英雄喰らいの元勇者候補は傷が治らない-N-

久遠ノト@マクド物書き

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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》

21 勇者の成り損ない

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「なぜ……生きてる?」

「はぁ? オレのことくらいルートスの叙事に……あぁ、そうか。アレは塔で管理されてんのか」

 刺された武器をすべて抜き、地面に突き刺した。
 
「まぁ、モスカの冒険譚は……王様宛に送ってたろ。まぁ、アイツの賦詠みたいなもんだ。そこには書かれてはなかったのか?」

 男の反応を見る限り、何も知らないらしい。

「なんだ。そっか……オマエも可哀想だな」

 ──ブンッ。
 言葉では彼のことを思い、行った行動は、剣を腹部に向けて投げつけるというもの。

「グッ──アァアアァッ!?」

 弓使いの体は軽量化がされていることが多い。突き刺さった勢いのまま木にぶつかった。

「ブッァ──」
 
 酸素が抜けて朦朧とする男の顔の横に剣を突き刺し、反対側に靴裏を押し付けた。
 顔を近づけ、エレはひどく優しそうに笑った。

「教えてやるよ。オレ、死ねないんだよ。どこぞの神からもらった異能とやらでな」

「ヒッ……」

 男の顔に絶望がべったりと張り付くとその体は電撃でも浴びたかのように震えだし、熱り立っていた股間は萎びて黄色の体液を吹き出させた。

「気の毒に、適当な情報を掴まされたんだな」

 アイツは弱っているから勝てる、とかなんとかそんなことを吹き込まれて遣わされたのだろう。
 やっぱり、王国というのは人的資源をただの数として見ているようだ。彼も消耗品という奴だ。

 若干、気の毒に思っているエレの前で、男は冷や汗をかきながら叫ぼうと口を開いた。

「お前ら何をしてる!! そいつをころ──」

「──ウルサイ!」

「ジェア!?」

 男の頬を横から殴った白い影。それはしょぼしょぼする目を擦る少女神官だった。
 
「お。アレッタ」

「エレいなくなったと思ったラ……なにしてるノ!?」

 森の奥といっても騒げば気づくものもいるだろう。おそらく、マルコも気がついている。
 が、参加するとエレの邪魔になるかもと思ってこないのだろう。
 その点、アレッタはそんなのお構いなしに飛び込んできた。まぁ、若いから仕方がない。

「アレッタ。危ないから隠れとけ」

「イヤだ!! はやく寝ようヨ~!! もう、ねむくテ……」

「こんのっ、ガキが調子を──」

「──ダマレ!!」

「オロオァ!?」

 懐の刀を取り出して襲った男の顎を蹴り上げ、そのまま腹部に連撃を食らわせていた。
 エレは目を瞬かせた。

 弓使いといえども、涸沢ターシアだ。彼も勇者候補のうちの一人だった者。
 それを神官が倒すというのは前代未聞だ。

「……武闘家モンクってのは、ホントだったのか。とんでもないな」

 金等級の実力があるのかと伺っていたが、評価を改める必要がある。

「エレぇ……ねようよぉ……って、エ!? なにそのキズ!?」

 アレッタがエレに飛びついて、先程受けた傷を触れながら絶句をした。
 ──傷が増えている。ということは、

 眠たいアレッタの頭であってもその犯人が誰かは分かった。
 バッと振り返った時には、少し遅かった。

「お前らァ!! ソイツらを殺せ──」

 エレは武器を投げつけて胸を貫くが、発声してしまえば命令は届く。
 弓使いが死んだあとは彼らを止めることのできる理性持ちはいない。

「はぁ……面倒な仕事を残して行きやがったな」

 アレッタを背にして、男の胸部に突き刺さっていた武器を抜いた。

「隠れとけ。コレはオレの仕事だ」

「ヤダ。エレに傷をつけるヤツはワタシが許さン」

「なら、殺しはするなよ。神官の手を汚すのは遠慮するからな」

「マカセ!」



 …………
 ……



 武器が月明かりに照らされる。
 短剣と呼ぶには先端が細長く、レイピアと呼ぶには幾ばくか短い。
 エレがずっと持っているその武器はどこかの魔族を倒した時に手に入れたモノだ。

