蒼星伝 ~マッチ売りの男の娘はチート改造され、片翼の天使と成り果て、地上に舞い降りる剣と化す~

ももちく

文字の大きさ
70 / 72
第7章:淫蕩の王

第9話:村正

しおりを挟む
 ベル=ラプソティはマリーヤ=ポルヤノフを伴い、走りに走り、アスモウデスの所まで辿り着く。そこではコッシロー=ネヅが神聖なブレスを吐き、アスモウデスがこれ以上、インキュバスと女性淫魔サッキュバス、ラミアを生み出さないように努めていた。しかし、アスモウデスの残された身体からあふれ出す血が津波と化して、周囲へとばらまかれようとしていた。

「コッシロー、お待たせっ! 援軍を連れてきたわよっ!」

「ベル様、気は済んだッチュウか!? って、援軍って、マリーヤさんなのでッチュウ!?」

 コッシロー=ネヅは援軍と聞き、まず第1にグリーンフォレスト国の兵士たちを束ねるクォール=コンチェルト第1王子のことだと思った。だが、ベル=ラプソティの隣に立っているのはクォール=コンチェルト第1王子ではなく、マリーヤ=ポルヤノフであった。コッシロー=ネヅは驚きの表情をその顔に浮かべるが、マリーヤ=ポルヤノフが腰の左側に佩いている鞘から禍々しいオーラを纏う一本のカタナを抜き出したことで、驚愕の表情へと移り変わる。

「今宵の村正は血を求めているのじゃ。ラミア如き、斬り伏せてくれようぞっ!」

 マリーヤ=ポルヤノフは『村正』と呼ばれるカタナの柄を両手で握りしめると、それを上段構えにし、アスモウデスまでの壁となっているラミアの一匹を一刀両断にしてしまう。そして、返す刀で斜め下から斜め上へと振り上げ、その隣のラミアをまたしても一刀両断してしまう。

 これにはベル=ラプソティもヒュゥ! と感嘆の口笛を吹いてしまうことになる。デーモン狩人ハンターと言えども、ピンからキリまであり、低級の低級程度のインキュバスや女性淫魔サッキュバス相手くらいしか出来ないだろうとタカを括っていたというのに、ラミアを倒せるとなれば、こちらとしても計算しやすくなる。

 ベル=ラプソティもマリーヤ=ポルヤノフに負けじと、ラミアの大軍という壁に穴を開けようとする。大剣クレイモアほどの大きさがある帆先を持つ光槍をブンブンと上下左右に振り回し、マリーヤ=ポルヤノフと共に、バッサバッサととラミアを斬り伏せていく。

 ラミアの大軍はこの異常事態に対して、集結し始め、その肉体を肉壁として、ベル=ラプソティたちの前へと立ちふさがる。ベル=ラプソティたちが斬っても斬っても、アスモウデスの残された身体から津波のように流れ出る血液がラミアと化し、糠に釘といった状態へと押しやられることになる。

「いったい、何匹、斬り伏せたら、この壁に穴が開くのよっ!」

「あたしの計算では、あと100匹ほど倒してくれれば、アスモウデスにトドメの一撃を入れられるはずなのですゥ!」

「そんな冷静な計算なんて、今はいらないわよっ! マリーヤ、あんたが50で、わたくしが50ねっ!」

「それはあちきの負担が大きすぎやしないかえ!? あちきは言っても、ただの半狐半人ハーフ・ダ・コーンなのじゃぞ!?」

 ベル=ラプソティがカナリア=ソナタに文句を言いつつ、同時にマリーヤ=ポルヤノフに無茶振りをするという高等口述を繰り出す。実際のところ、コッシロー=ネヅはラミアという物理的な肉壁に穴が開いたと同時に、肺の中に貯めに貯めた神聖なブレスをアスモウデスのコアに向かって、吹き付けなければならない。それゆえに、コッシロー=ネヅに加勢してもらうことが出来ない今、ベル=ラプソティが頼るべきパートナーはマリーヤ=ポルヤノフだけである。

 文句を言ったというのに、まるっきりこちらに返答をしてくれないベル=ラプソティに対して、憤りを感じてしまうマリーヤ=ポルヤノフであったが、自分が死力を尽くさなければならないのは、ベル=ラプソティの真剣な顔つきを横で見ていても察することが出来た。マリーヤは意を決し、村正を握る両手に再度、力を込め直し、これでもかとラミアを斬り伏せていく。

「どうじゃっ! 50は切り伏せたぞっ!」

「じゃあ、あと50追加ねっ! これだから、カナリアの計算はここぞって時に役に立たないのよっ!」

「あたしのせいにされても困りますゥ! アスモウデスの抵抗が予測よりも激しくなってしまっただけなのですゥ!」

 いくさが予想通りに運ぶことは稀である。ラミアの大軍の壁を開けようとすればするほど、アスモウデスに一歩、また一歩、近づけば近づくほど、アスモウデスは抗いを見せる。アスモウデスの身体から生み出されるラミアは、その形を歪ませてしまっているほどに、急造のモノに変化していた。腕を欠損しているだけならまだしも、頭すらも無いラミアが蛇の下半身をのたうち回せながら、アスモウデスとベル=ラプソティたちの間に割って入ってきて、肉壁となったのである。

 こればかりは、いくらカナリア=ソナタだとしても計算外、甚だしいモノであった。いっそ、コッシロー=ネヅに出来損ないのラミアを神聖なブレスで一掃してほしいくらいであった。それほどまでに形が歪んだラミアばかりになってしまっていたのである。しかし、これはさすがにアスモウデスの誘いだと思えてしょうがないカナリア=ソナタであった。

 もしもの話ではあるが、アリス=ロンドが戦闘可能であれば、コッシロー=ネヅが肺の中に貯め込んでいる神聖なブレスをラミアの大軍に向かって吐き出しても良かったのだ。それで無防備となってしまうアスモウデスにトドメの一撃を与えるのがアリス=ロンドに変わるだけである。

 だが、未だにアリス=ロンドは地に伏したままである。超一級天使装束に蓄えられている神力ちからのほとんどを出し尽くして、戦闘不能となってしまっていた。しかし、アリス=ロンドなら、そんな状態でもアスモウデスにトドメの一撃を与えてくれる気がしてくれてたまらないカナリア=ソナタである。カナリア=ソナタは正直なところ、もう一手、こちらに欲しくてたまらなかったのだ。

 その一手がアリス=ロンドの命に係わることだとしても、アリス=ロンドはそれを了承してくれると思ってしまう。しかし、それを拒否するのが自分のあるじだろうとも同時に思ってしまうカナリア=ソナタであった。

(ベル様がアリス様に無茶振りしないのは、ベル様もアリス様ならそうすると思ってのことなんですゥ。ずっとマリーヤさんを酷使しているのが逆説的にそれを物語っているのですゥ)

 カナリア=ソナタのその予感は当たっていたと断言して良いだろう。ベル=ラプソティはマリーヤ=ポルヤノフに対して、散々にはっぱをかけて、共にその手に握る武器を振るわせていた。肩でぜえぜえはあはあと息をしている2人であったが、ごっくんと息を飲み込み、ふっ! と息を噴き出し、またしてもラミアたちに槍を馳走していく。

「カナリアっ! わたくしたちはあと何匹、ラミアを斬り伏せたら良いの!?」

「いい加減、そろそろ限界なのじゃっ! 村正が悲鳴をあげ始めているのじゃっ! このままではアスモウデスに近づくことすら出来ぬのじゃっ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...