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第8章:在りし日の感傷
第5話:竜の住処
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拳王の実力はとてつもなく『不安定』なのだ。順位自体はずっと2位なのだが、ランク分けとして見た場合に問題がはっきりと見えてくる。拳王の実力は日ごとに変わってしまうほどなのだ。その評価データを詳細に取ってほしいとクロウリーに言われて、コッシローはデータを取れるだけ取ってみた。そして、拳王の実力が揺れ動く原因と因果律を見つけ出すことに成功する。
(創造主:Y.O.N.N様は何故、こんなに不安定な存在を武王として創り出したのでッチュウ? 4人の偉大なる魔法使いには見られない傾向なのでッチュウ。しかしながら、今はそれはどうとでも良いとして、問題はここから1週間、拳王がもっともパワーダウンする周期に入ることでッチュウ)
コッシローの不安は的中していた。拳王のパワーダウンにより、その余波をモロに受けている人物は拳王にありったけの不平不満を言ってのける。
「おぬしを当てにしていたわしゃも当然悪い。でもだ。そこまで、おぬしがポンコツだとは思わなんだ!」
「うっせぇ! つべこべ言ってる暇があんなら、この場からさっさと逃げるぞぃ! いやあ、まいったまいった。何度、拳を叩きつけても、雷鳴の竜のウロコ1枚はがせんかったとはなぁ!!」
アイスたちがゲートをくぐり抜けて辿り着いたダンジョンは竜の住処と呼ばれる場所であった。山麓から山の頭頂部に至るまで、竜たちがアホのように住み着いている場所だ。
アイスはキョーコに騙されたと思った。何が下から2番目の難易度のダンジョンだと。だが、キョーコは竜を倒すだけでよく、ダンジョンという意味ではダンジョンの構造を取っていない。それゆえに攻略難易度が低いんだと。
確かにキョーコの言う理屈には納得できる。見渡す限りの山、山、山。そして、巨大な竜たちが山肌のあちらこちらから、餌が山を登ってきてくれないかと待ってくれている。こんなにわかりやすすぎる場所をダンジョンとはたして呼んでいいのかは議論にいとまがない。
要は山登りをしている最中に襲い掛かってくる全部の竜をぶっ飛ばして、山頂にいるボス竜にまでたどり着き、さらにはボス竜を成敗するだけの簡単なダンジョンなのだ。
アイスはヤレヤレ……と嘆息したが、訓練相手として、竜は最適な相手であった。それに自分のパートナーは拳王:キョーコ=モトカードである。滅多なことでは竜の胃袋の中に放り込まれることはないと思っていた。
しかし、アイスは知らなかった。キョーコの力が雷鳴の竜相手にまったくもって歯が立たないことに。そして、性質が悪いことにキョーコ自身は、今の調子だと、行けて山の3合目あたりだなと予想済みであった。山の1合目、2合目と山を登りながら、そのついでに襲い掛かってくる竜たちを次々とのしていった。
そして、山の3合目に到達した時に、キョーコは呑気に寝ている雷鳴の竜の腹にモトカード流拳法:一の太刀:ロケットパンチを次々とぶち込んだ。そして、キョーコは晴れやかな笑顔で、自分の後ろにいるアイスにあっけらかんとこう告げる。
「今まで隠していたけど、今のうちではやっぱりコイツの腹はぶち破れんかったわぁ!」
「ふっざけんな! ただ怒らせただけになったのかい! 自信満々に一撃で腹をぶち破ってやるくると言ったのは、おぬしじゃったよな!?」
「眠っているのも込みで、期待値をあげてみたんだが、いやぁ、まいったまいったぁ! よっし! 戦略的撤退!」
この世の中に数多くいる武術家には、ある共通点があった。騎士道は弱き者たちを護る。侍道は護りたい者のためなら命を差し出す。騎士道と侍道は理念が似ている部分があった。だが、武術を極めんとする者たちにとっては、彼らの考え方のほうがよっぽど世の中の理に矛盾していた。
何故、ヒトは強くあろうとするのか? その答えのひとつとして、この不条理な世界で生き延びるためだというのがある。騎士道と侍道はコミュニティとして考えれば、まったくもって間違っていない。コミュニティ全体としてみれば、この不条理な世界でコミュニティが生き延びるための理念だからだ。
