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第14章:南ケイ州vsアデレート王家

第4話:新しい刺激

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 エーリカの涙が引っ込んだ後、タケルはエーリカを自分の身体から剥がす。タケルはエーリカに手を伸ばし、エーリカを立ち上がらせる。エーリカはうんっ! と元気よく返事をする。砦内はすっかり暗くなってしまっていた。それでもエーリカとタケルは人目を避けて、エーリカの寝室にまでやってくる。

 タケルはエーリカの寝室に足を踏み入れると、エーリカに心配そうな顔つきをされてしまう。タケルはわかってるとエーリカに言い、エーリカが何かを言う前に、エーリカの前でシャツを脱ぎ、上半身を露わにするのであった。

 エーリカは顔を紅くしながら、手慣れた感じで、タケルの右手を取る。そして、タケルの右手に、あらかじめ持っていた縄を括りつける。タケルの右の手首を良い感じに縛り上げた後、エーリカは梁に縄の先端を結わえるのであった。

 エーリカはタケルの右腕を縄で固定した後、タケルは進んで左手を差し出す。エーリカは照れ笑いしつつも、タケルの左手を縄と梁で拘束するのであった。

 その様子をヤレヤレ……といった表情で観察していたのが、気配と存在感の両方を完全に消し去っていたコッシローであった。コッシローは作戦室の外へと飛び出した後、ずっと、何食わぬ顔でタケルの頭の上にチョコンと乗っていた。

 エーリカがおかしくなる条件をタケルが満たしてくれた以上、あとはタケルの側でタケルの様子を観測しつつ、エーリカの登場を待つだけであった。コッシローの予測通り、エーリカがタケルを探しにきた。エーリカがタケルを説教するのは日常茶飯事であるために、周りはエーリカの異変に気付けなかったといえよう。

 だが、コッシローの目から見て、今日のタケルは明らかにやらかしてくれていた。クロウリーですら、気付ききっていなかったとも言えよう。コッシローはある種のサインをエーリカから受け取っていたのである。エーリカとしてはそれは無意識の行動であった。だから、エーリカの側にいつもいるクロウリーは気付けもしなかったのだろう。

「タケルお兄ちゃん。今夜のはちょっと痛いかも?」

「うん、ちょっとどころか、とっても痛そうだな……」

 エーリカが手に持っていたのは、鞭の先端に小さなトゲトゲの鉄球がついている、まさに拷問用の鞭であった。いつもならゴム製のソフトSM用の鞭なのだが、豚皮製や牛革製を飛び越えて、拷問用の鞭を手にしているエーリカにタケルは苦笑する他無かった。

「痛かったら言ってね?」

 エーリカは申し訳なさそうな感じで、恐る恐るタケルの胸に向かって、拷問用の鞭を振り下ろす。タケルの胸を鉄球のトゲが紅いスジを創り出す。タケルは優しく撫でられただけなのに、痛みでビクンビクンと身体全体を動かした。エーリカは大丈夫? とタケルに言うが、タケルは痛気持ち良いってこういうことを言うんだな? とエーリカに微笑んで見せる。

「じゃあ、次はもう少し、力を入れるね?」

「お、おう! どんどんきやがれっ! あひんっ!」

 コッシローはバカかこいつは……と嘆息してしまう。ソフトSM用の鞭など、所詮、おもちゃなのだ。それしか体験してこなかったタケルの癖に、何を強がっていると思ってしまう。それほどまでに拷問用の鞭は悶絶して気絶してしまうほどに痛い。タケルの上半身の正面側に紅いスジが何本も浮かび上がることになる。こいつはよく気絶しないでいられるでッチュウねというのが、コッシローの素直すぎる感想であった。

「ふぅ……。新しい性癖の扉が開くかと思ったぜ」

「いくら、あたしの気分を良くしたいからって、タケルお兄ちゃんは無理しすぎっ!」

 エーリカはタケルお兄ちゃんを折檻する喜びが思った以上に高まったが、それでも、さすがにこれ以上は無理! と自分の欲望を抑えつける。エーリカは自分が欲望でおかしくなる前に、タケルお兄ちゃんの拘束を解くのであった。

 タケルはエーリカから受け取った濡れタオルで、紅いスジから垂れ落ちるさらに紅いスジを拭きとるのであった。タケルは濡れタオルが傷に触れるたびに、顔を苦痛で歪ませる。そんなタケルの表情が面白いのか、エーリカはタケルの胸についた傷をツンツンと右手のひとさし指で突く。

 タケルは痛気持ち良いのを我慢しつつ、エーリカの好きなようにいじらせた。タケルお兄ちゃんをイジメるのを中断したエーリカは頬をどんどん赤らめていく。タケルはどうしたのだろうと、うつむきかげんのエーリカの顔を覗き込む。

「タケルお兄ちゃんって、最近、自分で処理してるの?」

「ん? 突然だなっ。ここ最近、忙しかったから、そんなことも忘れてたな」

 タケルは聞かれた質問に対して、素直に答える。エーリカはますます顔を紅く染める。エーリカは顔を少し横に向けて、ぼそぼそと小さな声で呟く。タケルはエーリカが何を言っているのか聞き取るため、エーリカの口元に自分の顔を近づけていく。

「あのね……。タケルお兄ちゃんが良かったらでいいんだけど。あたしをオカズに使う?」

「うっ……。それは嬉しいんだが、俺はエーリカのお兄ちゃんだぞ? エーリカは良いのか?」

 エーリカが顔を真っ赤にしながら、タケルお兄ちゃんにコクリと頷く。そうされた瞬間、タケルの脳内にあの大音量の鐘の音が鳴り響く。タケルはグワングワンと鐘の音で脳内が揺さぶられるが、エーリカの一挙一動を見逃さないようにした。

「あたし、タケルお兄ちゃんを説教するばかりで、タケルお兄ちゃんにご褒美をあげてなかった。でも、タケルお兄ちゃんがあたしをオカズに使う条件として、あたしはタケルお兄ちゃんとキスしたい……。これじゃ、あたしへのご褒美になって、タケルお兄ちゃんんへのご褒美が足りない??」

 エーリカがタケルに何かの返答をもらう前に、タケルはすでに行動に移していた。タケルは自分に残されている時間が少ないとわかっていたのだ。記憶には残っていないが、何度もエーリカとこういう雰囲気になっていたのだと。だが、どれだけ思い出そうとしても、エーリカとのこの先の記憶はまったくもって、タケルの脳内には存在しなかった。

 だからこそ、タケルは今度こそ、記憶に残るようにと、エーリカの唇を貪った。エーリカがファーストキスであることもわかっているつもりであった。だが、タケルはエーリカの唇の感触を味わうほど、エーリカとのキスは初めてでは無いと感じてしまう。

 その証拠にエーリカはタケルの求めに答えるように、タケルが突っ込んできた舌に自分の舌を絡めさせたのだ。まるでお互いの唇をお互いの唇で食いちぎってしまいかねないほどにタケルとエーリカは唇を重ね合わせる。

 タケルとエーリカが唇を離すと、そこに唾液で出来た1本の紐が創り出されることになる。その唾液で出来た紐が切れてしまう前に、タケルとエーリカは再びお互いの唇を貪り始めた。タケルはエーリカの唇を味わいながらも、エーリカの身体に手を回し、エーリカが着ているシャツをしわくちゃにしていく。エーリカはタケルにシャツの上から上半身をまさぐられることで、一気に体温が上昇していくのであった。
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