「勇者を支援すらしなかった国王が、オレに刺客を送るとはな……ぁ」

 武器を振るうと──瞬く間に男たちの首を跳ねた。
 鮮血が月下に散り、地面には鈍い振動音が響く。そのうち、飛んできた首の髪の毛を掴み、エレは座った。

「…………可哀想に。お前らも希望を持って生まれただろう」 

 死者を冒涜するつもりはない。
 
 その反対側ではアレッタが涸沢ターシア相手に蹂躙していた。
 眠たいといっていた少女は動きにくい神官服のまま、的確に急所を狙い拳を振り抜いている。
 
「アイツはアイツで何者だよって」

 東方の出身だったら有り得る話か。
 魔族の驚異にさらされている土地で育った者は、西方にいる只人よりも成長速度が尋常じゃない。
 涸沢ターシアの壊れた器も撃沈をし、地面に伸びている。

 ──下手したら、白金等級くらいの実力があるんじゃないのか……?

 少なくとも、昔の山ごもりをしてた時のオレよりは強い。
 奇跡も毎日、五回も祈ってくれている。回数だけ見ても金等級には収まらないな。
 これは、将来化けるぞ。とんでもない逸材だ。
 
「アレッタ。もういいぞ、こっちこい」

「ン!」

 歩み寄ってきたアレッタの頬についた血液を手拭いでぬぐう。その傍ら、抜き身の短剣で男たちの首を斬撃で跳ねた。
 それらを他の死体と同じ場所に置いて、隊長だった男の服を探る。
 
「武器、装備。本当に涸沢ターシアで確定だな。勇者の育成機関の失敗作。勇者に選ばれなかったから転用された使い捨て」

 はあ、と息を吐いた。ほしい武器も無ければ装備もない。ただ、彼らは王国の非公認のなんでも屋。装備に王国の紋章を刻まれていないから高く売れる。死者と共に装備を埋めるのはどこかの風習であるが、殺しに来た彼らにそこまでする義理はないだろう。

「お前らの装備、武器、もらうぞ。だから、安らかに眠れ」

 弓使いの目を手で閉ざす。

「アレッタ。祈りを」

「エレ以外に祈ると神様に怒られル……」

「何いってんだ。ほら、祈れ」

 死体の山に向かって手を組み、祈祷を捧げる。
 基本的に自分が手にかけた者たちに対してする行為ではないが、これは例外だ。 
 人の命をなんとも思わない組織に育てられた者たちに幸せは訪れない。
 
 ──死こそ、開放。

 どこぞの死霊術師の言葉を思い出す。
 エレが死なないからこそ、その言葉の真意を理解した気がする。

「……どこかで間違ってたら、オレもそっち側だったのかもな」

 冬至を過ぎ、時期は息が白くなる季節。
 十何年前の勇者選定の日に彼らの人生も決まったのだ。

 神殿の子ベネデッドと呼ばれるが、事実上、勇者の器のために育成された子どもの一人だった。
 結果、勇者に選ばれずに……神殿を飛び出したのだ。
 そして、あの人達に拾われて、人生がまた変わった。

「元気にしてるかなぁ……お師匠は」

「エレにも師匠がいるノ?」

「あぁ。三人もいるんだ。すごいだろ」

「……また、その話はスル。ケド、いまは、とりあえズ」

 ズイとアレッタは幌馬車の方を指差した。
 人を殺した後にすぐに眠たくなるとは、やっぱり普通の神官じゃないな。
 そんなことを思いながら、袖を引っ張られるままエレは幌馬車に戻っていった。
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