しかし、武術はそもそもが違う。『個』がこの不条理な世界に抗うために個の力を高めるのが『武術』である。それゆえに武術を極めんとする者たちは『世界最強』という称号を欲しがった。騎士道と侍道が欲するのは『名誉』である。名誉のためなら、死ぬことも厭わない。だが、『世界最強』を求めるならば、死んではいけないのだ。逆説的に言えば、武術は『個を殺させないための力』なのである。
武術家たちは本当にしぶとい。殺しても殺しても生き返るという意味ではない。殺し切れないがゆえに非常にやっかいな存在なのだ。生きることを最上とするがゆえに、あらゆる手を使ってでも、生きようとする。だから、強敵を相手に戦略的撤退など、朝飯前だったのだ。
しかしながら、ひとつだけ弁明させてもらおう。そんな武術家であったとしても、彼らには彼らなりの美学がある。集団で個を私刑しようとはしない。逃げる時は卑怯者呼ばわりされるようなことをしても、眼の前で戦ってる相手に対して、闇討ち、暗殺、だまし討ちといったいわゆる『汚い手』に染めることはよっぽどの事情が無い限りはその手はとらない。
こういうところに関して限定的に言わせてもらえば、武術家たちよりも騎士道や侍道のほうがよっぽど汚い。汚いことを自覚しているがゆえに、騎士道や侍道は『世界最強』という言葉を喜んで使ったりはしない。
「はぁはぁはぁ……。せっかく3合目まで登ったというのに、振り出しに戻ってしまったんじゃ」
「ぜぇぜぇぜぇ……。いやぁ、1週間で表ボスまで撃破の予定だったが、こりゃ難儀しそうだわぃ!」
「おぬしには言いたいことは山ほどあるが、生きているだけで丸儲け。生きてさえいれば、今日よりもっと強くなれる。生きてさえいれば、今日勝てなかった相手も明日は勝てる……かもしれんじゃな」
「おう、その通りだ。アイスが求めていたのはこの『わたし、今日も生きてたーーー!』っていう躍動感だろぉ? ちょうど良い具合に、うちの力も弱まっている。こりゃ楽しい1週間になりそうだぁ!!」
こいつ、いっぺん、しばきまわしてやろうか?? という視線でキョーコを睨みつけるアイスであった。だが、キョーコは10数年前と変わらぬキョーコであった。気持ちが良いまでに武術家なのだ、キョーコは。そして、その道を究めたがゆえに、今のキョーコは『拳王』と呼ばれる存在にまで、己を高めたのである。
「さてと。とりあえず何か食べる物でも拾ってくる。道中、ぶちのめした竜たちの肉が腐るほど転がっておるからな」
「なるべく若い竜を選んでくれよぉ? 竜は肉食だから、筋っぽいんだ。おめえもよく知ってるだろ?」
「ふんっ。セーゲン流で修行を積んでいた時に、飽きるほど竜の肉を喰らったからな。さて、上手そうな竜を見繕ってくるんじゃわい」
(創造主:Y.O.N.N様は何故、こんなに不安定な存在を武王として創り出したのでッチュウ? 4人の偉大なる魔法使いには見られない傾向なのでッチュウ。しかしながら、今はそれはどうとでも良いとして、問題はここから1週間、拳王がもっともパワーダウンする周期に入ることでッチュウ)
コッシローの不安は的中していた。拳王のパワーダウンにより、その余波をモロに受けている人物は拳王にありったけの不平不満を言ってのける。
「おぬしを当てにしていたわしゃも当然悪い。でもだ。そこまで、おぬしがポンコツだとは思わなんだ!」
「うっせぇ! つべこべ言ってる暇があんなら、この場からさっさと逃げるぞぃ! いやあ、まいったまいった。何度、拳を叩きつけても、雷鳴の竜のウロコ1枚はがせんかったとはなぁ!!」
アイスたちがゲートをくぐり抜けて辿り着いたダンジョンは竜の住処と呼ばれる場所であった。山麓から山の頭頂部に至るまで、竜たちがアホのように住み着いている場所だ。
アイスはキョーコに騙されたと思った。何が下から2番目の難易度のダンジョンだと。だが、キョーコは竜を倒すだけでよく、ダンジョンという意味ではダンジョンの構造を取っていない。それゆえに攻略難易度が低いんだと。
確かにキョーコの言う理屈には納得できる。見渡す限りの山、山、山。そして、巨大な竜たちが山肌のあちらこちらから、餌が山を登ってきてくれないかと待ってくれている。こんなにわかりやすすぎる場所をダンジョンとはたして呼んでいいのかは議論にいとまがない。
要は山登りをしている最中に襲い掛かってくる全部の竜をぶっ飛ばして、山頂にいるボス竜にまでたどり着き、さらにはボス竜を成敗するだけの簡単なダンジョンなのだ。
アイスはヤレヤレ……と嘆息したが、訓練相手として、竜は最適な相手であった。それに自分のパートナーは拳王:キョーコ=モトカードである。滅多なことでは竜の胃袋の中に放り込まれることはないと思っていた。
