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第6章:救世主
第7話:質量ある残像
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コッシロー=ネヅは口に空気を吸い込み、それをミスト状にして口から吐き出す。そのミストが光線を弾く防御結界となり、アンドレイ=ラプソティが穴だらけになるのを防ぐ。アンドレイ=ラプソティは軽くコッシロー=ネヅに感謝を伝えると、アリス=アンジェラを襲おうとしている救世主を追いかけようとする。
だが、救世主は後ろを振り向かずに、アンドレイ=ラプソティに向かって、背中から光り輝く短剣群を発射する。アンドレイ=ラプソティは驚きの余りに眼を見開くことになるが、飛んできた短剣群を紅き竜の槍を振り回すことで叩き落とす。
だが、その救世主と呼吸を合わせるようにまたしても預言者からの横槍を入れられてしまうアンドレイ=ラプソティであった。どうあっても救世主と預言者はアリス=アンジェラとアンドレイ=ラプソティを物理的に離そうとしていることは明白であった。アンドレイ=ラプソティは預言者であるサラーヌ=ワテリオンに注視せざるをえなくなる。
救世主はクックックッ……と不敵な笑みを零しながら、アリス=アンジェラに近づいていく。しかしながら、その2人の間に割って入ったのがベリアルであった。ベリアルは死神の大鎌を現出させており、その柄を右肩に預けていた。しかしながら、救世主はアリス=アンジェラに向かって歩くのを止めず、ベリアルはチッ! と思わず舌打ちしてしまう。
「気に喰わねえなあ!? 『七大悪魔』のひとり、『怠惰』のベリアル様と知っての狼藉か!?」
ベリアルは死神の大鎌の柄を両手で持って、それを振り回す。死神の大鎌の刃部分には紫色の呪力が纏わりついている。その紫色の呪力に触れるだけで、肉が腐り、骨が溶けてしまいそうなイメージがつきまとった。
だが、救世主はまったくもって恐れを知らぬ態度を貫く。振り下ろされてくる死神の大鎌に対して、右手に持つ光り輝く長剣をかち合わせようともしない。舐められたものだと感じたベリアルは救世主を横薙ぎに切り払ってしまおうとする。
その時であった。ベリアルは手応えありと感じたのだが、ベリアルが死神の大鎌で薙ぎ払ったのは質量ある残像であったのだ。救世主は決して七大悪魔のひとりであるベリアルを舐めていたわけではない。その証拠に彼が右手に持つ赦しの光から神力を引き出し、『奇跡』を起こしていたからだ。
赦しの光が持つ神力とは、使用者の速度と加速度を100倍に増すことであった。ベリアルですら感知できぬほどのスピードを得た救世主はその場に質量ある残像を残したのである。そのカラクリに気づいたベリアルは首級を上下左右に振り回す。
ベリアルの視界には救世主の残像が10体、映ることになる。どの残像も輪郭がぼやけており、そこには救世主の本体が居ないことは明白であった。本体が残した残像がベリアルをおおいに惑わすことになる。ベリアルが感知できるかどうかのギリギリのスピードで救世主が動いているために、ベリアルの眼の端に残像がどうしても映ってしまう。
これなら、いっそ、眼で追えないほうがマシであった、ベリアルにとっては。眼で追えないとしても『勘と経験』で救世主の現在位置を特定できるほどに、ベリアルは戦闘の熟練者であった。それゆえにか、ちらちらと眼に残る救世主の残像がうっとおしいと思ってしまうベリアルであった。
そんなベリアルをさらに惑わせようとしたのが救世主であった。救世主は移動する際に、その場その場で数本の光り輝く短剣をベリアルに向かって、投げつけたのである。もちろん、これは目くらましという意味が強く、その短剣群で、ベリアルをどうこうしようしたわけではない。
