拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第4章:リリー=フルール

第5話:接待

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 ロック=イートが一番得意とするロケット・パンチを放ち、腰を抜かしている状態のソドム=ピラーの顔面にヒットさせる。いくら分厚いグローブに包まれた右手であったが、それでも十分に威力を殺し切れずに、ソドム=ピラーは鼻の骨を粉々に砕かれる。そして、大量の鼻血をまき散らしながら、後ろへとでんぐり返しを繰り返し、木製の壁へと後頭部からぶち当たる。それにより、ますます鼻血がジェット噴射のように両方の鼻の穴から噴き出ることとなる。

「しょ、勝者、ロック=イート!」

 ここにきてようやく試合管理人がロック=イートの勝利を宣言する。彼の膝はがくがくと震えていた。これほどまでに一方的な試合など、まずはお目にかかれない。出場者はどちらも必死に闘うものだ。だからこそ、あっさりと決着はつかずに泥沼の闘いに発展しやすい。それを貴族連中が外野から野次を飛ばしながら楽しむのが、この裏武闘会のいつものことであった。だが、ロック=イートはその暗黙のルールを打ち破り、3人を相手に圧勝してしまった。

 ロック=イートは勝利者らしく右腕を高々と掲げる。しかし、彼に賞賛の拍手を送る観客はまばらであった。肩透かしをくらったロック=イートは面白くないといった表情に変わり、掲げていた右腕を降ろし、グローブがはまったままの右手で後頭部をボリボリと掻くこととなる。そして、きびすを返して、この会場へと入ってきた時と同じ通路を通り、控室へと戻っていくことになる。

「コープ殿。あの戦士は一体、何者なのかね……。長年、この裏武闘会の主催者を務めてきたが、あれほどの手練れなど見たことなどないぞ」

 ルイ=ブルゲ侯爵がアレほどの逸材をどこから拾ってきたのかと、興味深そうにコープ=フルールに問いかける。すでに会場では失神した赤い三錬星レッド・アルケミィを控室兼医務室へと運び終えており、次の試合に向けての準備がなされていた。そして、その試合においての賭けが始まろうとしているのに、それそっちのけでルイ=ブルゲ侯爵はコープ=フルールに熱心にロック=イートの出身を聞き出そうとする。

「いや~。私としても、彼の実力を見誤っていましたよ。先日、仕事でポールランド副王国に行ってきた時に、奴隷商の客引きに捕まりまして。そしたら、あの有名な監獄:東の果てイースト・エンドですら手に負えない厄介な人物を仕入れたと言われましてですねえ?」

「それは前に貴殿から既に聞かされている。そうではない。東の果てイースト・エンドに入る前には、どんなことをしていたのかと聞いている」

 ルイ=ブルゲ侯爵は話をごまかそうとするコープ=フルールを逃してたまるものかとばかりに喰いかかる。テーブルに並ぶ料理やワインに手をつけず、さらには次の試合の賭け金についての話もしないでだ。それほどまでにロック=イートの存在は異様であった。裏武闘会は表の武闘会に出場できないようなスネに傷を持つものが出場することがほとんだ。

 たまにゲストとして『表』の戦士も招待されることはあっても、あくまでもゲストということで、『裏』の戦士とは戦わせずに、捕えてきた魔物モンスターなどと戦わせるのが慣例であった。ロック=イートの実力と闘い方を見れば、あの男は『裏』というよりは『表』側のニンゲンであるように思えた。だからこそ、本当に奴隷市場に流れてきた男には思えないルイ=ブルゲ侯爵だったのである。

 だが、そんな疑念を持つルイ=ブルゲ侯爵に対して、コープ=フルールは右手の人差し指で顎先をコリコリと掻き、困った表情になるばかりであった。

「いや、本当の本当に彼が東の果てイースト・エンドでの暴れ者としか聞かされていないんですよ。ねえ、リリー?」

 話を振られたコープ=フルールの娘:リリー=フルールは、父親の白々しさを感じていたが、彼女は父親や執事:ゴーマ=タールタルからの話しか聞いていないので、ルイ=ブルゲ侯爵よりも持っている情報は少なかった。なので、ルイ=ブルゲ侯爵と共に父親であるコープ=フルールを問い詰めるべきではと思ったが、ロック=イートの出自を隠しているのは何かの事情がありそうだと考え、彼女は父親の話に合わせることとなる。

「はい、ルイ=ブルゲ様。わたくしはロック=イートが下賤の身であることくらいしか聞かされていませんわ。彼が何者なのかを知りたいのは、わたくしも同じことですわ」

 ルイ=ブルゲ侯爵はドジョウ髭を左手でいじりながら、ううむ……と唸る他無かった。コープ=フルールが何かを隠しているのは察しているゆえに彼を問い詰めてはいるが、彼の娘からも何も情報は得られない。そして、リリー=フルールは本当に何も聞かされていない風であった。それゆえ、コープ=フルールの立場も考えて、これ以上の詮索を入れないことに決めるのであった。

「あい、わかった。何かしら、ひとには言えぬ事情があるのだろう。ここは不問に致す。しかし、次にロック=イート殿が裏武闘会に出場する時は、こちら側もそれに見合った相手を準備させてもらうからな?」

「こちらの事情をご理解いただきありがとうございます。いやあ、しかしロックくんのおかげでフトコロが温まりました。次の試合の賭けは締められてしまいましたので、その次の試合で儲けた分、全てを賭けちゃいましょうかねえ」

 彼らが座るテーブル席には赤いチップが大量に山積みで置かれていた。それはコープ=フルールとリリー=フルールがロック=イートに賭けた分の払い戻しである。それをよっこいしょとわざとらしい感じでコープ=フルールがテーブルの角に移動させる。もちろん、これは演技だ。ルイ=ブルゲ侯爵を軽く挑発し、彼をますます裏武闘会にのめり込ませるためのものだ。そして、続く試合で自分は負けそうな方に賭け続けて、徐々にすっからかんになっていく予定である。それこそ、ルイ=ブルゲ侯爵を喜ばせる手だと、コープ=フルールはこの時点では思っていた。

 そして、それから1時間ほど、コープ=フルールは予定通りに自分の手元にあった赤いチップを減らしていく。予定外だったことは、自分のチップが減っていくのに反比例し、娘であるリリー=フルールのチップがどんどん積まれていくことであろうか?

「ほほっ! コープ=フルール殿は商才は確かだが、賭けに関してはうといようだな。娘のほうが遥かにばくち打ちの才能に恵まれているようだわい!」

「そんなに褒められても何も出ませんわよ。次は赤コーナーの戦士に賭けようかしら? お父様と逆を張ったほうが良いというのが、わたくしのジンクスなのですわ」
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