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第1章:シュレイン家の娘
第3話:出立
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考えてみればおかしいことだらけであった。ゼーガン砦にはいくら長年、戦が無かったとはいえ、一応は国と国が隣接する国境沿いの砦のひとつなのだ。ショウド国がポメラニア帝国の従属国と言えども、そこにまったく兵を置いていないわけがない。
ゼーガン砦の周りにも4つ砦が存在した。ポメラニア帝国とショウド国との国境線代わりとなっているダンジリ河の渡河地点に砦が2つ。ゼーガン砦の後方に後詰の砦が2つあったのだ。
どの砦も長きに渡り戦がなかったことにより、かなり老朽化が進んでいるとは言え、仮にショウド国が攻めてきたとしても、そう易々と抜けるわけがない。そうアキヅキ=シュレインは考えていたのであった。
(ここであーだこーだと考えても仕方ないわね。1年近く顔を合わせていない親子に憐憫の情を抱いたメアリーさまが一計を案じてくれた。今はそう考えるほうが自然だわ)
「爺や。わたしはこの辞令を前向きに捉えることにするわ」
「そうですか。では、私のほうからゼーガン砦に詰めるカゲツさまに連絡を入れておきますかな」
「いいえ。お父さまには驚いてもらいましょ?」
アキヅキはいたずらな笑みを浮かべてバジル爺に言うのであった。バジル爺はやれやれと両腕を軽く広げ、首を左右に振るのであった。
それから3日後の朝、アキヅキ=シュレインは準備を整えて、手勢20名を率いて、ゼーガン砦へ向けて出立するのであった。
そもそもゼーガン砦には既に100名を超す守備隊が詰めていた。そこにさらに20名もの人員を送るのはどうかと思えるが、これは単にアキヅキ=シュレインの思い付きとしか言いようがなかったのである。
「じゃあ、爺や。ゼーガン砦に行ってくるわね? 留守は任せたわよ?」
「わかり申した。当主のカゲツ=シュレインさまには、爺やがシュレイン邸に入り込もうとしている賊たちを千切っては投げての大奮闘をしたとお伝えしてくだされ」
バジル爺の軽口に思わず、ブフッと噴き出してしまうアキヅキであった。今日は3月4日。3日ほど続いていた雨は昨夜にようやくあがり、春の訪れを感じさせる暖かさをともなった陽気な日であった。
アキヅキは栗毛の馬に跨り、その馬の腹を軽く蹴る。するとだ、栗毛の馬はパッカパッカと軽快な音を立てて、ゆっくりと歩きだす。付き従う兵士たちは皆、徒歩だ。アキヅキに遅れぬようにと少しばかり駆け足で彼女についていくのであった。
シュレイン邸から国境近くにあるゼーガン砦までは歩兵隊の進軍速度で2日と少しといった距離にあった。もちろん、それは途上にある街中に建てられた神殿の転移門をふたつほど利用してでの話である。
国境近くの砦群に近くなればなるほど、転移門のある神殿は存在しなくなる。他国の軍に転移門を利用させないための処置なのだ。
そしてもうひとつの安全弁として、転移門を利用するには神殿に詰める高司祭の許可が必要となってくる高司祭の持つ鍵が無ければ、転移門へ続く鉄条門が開かない仕組みなのだ。
「ラー・メンッ! これはこれは麗しきエルフさまがやってきたものです」
高司祭がうやうやしく、栗毛の馬から降りたアキヅキ=シュレインに対して、礼をする。アキヅキとしてはこそばゆい気持ちである。アキヅキはひと目で騎士階級だとわかる紋とシュレイン家に属している証となる白鳥の装飾が左胸に施された紅玉色の甲冑を身につけていた。しかしながら、アキヅキはこの甲冑があまり好きではない。
カゲツ=シュレインが娘の美貌を世に知らしめたいとわけのわからぬことをほざいて、アキヅキの身体のラインがありありとわかるデザインに仕立てあげたからである。