赦しの光による致命の一撃をベリアルに確実に入れるための布石とも言えた、光り輝く短剣群は。そして、ベリアルも救世主の狙いに気づいていた。ベリアルの周囲に救世主の残像が増えていく。それに伴い、ベリアルの身に向かってくる短剣の数も増えていく。救世主の残像が30を超えると共に、飛んでくる短剣の数も100を超え始めていた。
ベリアルは両手で持つ死神の大鎌を巧みに動かし、飛んでくる短剣のことごとくを打ち払う。しかし、ついに短剣の数本がベリアルの背中に突き刺さり、ベリアルはその場で片膝をつくことになる。救世主は勝機が見えたと思い、ベリアルの背中側から兜割りを行おうとする。
「待っていまシタ。さすがは怠惰のベリアル様なのデス。シャイニング・グーパンなのデス!!」
「ぶべぼぉぉぉぉ!?」
「さっすが、アリス嬢ちゃん。我輩の意図を汲んでくれていたかっ!」
ベリアルは救世主に対して、わざと隙を見せたのだ。そもそも、ベリアル本人が救世主に攻撃をする必要性など、そもそも無かったのである。自分の身を囮にしていたベリアルは本命であるアリス=アンジェラに攻撃を任せていたのである。ベリアルの意図を薄っすらと感じ取っていたアリス=アンジェラは、救世主がベリアルに致命の一撃を入れるその間際を狙っていた。
救世主は顔面にアリス=アンジェラのシャイニング・グーパンを喰らい、斜め上へとすっ飛んでいく。そして、大聖堂の屋根を突き破り、またしても大聖堂の外へと追いやられることになる。救世主がぶん殴られたことで、預言者の注意もアンドレイ=ラプソティから外れてしまうことになる。
預言者であるサラーヌ=ワテリオンはグヌゥ! と唸り声をあげる。攻撃の対象をアンドレイ=ラプソティから、アリス=アンジェラへと変える。左手に持っている金色の聖書から神力を引き出し、右手からいくつもの光線を放つ。
しかしながら、アリス=アンジェラは自分の身に向かって飛んでくる光線群をひらりと空中に舞い上がることで回避してしまう。おちょくられていると感じた預言者は右手の向きを変えて、空中へと退避したアリス=アンジェラに向かって、矢継ぎ早に光線を放つ。
その光線は決して、アリス=アンジェラの身を穿つことは無かった。それほどまでにアリス=アンジェラの舞は美しいと言わざるをえなかった。
だが、救世主は後ろを振り向かずに、アンドレイ=ラプソティに向かって、背中から光り輝く短剣群を発射する。アンドレイ=ラプソティは驚きの余りに眼を見開くことになるが、飛んできた短剣群を紅き竜の槍を振り回すことで叩き落とす。
だが、その救世主と呼吸を合わせるようにまたしても預言者からの横槍を入れられてしまうアンドレイ=ラプソティであった。どうあっても救世主と預言者はアリス=アンジェラとアンドレイ=ラプソティを物理的に離そうとしていることは明白であった。アンドレイ=ラプソティは預言者であるサラーヌ=ワテリオンに注視せざるをえなくなる。
救世主はクックックッ……と不敵な笑みを零しながら、アリス=アンジェラに近づいていく。しかしながら、その2人の間に割って入ったのがベリアルであった。ベリアルは死神の大鎌を現出させており、その柄を右肩に預けていた。しかしながら、救世主はアリス=アンジェラに向かって歩くのを止めず、ベリアルはチッ! と思わず舌打ちしてしまう。
「気に喰わねえなあ!? 『七大悪魔』のひとり、『怠惰』のベリアル様と知っての狼藉か!?」
ベリアルは死神の大鎌の柄を両手で持って、それを振り回す。死神の大鎌の刃部分には紫色の呪力が纏わりついている。その紫色の呪力に触れるだけで、肉が腐り、骨が溶けてしまいそうなイメージがつきまとった。
だが、救世主はまったくもって恐れを知らぬ態度を貫く。振り下ろされてくる死神の大鎌に対して、右手に持つ光り輝く長剣をかち合わせようともしない。舐められたものだと感じたベリアルは救世主を横薙ぎに切り払ってしまおうとする。
