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第11章:上陸

第9話:ブルース隊到着

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 アベル隊500が仮の王都:カイケイに到着してから早5日が経過する。後続隊のブルース隊500が到着し、アデレート王国に上陸した血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団は計1500まで膨れる。この頃になって、ようやくアデレート王家が決断を下す。

 アデレート王家からの使者となったのは、王家のつまはじき者であるケンキ=シヴァンであった。だが、ケンキは王家の一員としての振る舞いを忘れず、エーリカに王家からの依頼を通達するのであった。

「カイケイのみやこから西に200キュロミャートル行った先にある州境の砦……ね」

「近くにはロリョウの町があるゆえ、足りぬ資材や兵糧はそちらで手に入れてもらえると助かりますわ。これでも、わたくし、がんばりましたのよ?」

「ありがとうございます、ケンキ様。アデレート王家の財政が厳しい中、予想以上の支援をいただけて。土地はやるから、後は勝手にしろと言われる覚悟だったわ」

「さすがに友軍に対して、ひどい扱いだと、散々にごねておきましたのよ。でも、雀の涙でしかないのは変わらないわ。時間をかけて、支援をもっと引き出せるように尽力させてもらいますの」

 エーリカたち血濡れの女王ブラッディ・エーリカの団としては、アデレート王国の土地を割譲してもらうだけでも、十分に儲け物であった。だが、もらった土地で孤立するわけにもいかない。クロウリーはアデレート王家の一員と結びつくことで、土地だけでなく、最低限の支援も勝ち取ることになる。

「では、わたくしは王宮に帰る前にミンミンさんパワーをたっぷり補充していきますわ。嫌みだらけのあの王家に戻ると思うと、わたくし、今でも倒れそうですもの。ミンミンさんはどこにいまして?」

「ミンミンなら、3日ぶりにケンキさんに会えるべ! って、おめかしをしてた気がするけど……。クロウリー、何か聞いてない?」

「おめかしだけでなく、食品市場にも足を運んでくるって言ってましたね。イノッ・シシをまるごと買ってくるとかなんとか……」

 ミンミンらしいわねと笑ってしまうエーリカたちであった。ミンミンの唯一ダメなところは、ミンミンが大喰らいのため、ケンキに腹いっぱい食べてもらうことが幸せとなっていた。山盛りの自分の皿から、ケンキの皿へと料理を移しかえて、もっと喰ってほしいんだべさ! と促す。

「ミンミンさんがわたくしにベタ惚れになるのは当然なのよ。でも、食べることが趣味のミンミンさんは、わたしにもその趣味を押し付けてくるところが……」

「うん……。ケンキさんがもう食べれませんわってダウンしてるのを見るのがミンミンの一番の幸せみたい。愛されすぎるのも困りものって、ミンミンとケンキ様のことを言うと思う」

「ミンミンさんと一緒のテーブルでごはんを食べると、何十倍もごはんが美味しく感じられますの。その辺の食事処で出される料理でも、王宮で出される料理よりも美味しくね。でも、このままじゃ、わたくし、普段の運動も何十倍に増やさなきゃいけなくなりますわ」

「幸せそうで何よりです。ケンキ様とミンミンとのお見合いをセッティングした先生も鼻が高くなってしまいます」

 クロウリーがニコニコ笑顔で、ケンキとミンミンの仲を褒めたたえる。タケルはクロウリーたちから目を背ける。白々しいクロウリーを見ていると空の胃に胃液が充満してくる気持ちになってしまう。クロウリーはご満悦な表情のケンキを連れて、屋敷の別の場所へと案内する。

 彼らの後ろ姿をよかったよかったと思いながら見送るエーリカたちであった。エーリカはケンキが退席した後、ブルースとアベルに視線を送る。ブルースたちは姿勢を正し、エーリカからの言葉を待つ。

「ブルースとアベル。わかっていると思うけど、後続隊の到着を待たずにあたしたちはアデレート王家からもらった土地へと移動するわよ」

「うむ。エーリカならそう言うと思っていたでござる。出発はいつにするつもるでござる? 明日か明後日でござるか?」

「明日にでもと言いたいところだけど、ブルースたちはアデレート王国に今日ついたばかりだから、明日1日は兵を休ませてちょうだい」

「ならば、それがしの隊が先行して、譲り受けた砦に向かうのはどうだ?」

 アベルの提案を受けて、エーリカはしばし考え込む。アベル隊はブルース隊に先んじること、5日前にカイケイのみやこへと到着している。今は兵を遊ばせている状態だ、アベル隊は。しかしながら、エーリカはアベルの提案を否定する言葉を発するのであった。

「アベルはブルースたちを歓迎してあげて。色々と手を尽くしてくださったケンキ様へのお返しにミンミンを貸し出さなきゃならないし。そりゃ、アベルはレイとの婚前旅行気分で船旅とカイケイのみやこの散策を楽しんで、さらにはあたしの目の届かない場所でいちゃつきたいのかもしれないけど」

「待てぃ! それがしを年がら年中、発情しっぱなし男に聞こえるような発言は、いくらエーリカでも控えてもらおう! そりゃあ、他の男連中に比べれば、大変良い思いをさせてもらっている! だが、公私混同はまた別だ!」

 良い思いをしている部分は認めるんだと思ってしまうエーリカたちであった。エーリカとクロウリーはまずは見知らぬ土地に慣れてもらおうと、連れてきた兵士たちにホバート王国では日常であった練兵を休ませていた。

 エーリカとクロウリーの不安は的中し、慣れない土地、慣れない水、慣れない食事で兵士たちは四苦八苦しまくっていた。それも10日ほどでひと段落し、ようやくエーリカとクロウリーはホッと胸を撫でおろすことになる。

 本来ならば、今日着いたばかりのアベル隊にも、そういった時間を割かねばならぬのだが、分け与えられた土地の近くにロリョウという町があるため、アベル隊にはそこで身体を慣れさせてもらおうとエーリカは思うのであった。

「ブルース隊もアデレート王国に到着してから6日目だもの。1日でも良いから、もう少し時間をあげたいの。だから、ブルース隊の労いも兼ねて、明日は特に羽を伸ばしてちょうだい」

「わかった。エーリカの意見の通りにしよう。では、さっそくだが、アベル。それがしが見つけた食事処に行くぞ。アデレート王国の料理はホバート王国と比べると、かなり味付けが違うからなっ! まずは食べ物に慣れてもらうことになる」

「本当、アベルはクソ真面目でござるな。だが、それでこそアベルだ。とびっきり上手いメシを御馳走させてもらうでござる」

 ブルースはアベルにそう答えると、アベルの肩に腕を回し、悪ガキそのままの雰囲気を出して、アベルと共に退席していくのであった。残されたエーリカはタケルの方を向く。タケルはうん? と不思議そうな顔つきになる。

「何だ? 俺の顔に何かついてるか?」

「ううん。ブルースとアベルの仲って良いなぁって思って。あたしは女だから、本当の意味ではブルースたちと友達になれないなって。でも、タケルお兄ちゃんはいつまでもあたしのタケルお兄ちゃんであってくれるんだろうなって思っただけ」
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