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第11章:慟哭
第10話:藍より青し
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ロック=イートはいっそこのままこの場から一歩も動かず、サラ=ローランが突きだしてきている鋭利な爪で突き刺されてしまえば良いと考えた。サラ=ローランが今こうなってしまった原因は自分にあると思ったロック=イートは自責の念にかられてしまう。せめて、彼女の手にかかり、自分が死ねばいいとさえ思ってしまう。
だが、ロック=イートの意思を無視して、身体が勝手に動く。猛然とこちら側に向かってくる獣と化したサラ=ローランを回避してしまうのだ。ロック=イートは自分の身体が自分の意思に従わぬことに眼を白黒とさせてしまう。突進をかわされてしまったサラ=ローランがギャリギャリギャリ! と石畳を爪でひっかきつつ、もう一度、ロック=イートに向かっていく。だが、二度目の突進もロック=イートの足が自然と動き、まともには喰らわない。
(俺の身体は死にたくないと言っている!?)
ロック=イートは自分の両の手のひらを見つめ、何故に自分の意思に反して身体が勝手に動くのかと自問自答する。ロック=イートが見つめるその手には熱が宿っていた。それは死に行く者が発する熱量とはとてもではないが思えない。ロック=イートはまぶたを閉じ、身体の声を聞こうとする。観客たちの悲鳴にも似た声が耳から遠ざかる。サラ=ローランが口からまき散らす慟哭さえも遠ざかる。そして聞こえてくるのはドクンドクン! と力強く脈打つ自分の心臓であった。
(俺は生きたいんだっ! 俺は、俺は……、俺はっ!!)
ロック=イートは眼を見開き、またもや突進を繰り出すサラ=ローランを真っ直ぐに見る。その時、ロック=イートの瞳には紅い焔の意思が宿っていた。自分に嘘はつかない。自分の心を自分で折る気は無いと、その瞳の色がはっきりとそう告げていた。
「ロケット・パーーーンチッ!!」
ロック=イートは真っ直ぐに突っ込んでくるサラ=ローランに向かって、今持てる力の全てを込めた渾身の正拳突きをぶっこむ。サラ=ローランはすんででそれをかわし、身を翻してロック=イートの右肩を鋭い爪で引き裂く。さらには互いの身体が交差すると同時に両足でロック=イートの背中を蹴っ飛ばす。ロック=イートは前のめりに体勢を崩し、あわや石畳の上で転がりそうになる。
しかしながら、ロック=イートはふんばりを利かせて、体勢を整える。両足に力を込めつつ、右腕を身体の内側へと折り曲げる。サラ=ローランの手の先に生える虎のような爪はロック=イートが着ている道着を易々と引き裂き、ロック=イートの右肩からはドクドクと血があふれ出している。だが、それでもロック=イートは右の義腕を用いて、サラ=ローランを打ち倒すこそが彼女にとっての最善だと思ってしまう。
この義腕をとりつけてくれたのはサラ=ローラン本人だ。生身の右腕は5年前のあの日に切断された。その代わりに自分に託されたのが、この黒光りする義腕であった。ロック=イートはこの新しい右腕を自分のモノにするために5年の歳月を費やした。ならば、自分が歩んできたこの5年間をサラ=ローランに告げるには、この拳でなければならないと感じたのだ。
4本足の獣と化したサラ=ローランがグルルゥ……と低くうなりながら、ロック=イートとの間合いを推し量る。彼を中心として時計回りに移動しつつ、仕掛けるタイミングを計っていた。サラ=ローランが自分から見て、右側へと移動していくので、ロック=イートもまた彼女の動きに合わせて、両足をスライドさせていく。観客たちは固唾を飲んで彼らを見守る。次の一撃こそがこの勝負の行く末を決めると信じて疑わなかったのだ。
「わたくしの騎士様! どうか、勝利をもぎとってほしいのですわっ!」