アキヅキは21歳の妙齢のエルフとしては心持ち、いや、ぶっちゃけ胸のサイズが控えめであった。そのため、甲冑の胸部は彼女の胸のサイズがありありとわかるようになっており、アキヅキとしては噴飯モノであった。
(お父さま……。高司祭さまがマジマジとわたしの甲冑姿を舐めるように見ています……。嘘でも良いから、胸の部分を盛ってほしかったわよ……)
ちなみにポメラニア帝国の僧侶たちや神官、さらには高司祭は神に仕える身だからといって、妻帯を許可されないといった窮屈な教義は存在しないのであった。
それもあってか、【男は皆スケベ】と言われている通りに高司祭と言えども、やらしい眼つきでアキヅキ=シュレインの甲冑姿をマジマジと見るのである。
(うう……。わたしの胸の部分を見て、はあああ……とため息をついたかと思えば、今度は胴回りからさらに太ももを舐めるように見ているわ……)
「ふむ……。何か危険なモノを所持しているわけではなさそうですな。よろしい。転移門の使用許可を其方たちに与えましょう」
高司祭はそう言うと、アキヅキ一行を神殿の奥深くに招き入れる。そして、懐から金細工の施された鍵を取り出し、転移門の前にある鉄条門の鍵穴にその鍵を差し込み、時計の右回りにガチャリとやや強引にひねるのであった。
するとだ。鉄条門はガラガラッ! と大きな金属音を立てて、左から右にスライドしていく。ガキョンッ! と言う音とともに鉄条門は開ききる。
アキヅキ一行が転移門内に入り込むのを高司祭が確認すると、転移門の外にある大理石製の台座の上に取り付けられた紫色の水晶球に手をかざして、そこに自分の魔力を流し込み、転移門を起動させるのであった。
「では其方達に【運命】の導きがあらんことを……。ラー・メンッ!!」
高司祭がそう言うや否や、転移門内は光に包まれていく。
アキヅキ一行は光に包まれて、次の神殿へと運ばれることになる。だが、アキヅキはその光の中において、思うことがあった。
(【運命】ね……。何故、オレンジ=フォゲットさまは【運命】なんて言葉をわたしに贈ったのかしら? まるでお母さまが亡くなったのも、お父さまが弟につらく当たるようになったのも【運命】だと言いたいのかしら?)
ゼーガン砦の周りにも4つ砦が存在した。ポメラニア帝国とショウド国との国境線代わりとなっているダンジリ河の渡河地点に砦が2つ。ゼーガン砦の後方に後詰の砦が2つあったのだ。
どの砦も長きに渡り戦がなかったことにより、かなり老朽化が進んでいるとは言え、仮にショウド国が攻めてきたとしても、そう易々と抜けるわけがない。そうアキヅキ=シュレインは考えていたのであった。
(ここであーだこーだと考えても仕方ないわね。1年近く顔を合わせていない親子に憐憫の情を抱いたメアリーさまが一計を案じてくれた。今はそう考えるほうが自然だわ)
「爺や。わたしはこの辞令を前向きに捉えることにするわ」
「そうですか。では、私のほうからゼーガン砦に詰めるカゲツさまに連絡を入れておきますかな」
「いいえ。お父さまには驚いてもらいましょ?」
アキヅキはいたずらな笑みを浮かべてバジル爺に言うのであった。バジル爺はやれやれと両腕を軽く広げ、首を左右に振るのであった。
それから3日後の朝、アキヅキ=シュレインは準備を整えて、手勢20名を率いて、ゼーガン砦へ向けて出立するのであった。
そもそもゼーガン砦には既に100名を超す守備隊が詰めていた。そこにさらに20名もの人員を送るのはどうかと思えるが、これは単にアキヅキ=シュレインの思い付きとしか言いようがなかったのである。
「じゃあ、爺や。ゼーガン砦に行ってくるわね? 留守は任せたわよ?」
「わかり申した。当主のカゲツ=シュレインさまには、爺やがシュレイン邸に入り込もうとしている賊たちを千切っては投げての大奮闘をしたとお伝えしてくだされ」
