナタであった。

 もしもの話ではあるが、アリス=ロンドが戦闘可能であれば、コッシロー=ネヅが肺の中に貯め込んでいる神聖なブレスをラミアの大軍に向かって吐き出しても良かったのだ。それで無防備となってしまうアスモウデスにトドメの一撃を与えるのがアリス=ロンドに変わるだけである。

 だが、未だにアリス=ロンドは地に伏したままである。超一級天使装束に蓄えられている神力ちからのほとんどを出し尽くして、戦闘不能となってしまっていた。しかし、アリス=ロンドなら、そんな状態でもアスモウデスにトドメの一撃を与えてくれる気がしてくれてたまらないカナリア=ソナタである。カナリア=ソナタは正直なところ、もう一手、こちらに欲しくてたまらなかったのだ。

 その一手がアリス=ロンドの命に係わることだとしても、アリス=ロンドはそれを了承してくれると思ってしまう。しかし、それを拒否するのが自分のあるじだろうとも同時に思ってしまうカナリア=ソナタであった。

(ベル様がアリス様に無茶振りしないのは、ベル様もアリス様ならそうすると思ってのことなんですゥ。ずっとマリーヤさんを酷使しているのが逆説的にそれを物語っているのですゥ)

 カナリア=ソナタのその予感は当たっていたと断言して良いだろう。ベル=ラプソティはマリーヤ=ポルヤノフに対して、散々にはっぱをかけて、共にその手に握る武器を振るわせていた。肩でぜえぜえはあはあと息をしている2人であったが、ごっくんと息を飲み込み、ふっ! と息を噴き出し、またしてもラミアたちに槍を馳走していく。

「カナリアっ! わたくしたちはあと何匹、ラミアを斬り伏せたら良いの!?」

「いい加減、そろそろ限界なのじゃっ! 村正が悲鳴をあげ始めているのじゃっ! このままではアスモウデスに近づくことすら出来ぬのじゃっ!」
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