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第7章:エーリカの双璧

第10話:責任の所在

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「クロウリー議長。あたしから意見させてもらうわ。タケルお兄ちゃんは有罪ギルティ。アベルは言い訳をしようがないほどに有罪ギルティ

「クロウリー議長。私からも意見させてもらいますわ。タケルお兄さんは有罪ギルティ。アベルさんはどうしようもないほどに有罪ギルティですわ」

「ちょっと待ってくれっ! 俺は完全にもらい事故じゃねえかっ! アベルだろうがよっ! レイヨンの嬢ちゃんのおっぱいを自分好みの巨乳に育てようとしたのはよっ!」

 タケルは査問会委員の席で立ち上がり、エーリカとセツラに抗議しまくる。抗議を受けた側のエーリカたちはヤレヤレ……と嘆息しつつ、あきれ顔になっていた。しかし、タケルは必至に抗議した。それも査問会に呼ばれた主犯であるアベルよりも遥かな情熱を込めてだ。

「始祖神:S.N.O.J様。いや……。創造主:Y.O.N.N様にも誓う。俺は胸派じゃねえっ! 俺はれっきとした『尻派』だっ!」

 エーリカとセツラはタケルの熱量に押され、身をひるませることになる。タケルは尻の在り方について、とくとくとエーリカたちに語ってみせる。エーリカはタケルの勢いに押され、タケルに下した判決を見直すことになる。

「クロウリー議長。タケルお兄ちゃんの助言に関して有罪ギルティ。タケルお兄ちゃんの存在を許せる程度には無罪ノット・ギルティ。そして、アベルは疑いのないレベルで有罪ギルティ。セツラお姉ちゃんもそれでいい?」

「エーリカさんと同意見ですわ。私としたことがうっかり失念していました。タケルお兄さんが胸の大小で女性の価値を決めるひとではありませんでしたわ。その点、アベルさんは救いようがありません」

「おっしゃぁぁぁ! アベル、てめえだけ罰を受けろっ! 俺を巻き込もうとした報いだっ!! ベロベロアッカンベーーー!!」

 アベルはこの時ほど、心底からタケル殿をぶん殴って、簀巻きにして、さらには川へと沈めてやりたいと思ったことはなかった。不真面目代表のタケル殿に真面目に相談した自分が愚かなのは間違いない。だが、それでも、あの時ばかりはタケル殿を信じてしまった。タケル殿も熱心に自分と受け答えしてくれたのだ。それがのっぴきならない状況に自分を追い込んだのだが……。

 しかしながら、自分を煽り続けるタケル殿とのことは置いておいてだ。アベルは心が晴れやかになっていた。出来る限りのことはしたのだ。間違ったやり方であったことは否めない。レイのためにと思い、レイのためにここまで頑張ってきた。それが報われなかったからと言って、誰を責める必要があるのだろうか? これは全て、レイを男だと勘違いしていたことから始まったのだ。一切の責任は自分自身にあったのだ。

「レイ。それがしが出来るのはここまでだ……」

「アベル隊長! そんなっ! 私の全てをアベル隊長が奪っておきながら、責任を放棄するつもりですか!? それでも、真面目な私を堕としたアベル隊長なのですかっ!」

「やめろ、やめてくれ。レイが口から言葉を紡ぎ出す度に、それがしの罪が膨れ上がっていくのだ。武士の情けとして、それ以上の弁明はやめてくれっ! 本当の意味で責任を取らされるっっっ!」

「いやですっ! 私はアベル隊長と一生、一緒に添い遂げると決めたのですっ! そう覚悟させたのはアベル隊長なのですっ! エーリカ様っ!」

「な、なに!?」

 エーリカはこのクソ真面目な夫婦漫才がいつ終わるのだろうかと、内心、飽き始めていた。アベルがどう言い訳しようが、レイヨンの身受けをアベルにさせるつもりであった。この時、すでにエーリカは次のステージへの考えで頭を埋めようとしていたのである。そんなところに、いきなりレイヨンが自分を名指ししてきたのだ。エーリカはびくんっ! と身体を可愛らしく跳ね上がらせ、無理やりにレイヨンへと視線を固定させられてしまう。

「立志式も終えていない若輩者ですが、エーリカ様に具申させてもらうのですっ! エーリカ様と言えども、私とアベル隊長の仲を引き裂くことはできないのですっ!」

「あーーーー、はい……」

「ちゃんと真剣に聞いてくださいなのですっ! エーリカ様たちから見れば、私はアベル隊長に口説かれた間抜けで真面目過ぎる若すぎる右も左もわかっていな女の子に見えるだけかもしれませんっ! でも、私とアベル隊長はこの1週間でお互いを理解し、愛を深めあいましたのですっ!」

 エーリカはもう苦笑する他無かった。真面目と真面目をくっつけさせると、これほどまでの化学反応を示すのかと。エーリカは今年で17歳になるが、レイヨンの若さが羨ましいと思えてしまった。14歳の時のエーリカは血で血を洗うけがれをしらない野望に燃えるエーリカであった。

 だが、その時のエーリカに負けぬほどの熱量をレイヨンが身体全体から放っている。エーリカは団全体の育成計画を見直す羽目にはなるが、このクソ真面目カップルの成立を認めることで、今回の育成計画の良い意味でも悪い意味でも成果物にすることにした。

「わかったわ。レイヨン。あなたの熱意に降参よ。これからもアベルを補佐してね」

「こちらまで身体が熱くなりましたわ。恋愛をすると女は変わると言われますが、アベルさんにも本当の意味での責任の取り方がどういうものかを勉強してもらうには良い機会ですもの」

「これにて一件落着ですね。いやはや、レイヨン殿はこの国のとある貴族のご令嬢。下手な扱いをしていたら、血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団の立場も危うかったと思えば、これはこれで良かったと思える着地点です」

 クロウリーもまた、ようやく安堵の息をつくことが出来た。レイヨン=シルバニアはそこそこの名家の出身であった。タラオウ=フタグ大臣の紹介でエーリカたちがレイヨンの父親と出会い、レイヨンの父親は娘を立派な騎士にしてほしいと頼み込んできていたのだ。少しばかり、順序が違ってしまいそうだが、そこを上手いこと調整するのが軍師:クロウリーの役目である。

「でも、実際問題、これからどうするんだ? いくら愛し合う2人でも、さすがに立志式前のレイヨンの嬢ちゃんを嫁にくださいとは父親には頼みこめんだろ」

「ホバート国の法的にもアウトなんですよね……。いやまあ、14歳にもなってない女性とネンゴロな関係になっているアベル殿が全面的に悪いのですが」

「そこは誤解が生じるゆえに弁明させてもらうっ! それがしとレイは至って、キレイな関係だっ!」

アベルがそう言っているが、ミンミンは知っている。デートやキスもまだの関係の割りには、同じ風呂でお互いの背中を洗いあっている仲だということを。その事実をどう勘違いされないように皆に発表すべきなんだべさ? と悩むミンミンであった。

「デートやキスはされていなのですが……。裸の付き合いになら少々自信はあるのですっ!」

「おいら、ちょっと用事を思い出したから、もうこの会議室から退出していいだべさ? 主犯が罪を認めて、責任を取るのは確定なのだべさ」

「待ってくれっ! ミンっ! 地獄に堕ちるなら、それがしと一緒に堕ちようっ! 其方はまだ、それがしの補佐ではないかっ! 責任をわかちあってくれぇぇぇ!!」
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