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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
20 殺したはずの
しおりを挟む「ヌ、ィ」
男の顔面から頭部にかけてが半分に分たれ、循環していた筈の血液は元気よく吹き出していく。
「オマエ……なんっ」
「質問に答えろよ。ほら──」対象の男は隊長の死体を蹴って渡し、そのまま男の体をまっすぐに貫く。「ナァ、聞いてんだろ。誰の命令でオレの命を狙ってんだよ」
貫いたまま隊長の背中を蹴り飛ばし、武器を引っこ抜く。
「アアアァァァァァ!!!」
そして、よろめいたエレに襲いかかったのは妙諦の調式の対人術だった。
首、胸、脇腹、肋骨、瞳、顎、またたく間に連撃を繰り出す殺人の技。初見で防ぐのは至難の技である。
だというのに──
「──おぉ、はやいな」
「アァァッ……ッ?」
なぜ、この男に届かないんだ!?
「この決まった型は、妙諦の調か。となると、お前ら、勇者の失敗作か」
連撃を見切るという言葉では生ぬるいソレは、すべて、どこを狙っているのかを知っているかのように叩き落としてくるのだ。
「基本の型を崩さずに相手に使うのはいいが、応用ができてこそ習得だ」
徐々に、徐々に、ほんとうに少しずつ、エレの速度が上がっていき──いつのまにか、後手に回っていた男は自分が貫かれてしまう。
「グッ……ァ」
頽れる敵を斬り伏せ、鋭利な岩壁に蹴り飛ばした。
「──お前らは見てるだけか?」
攻撃の隙はいくらでもあった。が、襲ってこなかった。
振り返り見ると、その理由も分かったのだが。
目が虚ろ、焦点が合っていない、口からはだらしなく唾液が伝っている。
「……ほぉ、放心状態……というか、器が壊れてるって感じか」
エレが近寄っていっても反応はなし。
「で、奇襲を狙うって算段と」
目の前の男を持ち上げ、射られた矢を防ぐ。
「なんだとッ!? なぜ分かったんだ!!」
「なんでだろうな。アレッタの尾行には気が付かなかったのに」
エレは盾にしていた男を放り捨て、首を鳴らした。
──殺意とか、敵意、とか。そういう黒い感情なら分かるのか?
アレッタには殺意が無かったということか。エレは小さく笑う。
「隙だらけだ──ッ!!」
隠れていた男が岩場からまっすぐエレに向かって武器を伸ばした。
「──!」
踏み込みの音がなかった。移動の音も──
ただ、剣嚢が擦れる音だけが残念だ。
「──《刃弾》」
エレの脇下を狙った剣は軌道がズラされ、空を捉える。
「なにを、したァァァ!?──グヌウゥゥッ!??」
上体が死んだ男の喉をエレは押さえつけ、ミシミシと骨が軋む音が響く。
首肉と喉頭結節が絡まるように、貫くように。呼吸すらも通さぬように空間が絞り取られて行く。
「《ことば》だよ。魔法、知ってるだろ?」
ギジ、ギチ、と。骨が肉を貫く中、男は叫んだ。
「総員ンッ!! 戦え──ッ!!」
森奥にいた指示待ちの男たちの瞳に光が宿るのが見えた。
「ほお……隊長が死ねば、次は意識を持ってる奴が隊長になるのか。だから、まとめてかかってこなかったのか?」
勇者の器になれなかった者たちの刃が一斉に襲いかかってくる。
その数は13人。木の上から降り注ぐ者、間合いの外から弓を射る者、蛇のように地面を這うように来る者。
「ったく……汗かいたらどうすんだよ」
エレは武器を構え、月明かりに照らされて──その腕が飛んだ。
「──は?」
殺したはずの男が喉から血を吹き出しながら、最後の力で剣を振るったのだ。
握っていた武器は飛んでいき、壊れた器たちの攻撃はその小さな体を切り裂いた。
「──……っ」
血があふれる。上体だけでなく足まで切り裂かれ、幾つかの剣は体を貫いたまま地面に突き刺さっている。
実質上の固定──そして、その男の眉間に弓を射る。当然、ヒット。頭が飛んでいった。
「っ──はあっ! これで、やったか。……危なかったな」
エレの体を襲った男たちは、だらんと脱力し、次の武器を腰帯にかけていた剣嚢から取り出す。
弓使いは、口元の布を外し、外の空気を吸い上げた。これで、対象は排除できた。あとは、と。
「ガキと商人だけだな。物資、女は……若いのは趣味じゃあないが、まぁ、楽しめるだろう」
木上から遠い幌馬車を眺めて口周りを舌で舐め取った。脳内では女の体を弄んでいるところだ。
股間が熱り立つ。戦闘の興奮が止まない。汗を拭い、木上を勢いよく蹴り、真っ直ぐに幌馬車にめがけて、
──背中に熱い衝撃を喰らい、無様に落下した。
「グアアアッ!?」
何が起こったのか分からない。壊れた器どもがなにかやったのか。背中に突き刺さっていたのは彼らの使っている武器だ。
男は震えながら──怒りか、血液が止めどなく溢れているからかわからないが──仲間たちの方を見やる。
「オマエらァッ!! 一体、何してんのか──」
「あー、握力も弱まってるんだった。殺しきれてなかったかぁ……まずったまずった」
「──わかって……」
声。
耳がまだ覚えている声。
それは、対象の声で……殺したはずの男の声で。
飛ばしたはずの頭にあるはずの口腔で、ことばを喋っていて。
「よぉ。今は、お前が隊長なんだな? 壊れてない器はお前だけか? ってかいい武器使ってんな。昔のオレのより上等な武器じゃないか」
そこには殺したはずのエレがいた。
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