バジル爺の軽口に思わず、ブフッと噴き出してしまうアキヅキであった。今日は3月4日。3日ほど続いていた雨は昨夜にようやくあがり、春の訪れを感じさせる暖かさをともなった陽気な日であった。
アキヅキは栗毛の馬に跨り、その馬の腹を軽く蹴る。するとだ、栗毛の馬はパッカパッカと軽快な音を立てて、ゆっくりと歩きだす。付き従う兵士たちは皆、徒歩だ。アキヅキに遅れぬようにと少しばかり駆け足で彼女についていくのであった。
シュレイン邸から国境近くにあるゼーガン砦までは歩兵隊の進軍速度で2日と少しといった距離にあった。もちろん、それは途上にある街中に建てられた神殿の転移門をふたつほど利用してでの話である。
国境近くの砦群に近くなればなるほど、転移門のある神殿は存在しなくなる。他国の軍に転移門を利用させないための処置なのだ。
そしてもうひとつの安全弁として、転移門を利用するには神殿に詰める高司祭の許可が必要となってくる高司祭の持つ鍵が無ければ、転移門へ続く鉄条門が開かない仕組みなのだ。
「ラー・メンッ! これはこれは麗しきエルフさまがやってきたものです」
高司祭がうやうやしく、栗毛の馬から降りたアキヅキ=シュレインに対して、礼をする。アキヅキとしてはこそばゆい気持ちである。アキヅキはひと目で騎士階級だとわかる紋とシュレイン家に属している証となる白鳥の装飾が左胸に施された紅玉色の甲冑を身につけていた。しかしながら、アキヅキはこの甲冑があまり好きではない。
カゲツ=シュレインが娘の美貌を世に知らしめたいとわけのわからぬことをほざいて、アキヅキの身体のラインがありありとわかるデザインに仕立てあげたからである。
アキヅキは21歳の妙齢のエルフとしては心持ち、いや、ぶっちゃけ胸のサイズが控えめであった。そのため、甲冑の胸部は彼女の胸のサイズがありありとわかるようになっており、アキヅキとしては噴飯モノであった。
(お父さま……。高司祭さまがマジマジとわたしの甲冑姿を舐めるように見ています……。嘘でも良いから、胸の部分を盛ってほしかったわよ……)
ちなみにポメラニア帝国の僧侶たちや神官、さらには高司祭は神に仕える身だからといって、妻帯を許可されないといった窮屈な教義は存在しないのであった。
それもあってか、【男は皆スケベ】と言われている通りに高司祭と言えども、やらしい眼つきでアキヅキ=シュレインの甲冑姿をマジマジと見るのである。
(うう……。わたしの胸の部分を見て、はあああ……とため息をついたかと思えば、今度は胴回りからさらに太ももを舐めるように見ているわ……)
「ふむ……。何か危険なモノを所持しているわけではなさそうですな。よろしい。転移門の使用許可を其方たちに与えましょう」
高司祭はそう言うと、アキヅキ一行を神殿の奥深くに招き入れる。そして、懐から金細工の施された鍵を取り出し、転移門の前にある鉄条門の鍵穴にその鍵を差し込み、時計の右回りにガチャリとやや強引にひねるのであった。
するとだ。鉄条門はガラガラッ! と大きな金属音を立てて、左から右にスライドしていく。ガキョンッ! と言う音とともに鉄条門は開ききる。
アキヅキ一行が転移門内に入り込むのを高司祭が確認すると、転移門の外にある大理石製の台座の上に取り付けられた紫色の水晶球に手をかざして、そこに自分の魔力を流し込み、転移門を起動させるのであった。
「では其方達に【運命】の導きがあらんことを……。ラー・メンッ!!」
高司祭がそう言うや否や、転移門内は光に包まれていく。
アキヅキ一行は光に包まれて、次の神殿へと運ばれることになる。だが、アキヅキはその光の中において、思うことがあった。
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