「ロックさんっ! サラさんをどうかお願いいたしますぜっ!」
「ロック! 昔の女など遥か彼方にぶっとばしてやれぃ! 手向けの一撃を食らわしてやるのじゃっ!!」
試合場である石畳の外に広がる芝生の上で試合を観戦していたリリー=フルール、セイ=レ・カンコー、ヨーコ=タマモがロック=イートの背中を押すような一声をそれぞれに掛ける。ロック=イートはその声援を背中に受け、ただ一言。
「おうっ!!」
ロック=イートはそう叫ぶと同時に、左足で石畳を蹴り飛ばし、それによって生まれたエネルギーを推進力へと変える。サラ=ローランとの距離を一気に縮めたロック=イートは右足でドスンッ! と石畳を踏みつける。それと同時にサラ=ローランは虎の前足を連想させるような両腕をロック=イートの脇腹に横から押し当てる。その腕の先には鋭い爪がギラリと怪しげな光を放っていた。ロック=イートは両脇腹に大きくて鋭い爪を突き立てられるが、それでもかまわぬとばかりに右足から伝わってくるエネルギーを打拳力へと変換する。
ロック=イートの身を護る道着はズタボロの雑巾のようになり、サラ=ローランの両手の爪が徐々にロック=イートの身体にめり込んでいく。ロック=イートは腹に激痛を感じたが、それでも上半身をひねり、背筋、右肩、右ひじ、拳へと打拳力を伝播させていく。狙うはサラ=ローランの眉間ただひとつ。ロック=イートは折りたたんでいた右腕をひねりながら真っ直ぐそこにぶっこむ。
ロック=イートの正拳突きがサラ=ローランの眉間に突き立ったと同時にロック=イートが口を動かし、とある言葉を彼女に告げる。
「モトカード流拳法 第4条:青は藍より出でて藍より青し。ロック流拳法の始まり:ロケット・パンチ」
ロック=イートがそう宣言するや否や、サラ=ローランの目玉はグルンと上を向き、彼女は白目を剥く。そして、口の端から血の色をした泡を吹き、膝から崩れ落ちるように石畳の上に倒れていく。サラ=ローランは石畳をベッドにしながら、段々と元の姿へと戻っていく。彼女の肥大化した筋肉は収縮を始め、それと同時に彼女の身体を覆っていた獣の毛も抜け落ちていく。
次第に彼女は産まれたままの姿へと変わっていく。先祖返りによって、彼女が身に着けていたレスリングスーツはとっくの昔に弾け飛んでしまっていた。さらには、その裸体を覆い隠していた獣の体毛も抜け落ちてしまっている。彼女が今、身体に身に着けているのは両腕に装着している緋緋色金製の手甲のみである。
10カウントを数え終わった弓神:ダルシゥム=カーメンが妙齢の女性が観客たちに裸を見られるのは酷であろうと考える。石畳へと上がり、彼女に自分が羽織っている碧玉色の外套を外し、彼女の身体にかけようとするのであった。
だが、ロック=イートの意思を無視して、身体が勝手に動く。猛然とこちら側に向かってくる獣と化したサラ=ローランを回避してしまうのだ。ロック=イートは自分の身体が自分の意思に従わぬことに眼を白黒とさせてしまう。突進をかわされてしまったサラ=ローランがギャリギャリギャリ! と石畳を爪でひっかきつつ、もう一度、ロック=イートに向かっていく。だが、二度目の突進もロック=イートの足が自然と動き、まともには喰らわない。
(俺の身体は死にたくないと言っている!?)
ロック=イートは自分の両の手のひらを見つめ、何故に自分の意思に反して身体が勝手に動くのかと自問自答する。ロック=イートが見つめるその手には熱が宿っていた。それは死に行く者が発する熱量とはとてもではないが思えない。ロック=イートはまぶたを閉じ、身体の声を聞こうとする。観客たちの悲鳴にも似た声が耳から遠ざかる。サラ=ローランが口からまき散らす慟哭さえも遠ざかる。そして聞こえてくるのはドクンドクン! と力強く脈打つ自分の心臓であった。
(俺は生きたいんだっ! 俺は、俺は……、俺はっ!!)
