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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
10 結婚相手に! お断り
しおりを挟む「鳥の鳴き真似、上手いね。お嬢ちゃん」
その言葉を聞くと、その少女はぺかーっと満面の笑みになり、さささと部屋にエレの横を抜けて部屋に入ろうとした。
「――ンェ!」
襟首を掴んでグイと引き戻し、頭や肩についていた枯れ葉をパッパと払う。何故、そのまま人様の家に上がろうと思えるのか。
「おはようエレ! いい天気だヨ!」
「早う」
挨拶を交わし、白湯をちびっと飲んだ。
「あと、枯れ葉が空から降ってくるのは、いい天気とは言わねぇぞ」
「???? そうだネ!」
おそらく意味は分かっていないだろうが、肯定をしてきたこの少女は、昨日冒険者組合で出会った神官様だ。
オレのことを探していたらしいが、記憶にはこんな少女は存在せず。勘定を済ませると、建物を縫って足早に家に帰ってきた。
(巻いたと思ったんだが)
「で、なんで俺の家を知ってる。受付の人から聞いたのか?」
「ウウン! 後ろからついて行ってた!」
(巻けてなかったのか……)
少女のやることではない。ましてや神官が、扶養者を持たない男性の後ろを尾行して、家を特定しただと?
「やっぱり、オレ、色々とガタが来てるな……」
こんな少女の尾行にすら気づけ無いって? 不甲斐なさに頭を抱える。
今なら、モスカや国王が「お前追放だ!!」と言った気持ちが分かる気がする。
「エレ! 昨日の返事を聞きにキタ!」
「あ? 返事? なんだっけ?」
すると、ごそごそと、後ろに隠していた手をエレに向けた。
そこには、花屋で見繕ってきたと思われる――綺麗な白く縁どられた緑の葉と、赤いカランコエ、白いカーネーションが握られていた。
「ワタシを、お嫁さんにして下サ――」
「いやです」
「エ?」
「え?」
首を傾げて、エレの顔を見つめた。
「ワタシを」
「うん」
「お嫁さんニ――」
「いやです」
「結婚相手ニ――」
「お断りします」
「花嫁に迎えテ――」
「他を当たってください」
徹底して断りを入れているというのに、少女は不思議そうにしているばかりで諦めるような気配は全くない。
その後も同様の言葉を並べられては断っていると、少女の語彙力が底をついた様子で唸り出した。
「なんデェ……? ワタシ、魅力なイ?」
「出会ったばかりの女性に求婚されたら、警戒もすると思うけど。普通に怖いよ?」
「だったら、お仲間に入れてくださイ!」
ピクリと、寝ぐせの黒髪が跳ねた。
「……ほお。仲間とは、具体的に」
「ワタシは傷を治せル! めちゃめちゃ勉強しタ! すごイ! エレもきっと喜ブ!」
傷を治せる――と、髭が生えていない顎に手を当てた。
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