その時であった。ベリアルは手応えありと感じたのだが、ベリアルが死神の大鎌で薙ぎ払ったのは質量ある残像であったのだ。救世主は決して七大悪魔のひとりであるベリアルを舐めていたわけではない。その証拠に彼が右手に持つ赦しの光から神力を引き出し、『奇跡』を起こしていたからだ。
赦しの光が持つ神力とは、使用者の速度と加速度を100倍に増すことであった。ベリアルですら感知できぬほどのスピードを得た救世主はその場に質量ある残像を残したのである。そのカラクリに気づいたベリアルは首級を上下左右に振り回す。
ベリアルの視界には救世主の残像が10体、映ることになる。どの残像も輪郭がぼやけており、そこには救世主の本体が居ないことは明白であった。本体が残した残像がベリアルをおおいに惑わすことになる。ベリアルが感知できるかどうかのギリギリのスピードで救世主が動いているために、ベリアルの眼の端に残像がどうしても映ってしまう。
これなら、いっそ、眼で追えないほうがマシであった、ベリアルにとっては。眼で追えないとしても『勘と経験』で救世主の現在位置を特定できるほどに、ベリアルは戦闘の熟練者であった。それゆえにか、ちらちらと眼に残る救世主の残像がうっとおしいと思ってしまうベリアルであった。
そんなベリアルをさらに惑わせようとしたのが救世主であった。救世主は移動する際に、その場その場で数本の光り輝く短剣をベリアルに向かって、投げつけたのである。もちろん、これは目くらましという意味が強く、その短剣群で、ベリアルをどうこうしようしたわけではない。
赦しの光による致命の一撃をベリアルに確実に入れるための布石とも言えた、光り輝く短剣群は。そして、ベリアルも救世主の狙いに気づいていた。ベリアルの周囲に救世主の残像が増えていく。それに伴い、ベリアルの身に向かってくる短剣の数も増えていく。救世主の残像が30を超えると共に、飛んでくる短剣の数も100を超え始めていた。
ベリアルは両手で持つ死神の大鎌を巧みに動かし、飛んでくる短剣のことごとくを打ち払う。しかし、ついに短剣の数本がベリアルの背中に突き刺さり、ベリアルはその場で片膝をつくことになる。救世主は勝機が見えたと思い、ベリアルの背中側から兜割りを行おうとする。
「待っていまシタ。さすがは怠惰のベリアル様なのデス。シャイニング・グーパンなのデス!!」
「ぶべぼぉぉぉぉ!?」
「さっすが、アリス嬢ちゃん。我輩の意図を汲んでくれていたかっ!」
ベリアルは救世主に対して、わざと隙を見せたのだ。そもそも、ベリアル本人が救世主に攻撃をする必要性など、そもそも無かったのである。自分の身を囮にしていたベリアルは本命であるアリス=アンジェラに攻撃を任せていたのである。ベリアルの意図を薄っすらと感じ取っていたアリス=アンジェラは、救世主がベリアルに致命の一撃を入れるその間際を狙っていた。
救世主は顔面にアリス=アンジェラのシャイニング・グーパンを喰らい、斜め上へとすっ飛んでいく。そして、大聖堂の屋根を突き破り、またしても大聖堂の外へと追いやられることになる。救世主がぶん殴られたことで、預言者の注意もアンドレイ=ラプソティから外れてしまうことになる。
預言者であるサラーヌ=ワテリオンはグヌゥ! と唸り声をあげる。攻撃の対象をアンドレイ=ラプソティから、アリス=アンジェラへと変える。左手に持っている金色の聖書から神力を引き出し、右手からいくつもの光線を放つ。
しかしながら、アリス=アンジェラは自分の身に向かって飛んでくる光線群をひらりと空中に舞い上がることで回避してしまう。おちょくられていると感じた預言者は右手の向きを変えて、空中へと退避したアリス=アンジェラに向かって、矢継ぎ早に光線を放つ。
その光線は決して、アリス=アンジェラの身を穿つことは無かった。それほどまでにアリス=アンジェラの舞は美しいと言わざるをえなかった。
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