ロック=イートは眼を見開き、またもや突進を繰り出すサラ=ローランを真っ直ぐに見る。その時、ロック=イートの瞳には紅い焔の意思が宿っていた。自分に嘘はつかない。自分の心を自分で折る気は無いと、その瞳の色がはっきりとそう告げていた。
「ロケット・パーーーンチッ!!」
ロック=イートは真っ直ぐに突っ込んでくるサラ=ローランに向かって、今持てる力の全てを込めた渾身の正拳突きをぶっこむ。サラ=ローランはすんででそれをかわし、身を翻してロック=イートの右肩を鋭い爪で引き裂く。さらには互いの身体が交差すると同時に両足でロック=イートの背中を蹴っ飛ばす。ロック=イートは前のめりに体勢を崩し、あわや石畳の上で転がりそうになる。
しかしながら、ロック=イートはふんばりを利かせて、体勢を整える。両足に力を込めつつ、右腕を身体の内側へと折り曲げる。サラ=ローランの手の先に生える虎のような爪はロック=イートが着ている道着を易々と引き裂き、ロック=イートの右肩からはドクドクと血があふれ出している。だが、それでもロック=イートは右の義腕を用いて、サラ=ローランを打ち倒すこそが彼女にとっての最善だと思ってしまう。
この義腕をとりつけてくれたのはサラ=ローラン本人だ。生身の右腕は5年前のあの日に切断された。その代わりに自分に託されたのが、この黒光りする義腕であった。ロック=イートはこの新しい右腕を自分のモノにするために5年の歳月を費やした。ならば、自分が歩んできたこの5年間をサラ=ローランに告げるには、この拳でなければならないと感じたのだ。
4本足の獣と化したサラ=ローランがグルルゥ……と低くうなりながら、ロック=イートとの間合いを推し量る。彼を中心として時計回りに移動しつつ、仕掛けるタイミングを計っていた。サラ=ローランが自分から見て、右側へと移動していくので、ロック=イートもまた彼女の動きに合わせて、両足をスライドさせていく。観客たちは固唾を飲んで彼らを見守る。次の一撃こそがこの勝負の行く末を決めると信じて疑わなかったのだ。
「わたくしの騎士様! どうか、勝利をもぎとってほしいのですわっ!」
「ロックさんっ! サラさんをどうかお願いいたしますぜっ!」
「ロック! 昔の女など遥か彼方にぶっとばしてやれぃ! 手向けの一撃を食らわしてやるのじゃっ!!」
試合場である石畳の外に広がる芝生の上で試合を観戦していたリリー=フルール、セイ=レ・カンコー、ヨーコ=タマモがロック=イートの背中を押すような一声をそれぞれに掛ける。ロック=イートはその声援を背中に受け、ただ一言。
「おうっ!!」
ロック=イートはそう叫ぶと同時に、左足で石畳を蹴り飛ばし、それによって生まれたエネルギーを推進力へと変える。サラ=ローランとの距離を一気に縮めたロック=イートは右足でドスンッ! と石畳を踏みつける。それと同時にサラ=ローランは虎の前足を連想させるような両腕をロック=イートの脇腹に横から押し当てる。その腕の先には鋭い爪がギラリと怪しげな光を放っていた。ロック=イートは両脇腹に大きくて鋭い爪を突き立てられるが、それでもかまわぬとばかりに右足から伝わってくるエネルギーを打拳力へと変換する。
ロック=イートの身を護る道着はズタボロの雑巾のようになり、サラ=ローランの両手の爪が徐々にロック=イートの身体にめり込んでいく。ロック=イートは腹に激痛を感じたが、それでも上半身をひねり、背筋、右肩、右ひじ、拳へと打拳力を伝播させていく。狙うはサラ=ローランの眉間ただひとつ。ロック=イートは折りたたんでいた右腕をひねりながら真っ直ぐそこにぶっこむ。
ロック=イートの正拳突きがサラ=ローランの眉間に突き立ったと同時にロック=イートが口を動かし、とある言葉を彼女に告げる。
「モトカード流拳法 第4条:青は藍より出でて藍より青し。ロック流拳法の始まり:ロケット・パンチ」
ロック=イートがそう宣言するや否や、サラ=ローランの目玉はグルンと上を向き、彼女は白目を剥く。そして、口の端から血の色をした泡を吹き、膝から崩れ落ちるように石畳の上に倒れていく。サラ=ローランは石畳をベッドにしながら、段々と元の姿へと戻っていく。彼女の肥大化した筋肉は収縮を始め、それと同時に彼女の身体を覆っていた獣の毛も抜け落ちていく。
次第に彼女は産まれたままの姿へと変わっていく。先祖返りによって、彼女が身に着けていたレスリングスーツはとっくの昔に弾け飛んでしまっていた。さらには、その裸体を覆い隠していた獣の体毛も抜け落ちてしまっている。彼女が今、身体に身に着けているのは両腕に装着している緋緋色金製の手甲のみである。
10カウントを数え終わった弓神:ダルシゥム=カーメンが妙齢の女性が観客たちに裸を見られるのは酷であろうと考える。石畳へと上がり、彼女に自分が羽織っている碧玉色の外套を外し、彼女の身体にかけようとするのであった。
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