拳聖の一番弟子がぶっ放すロケットパンチ ~氷の悪役令嬢の心を一撃で砕いてチョロイン化~

ももちく

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第6章:予選大会

第9話:鍔せり合うは

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 ロック=イートの容態がみるみると良くなっていくことにリリー=フルールは安堵の表情へと変わっていく。それを成したヨーコ=タマモに対して、リリー=フルールと水の精霊ウンディーネ共々、ペコリと素直に頭を下げる。だが、ヨーコ=タマモは気恥ずかしいのか、後頭部の髪の毛を空いている右手でワシャワシャとかきあげて

「わらわは小僧の先祖返りジュウジンモードを解いただけにすぎぬわ。それよりも小娘よ。この男から何も聞かされていないのかえ?」

「え? それってどういう意味ですの?」

 リリー=フルールが怪訝な表情になるのに対して、ヨーコ=タマモはあからさまにはあああ……と深いため息をつく。そして、ほとほとあきれ果てたという表情でリリー=フルールにとある事実を突きつける。

「治療魔術と先祖返りジュウジンモードは相性がとことん悪いのじゃ。先祖返りジュウジンモードには元々、驚異的な回復力があることは先ほど言ったばかりじゃ」

 ヨーコ=タマモはあきれつつも親切にリリー=フルールに治療魔術と先祖返りジュウジンモードとの関係性について説明をくどくどと開始する。そして、説明を聞けば聞くほど、リリー=フルールの表情は青ざめていく一方であった。それもそうだろう。先祖返りジュウジンモード発動状態時に治療魔術を重ねるということは、ぶり返しで感じる痛みは10倍近くにも達すると彼女が言うからだ。リリー=フルールはロック=イートを治療するはずが、彼女の手によって、ロック=イートを痛めつけていたという結果になっていたのである。

「そんな……。わたくしはただ、ロックに早く治ってほしいと思ってのことなのに……」

「別におぬしが悪いわけではないのじゃ。多分、この小僧自身も知らぬことだったはずじゃ。この小僧の師匠と呼べる存在が全て悪いとも言えよう」

 ヨーコ=タマモはここまで言っておいて、あることに気づく。だが、それは気づきというよりはただの希望的観測であったために、ついぞ、それを口にすることはなかった。それよりも、彼に付き添う小娘に治療魔術の扱いについて、もっと深く知っておくべきだと忠告するに留まるのであった。

「わたくし、まだ治療魔術については基礎部分しか修得しておりませんの……。この二カ月余りでどうにか形には出来ましたけど……」

「ほほっ!? 治療魔術の基礎をたった二カ月余りで修得してしまったのかえ? それはそれは。では、そこの小僧の代わりにわらわの治療を頼んで良いかのう? なあに、礼代わりと思ってもらえば良いのじゃ」

 ヨーコ=タマモはいけしゃあしゃあと言いのける。あまりにも図々しい物言いのため、リリー=フルールは、は、はいっ! と快く返事をしてしまうほどであった。リリー=フルールの想い人であるロック=イートをここまで痛めつけたのはヨーコ=タマモ自身であるのに、それをつい忘れてしまっていたのである。リリー=フルールは再びベッドに横たわったヨーコ=タマモに治療魔術を施している内に段々と怒りがこみ上げてきてしまう。大事なことを失念してしまっていた自分を叱りつけたい気分になってしまっていた。

「おお。これはこれは。本当におぬし、二カ月余りでこれほどまでの腕前になったのかえ? にわかには信じられぬのぅ……」

「え、ええ……。わたくしのロックを散々に痛めつけたヒトを治療するために習得したつもりはありませんでしたわ?」

 リリー=フルールは努めて笑顔を絶やさぬようにした。一応、ロック=イートの恩人であることには変わりないからだ。だからこそ、顔の筋肉が引きつってしまうが、ここは我慢、我慢ですわよと自分に言い聞かせるのであった。

「ほほっ! 袖すり合うは何かの縁と言うのじゃ。戦士風に言えば、鍔せり合うも何かの縁なのじゃがなっ!」

 ヨーコ=タマモのこの言い方に何故かカチンッ! とスイッチが入ってしまったリリー=フルールであった。袖すり合ううんぬんは商人の間でも言われていることである。だが、鍔せり合ううんぬんは何か引っかかるモノがある。まるで、何かを賭けての戦いに自分が巻き込まれてしまったかのような感じを受けてしまうのだ。そこはまさに女の直感と言っても差し支えない。

「あの……。もしかして、わたくしのロックに興味を持ってしまわれたのかしら?」

「うむうむ。察しの良い小娘じゃて。わらわは聡い女子おなごは好きじゃぞ。わらわはめかけで良いから、わらわも小僧の側に居ても良いかえ?」

 リリー=フルールの頭の中で何か太い緒がブチっと切れる音がこだますることとなる。そして、ヨーコ=タマモがロック=イートに腹パンを喰らった箇所目がけて、握りこぶしでドンッ! と打ち付ける。ヨーコ=タマモは溜まらずグヘォッ! と女性らしからぬ声をあげてしまう。そしてリリー=フルールは彼女への治療をやめてしまうのであった。

 だが、そんな二人を差し置いて、頭の中で算盤そろばんたまを弾いている人物が居た。それはリリー=フルールの父親ことコープ=フルールである。彼に一番似合う言葉が何なのかと言われれば、『転んでもただでは起きない』であろう。ロック=イートは常々、スパーリング相手を欲していたのはコープ=フルールも知っている。セイ=レ・カンコーは良いトレーナーではあるが、それはあくまでも調整役であり、スパーリング相手としては物足りていないことなど、百も承知だったのである。コープ=フルールはニコニコとした笑顔をたたえて、腹を両手で抑えて苦しむヨーコ=タマモに近づき

「では、商談なのですが、貴女をロックくんのめかけとしては迎え入れることは難しいですが、彼の訓練時のスパーリング相手として、私に雇われる気はありませんかねえ?」

「スパーリング相手? あれほどの手練れならば、それ相応の相手がいるはずじゃろうが」

「いや、ちょっとロックくんに関しては、情報を外に出したくない理由などがありましてですね……。寝泊まりする場所はもちろんとして、一日三食とお給金は用意しますので、どうでしょうか?」

 ヨーコ=タマモは腹を両手で抑えたままの恰好で、自分に甘い言葉を吐いてくる人物を推し量ろうとする。ロック=イートと呼ばれる人物には謎な部分が多々ある。それを知りたいという欲が彼女にあるのはもちろんのこと、これほどの強者とねんごろな関係になるのも悪くないと思っていたりもするのだ。しかしながら、一番重要な問題がヨーコ=タマモにはあった。

「わらわは別にそれで構わぬのだが、そこでわらわを呪い殺さんとばかりに睨みつけている小娘のことはどうするのじゃ? わらわは寝込みを女子おなごに襲われる趣味はないのじゃぞ?」
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