拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第1章:ロック=イートの夢

第9話:酒宴

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――大王歴1195年4月16日 イタリアーノ副王国 ヒマラヤン山脈ふもとのタイガー・ホールにて――

 拳聖:キョーコ=モトカードが3人の高弟を呼び出してから、3日後には正式にタイガー・ホール全体に通達を出す。ロック=イートを自分の後継者として指名したことをだ。それにより、タイガー・ホール並びにその付近の村々ではロック=イートを祝う雰囲気に様変わりし、さらにその4日後にはタイガー・ホールではお祭りが開催されることとなる。

 アンダーソン村を含めて近隣の村々からは大量の酒と料理が運び込まれ、拳聖の弟子たちはその酒に酔い、料理に舌鼓を打つ。いつもは拳聖を除いて、タイガー・ホールの面々は酒を断っているわけだが、彼らが酒断ちをやめておおいに飲む理由がもうひとつあった。ロック=イートを祝おうというおめでたい雰囲気がさらに盛り上がったのは、拳聖:キョーコ=モトカードがロック=イートの嫁として、三大高弟のひとりであるサラ=ローランをあてがうことをお祭りが開催されたと同時に発表したためである。

 サラ=ローランとしては、まだ決めかねていたロック=イートとの結婚であったのだが、数日、2人を見守っていた拳聖:キョーコ=モトカードがやきもきとして、既成事実を作ってしまったほうが早いと判断した結果である。

「ははは……。サラ姐、なんだか悪いことをした気分だよ……」

「ううん……。悪いのはお師匠様。あとで酒瓶で後頭部をぶん殴っておくわ」

 タイガー・ホールの中央部にあるちょっとした広場で拳聖とその弟子たちは毎日の食事を取っているのだが、今やそこは酒宴会場へと様変わりしていた。皆が主役席に座るロック=イートとサラ=ローランを囲み、やんややんやと騒ぎ立てる。拳聖の弟子たちはあいさつ代わりに主役席に座るロック=イートとサラ=ローランに祝言を伝え、さらには空いた杯に酒を軽く注ぎ込む。

 こういっためでたい席では、女性は杯に注がれた酒に一口つけるだけで良い。だが、男の場合はグビグビと一気に飲み干さなければならない慣例がある。ロック=イート自身は酒に弱い体質では無いが、だからといって、拳聖:キョーコ=モトカードのようなウワバミでも無い。

 もちろん、拳聖の弟子たちもそれを承知しており、ロック=イートの杯には半分程度しか酒を注ぎ込まない。しかし、拳聖:キョーコ=モトカードだけは違った。あーははっ! と笑いながら、麦酒ビールのピッチャー片手に2人の前に現れて、ロック=イートが両手で持つ杯に並々と麦酒ビールを注ぎ込む。

「ちょっと、師匠! やめてくださいよっ!」

「あーははっ! 何を遠慮しているのじゃわい! 酔っぱらっておいたほうがあとでサラとねんごろになる時に何かと都合が良いんじゃわい! 何か? 酔うとあっちが立たなくなるのかい?」

 拳聖:キョーコ=モトカードは一応、生物学的に女性として分類されるはずなのだが、彼女の発言は40~50歳のセクハラおじさんを連想させるには十分であった。ロック=イートとしては、師匠が注いでくれた麦酒ビールを飲み干さないのは礼を失するのは当然だ。彼は意を決して口を杯につける。そして、それを傾けて一気に飲み干す。

「おお、いける口じゃわい。さすが拳聖の後継者なだけはあるのじゃ。というわけで、もう一杯いってもらおうかのう?」

 拳聖:キョーコ=モトカードが上機嫌にもう一度、ロック=イートの杯に麦酒ビールを並々と注ぎ込もうとする。だが、そんなキョーコ=モトカードに水を差すかのように、彼女の後ろに控えていた人物が彼女の動作を止めるのであった。

「ウキッ! 師匠、そこまでです。次は僕がロックの杯に酒を注ぎ込む番なのです」

「ああん? わしゃに意見するのはコタロー=サルガミ、おぬしかっ! ひっく!」

 右肩をぐいっと掴まれた拳聖:キョーコ=モトカードが一気に不機嫌になり、後ろに立つコタロー=サルガミに半身を向けて睨みつける。だが、睨みつけられた側のコタロー=サルガミはヤレヤレといった感じでキョーコ=モトカードの威圧を受け流す。

「ウキキッ。僕を睨んだところで、何も出せません。というより、僕も弟弟子を祝いたいのですよ」

 コタロー=サルガミはそう言うと、拳聖:キョーコ=モトカードを差し置いて、ロック=イートたちが座る席の前にずずいと進み出る。そして、道着の胸元に右手を突っ込み、そこから1通の書状を引き抜く。そして、それをテーブルの上に放り投げるように置く。その書状の表に書かれている文字を見て、ロック=イートとサラ=ローランは驚いた表情になる。だが、対照的に拳聖:キョーコ=モトカードはニヤニヤと不敵な笑みをその顔に浮かべることとなる。

「ほほう……。酒宴の席に『決闘状』を持ち込むのかい……。これはなかなに面白い催しを企画してくれていたわけじゃな?」

「ウキッ。ロック=イートとサラ=ローラン、そして拳聖に喜んでもらえるようにと、足りない脳みそをフル稼働して、文面を書かせてもらいましたよ。ロック、是非、受けて立ってくれるよな?」

 コタロー=サルガミはこれ以上無いほどのニコニコとした笑顔で、ロック=イートにそう言いのける。しかし、ロック=イートは未だに眼を白黒させていた。何故に『決闘状』という手段を兄弟子であるコタロー=サルガミが選んだのかがわからない。

 タイガー・ホールにて『下の者が上に克つ』、言わば『下剋上』を成し遂げるには、いくつかの方法がある。拳聖がその者の実力をおおいに認めた場合はもちろん、周囲の者から実力を認められるほどの実績を上げるかだ。しかしながら、それらの方法では目的を達成するには非常に時間がかかる。だからこそ、手っ取り早く、目上を打ち負かしてしまえば良いという乱暴な手口として、『決闘状』を相手に送りつけるという方法が用意されている。

 もちろん、このルールを定めているのはタイガー・ホールのあるじである拳聖:キョーコ=モトカードである。実力が足りぬ者の序列を上にしておく道理など、実力主義のタイガー・ホールには存在しない。だからこそ、コタロー=サルガミは効率的かつ自分の実力を皆に示せて、さらには拳聖の後継者としてのロック=イートの名を地に堕とせる可能性がある『決闘』をロック=イートに申し込んだのであった。

「さあ、ロック……。僕からの挑戦をもちろん、受けてくれるよな? 拳聖の後継者たる男が、兄弟子に勝てないから闘わないという選択肢を選ぶをわけがないよな?」

 コタロー=サルガミは挑発とも取れる発言をする。否応なく、衆目はロック=イートに集中していた。『決闘状』をコタロー=サルガミが拳聖の後継者に叩きつけたことでその成り行きを固唾を飲んで、見守っていたのである。

「ああ……。コタロー兄。そうだよな……。俺が俺自身の夢を叶えようと望む以上、今こそコタロー兄を越えなきゃならないもんな……」
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