英雄喰らいの元勇者候補は傷が治らない-N-

久遠ノト@マクド物書き

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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》

29 アレッタ初めての依頼

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 一方のその頃。

「……ウゥ」

 アレッタはエレが選んだ冒険者依頼を握って、街路の端にポツリと佇んでいた。
 レンガ造りの建物に背を預けて、裏道に目を向ける。ごみの集積容器の上に留まり、ツンツンと突いているカラス。

「ハァ~ア!」

 ため息をつく彼女の手に握られている『しわくちゃの依頼書』は『ヤケンの退治』というシンプルなモノ。どうやら最近、この街にヤケンという暴れん坊の被害が多く出ているのだという。

「……ヤケン、ヤケン」

 アレッタは「ヤケンはイヌのような見た目」だと教えられた。

 イヌだ。四足歩行で、耳があって、ワン! と鳴く。エレは分かるだろう? と言っていた、が。

「……ンム」

 腕を組んで悩んだ。

 アレッタの小さな頭の中では「ヤケン」という奇怪なバケモノが四足歩行で歩き回って、人をむしゃむしゃと食べている。

「難しそウ……勝てるかどうカ」

 そう、アレッタは犬が見たことが無かったのだ。

 小さな冒険者は初っ端から路頭に迷っていた。 


      ◆◇◆


「アレッタさん。エレさんの仲間なんですよね? でしたら、冒険譚とかってありますか?」

 興味本位で聞いたマルコのこの質問がことの発端だった。

「ウン! えっとね、まずは──」

「こいつと冒険なんかしたことないぞ」

 外を眺めていたエレの一言は、アレッタの言葉を遮った。
 その時は幌馬車の外から聞こえる喧騒がより際立って聞こえた。
 この間の戦闘は、あくまで『戦闘』であって『冒険』ではないのだ。

「それに、まだ仲間だと思ってない」

「エ!?」

「え?」

「は?」

「だって、エレ、金等級になれば……」

 そう言いながら、神官衣の中からゴソゴソと取り出した黄金色の認識票を取り出した。

「仲間にしてやるって言っタ!」

「組んでもいいかなとは言った」

「ウソ!」

「嘘じゃねぇ」

「っていうウソ!」

「エレさんにそこまで言えるのですから、仲間の素質があるように見えますがね」

「ヤッター!」

「やめてくれ。コイツは仲間じゃなく、旅の同伴者だ」

 エレは首を傾け、幌の外を確認した。

「もうそろそろか。じゃあ、降りるぞアレッタ」

「エ?――ウワッ!」

 アレッタの首根っこを捕まえ、もう片方の手では自分の腰包みとアレッタの錫杖を掴んで飛び降りた。

「それでは、また!」
 
「あぁ。じゃあな、マルコのおっちゃん。約束した場所で」

「はい! それでは!」
 
 マルコに別れの言葉を残し、猫のように吊るされていたアレッタを地面に降ろした。パンパンと神官服を正していたら、エレが歩き始めた。少し遅れてついていった先、ついたのは冒険者組合だった。

 さすが、王都の冒険者組合だ。規模が違う。しかし、エレもアレッタも建物の外面など興味はないようで、行き交う人々を縫って組合所内のコルクボードについた。

「おーおー繁盛してるな。これだけ依頼がありゃあ、食いっぱぐれもなさそうだ」

「ワァー! これ全部アレッタがする依頼!?」

「これ全部やったらそりゃあ凄い。でも違う。アレッタがするのはー……」

 金等級向けの依頼を見つけ、エレはコルクボードから引っぺがして見つめる。

「……? なんだ、この依頼。イヌ……退治? はぁ? 都にモンスターが出てるって? どんな依頼だよ」

 どうやら街中にモンスターが出現しているらしい。警備の杜撰さに頭を抱えるが、書かれている内容はその原因の追求などはない。

 エレが内容を確かめていると、隣で立ったままのアレッタに気がつく。

「説明がまだだったか?」

「おいてけぼりダッタ」

「そうか、悪いな。ん、手を出してくれるか」

 不思議がるアレッタの手の上に、一枚の依頼書を置いた。 

「アレッタの実力はこの間の戦闘でなんとなく分かった。だから今度は俺が選んだ依頼を達成してきてくれ」

 その後は、受付へと足を運んで説明を受けていた。

 受付嬢が「ヤケン」がどうとか、被害がどうであるとか、認識票を見せてくださいとか。

 その若い受付嬢はマルコが街につくまでにしてくれていた話に出てきた「雪女」みたいで淡々としていて、エレの事すら知らない様子だったのは覚えている。

 ということは『アレッタの敵ではない』ということなので、アレッタは敵探知の「おんなのかん」をしまい込み、適当な笑顔を浮かべた。

「アレッタ。認識票を」

「ン」

「拝見いたします」

「はいけんしロ」

「言葉遣い」

「してくださイ」

 首にかけているチェーンを痛くない程度に持ち上げられていると、確認が終わったらしい。

 依頼の発行に移り、アレッタに暇な時間が到来をしたその時、背後から大きな声が聞こえてきた!
 そう! ここからが、事件の始まりである!
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