しかし、アイスは知らなかった。キョーコの力が雷鳴の竜相手にまったくもって歯が立たないことに。そして、性質が悪いことにキョーコ自身は、今の調子だと、行けて山の3合目あたりだなと予想済みであった。山の1合目、2合目と山を登りながら、そのついでに襲い掛かってくる竜たちを次々とのしていった。
そして、山の3合目に到達した時に、キョーコは呑気に寝ている雷鳴の竜の腹にモトカード流拳法:一の太刀:ロケットパンチを次々とぶち込んだ。そして、キョーコは晴れやかな笑顔で、自分の後ろにいるアイスにあっけらかんとこう告げる。
「今まで隠していたけど、今のうちではやっぱりコイツの腹はぶち破れんかったわぁ!」
「ふっざけんな! ただ怒らせただけになったのかい! 自信満々に一撃で腹をぶち破ってやるくると言ったのは、おぬしじゃったよな!?」
「眠っているのも込みで、期待値をあげてみたんだが、いやぁ、まいったまいったぁ! よっし! 戦略的撤退!」
この世の中に数多くいる武術家には、ある共通点があった。騎士道は弱き者たちを護る。侍道は護りたい者のためなら命を差し出す。騎士道と侍道は理念が似ている部分があった。だが、武術を極めんとする者たちにとっては、彼らの考え方のほうがよっぽど世の中の理に矛盾していた。
何故、ヒトは強くあろうとするのか? その答えのひとつとして、この不条理な世界で生き延びるためだというのがある。騎士道と侍道はコミュニティとして考えれば、まったくもって間違っていない。コミュニティ全体としてみれば、この不条理な世界でコミュニティが生き延びるための理念だからだ。
しかし、武術はそもそもが違う。『個』がこの不条理な世界に抗うために個の力を高めるのが『武術』である。それゆえに武術を極めんとする者たちは『世界最強』という称号を欲しがった。騎士道と侍道が欲するのは『名誉』である。名誉のためなら、死ぬことも厭わない。だが、『世界最強』を求めるならば、死んではいけないのだ。逆説的に言えば、武術は『個を殺させないための力』なのである。
武術家たちは本当にしぶとい。殺しても殺しても生き返るという意味ではない。殺し切れないがゆえに非常にやっかいな存在なのだ。生きることを最上とするがゆえに、あらゆる手を使ってでも、生きようとする。だから、強敵を相手に戦略的撤退など、朝飯前だったのだ。
しかしながら、ひとつだけ弁明させてもらおう。そんな武術家であったとしても、彼らには彼らなりの美学がある。集団で個を私刑しようとはしない。逃げる時は卑怯者呼ばわりされるようなことをしても、眼の前で戦ってる相手に対して、闇討ち、暗殺、だまし討ちといったいわゆる『汚い手』に染めることはよっぽどの事情が無い限りはその手はとらない。
こういうところに関して限定的に言わせてもらえば、武術家たちよりも騎士道や侍道のほうがよっぽど汚い。汚いことを自覚しているがゆえに、騎士道や侍道は『世界最強』という言葉を喜んで使ったりはしない。
「はぁはぁはぁ……。せっかく3合目まで登ったというのに、振り出しに戻ってしまったんじゃ」
「ぜぇぜぇぜぇ……。いやぁ、1週間で表ボスまで撃破の予定だったが、こりゃ難儀しそうだわぃ!」
「おぬしには言いたいことは山ほどあるが、生きているだけで丸儲け。生きてさえいれば、今日よりもっと強くなれる。生きてさえいれば、今日勝てなかった相手も明日は勝てる……かもしれんじゃな」
「おう、その通りだ。アイスが求めていたのはこの『わたし、今日も生きてたーーー!』っていう躍動感だろぉ? ちょうど良い具合に、うちの力も弱まっている。こりゃ楽しい1週間になりそうだぁ!!」
こいつ、いっぺん、しばきまわしてやろうか?? という視線でキョーコを睨みつけるアイスであった。だが、キョーコは10数年前と変わらぬキョーコであった。気持ちが良いまでに武術家なのだ、キョーコは。そして、その道を究めたがゆえに、今のキョーコは『拳王』と呼ばれる存在にまで、己を高めたのである。
「さてと。とりあえず何か食べる物でも拾ってくる。道中、ぶちのめした竜たちの肉が腐るほど転がっておるからな」
「なるべく若い竜を選んでくれよぉ? 竜は肉食だから、筋っぽいんだ。おめえもよく知ってるだろ?」
「ふんっ。セーゲン流で修行を積んでいた時に、飽きるほど竜の肉を喰らったからな。さて、上手そうな竜を見繕ってくるんじゃわい」
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