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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
40 天敵
しおりを挟む「お呼びでしょうか。陛下」
「おぉ、きたか。モスカ。現代の勇者よ」
呼ばれた一室は、王の執務室。
以前の国王は権威、権威、と外面をよく見せようと奔走した結果、どの部屋も無駄な装飾が施されていた。それも昔の話。
ここ執務室も質素な造りとなり、煌びやかだった時代を知る者は召使い長と国王だけとなっている。
「ご用件をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「どこへ行こうとしていた?」
国王にも叙事の変更が間に合わなかったという旨の連絡は届いている。隠しても無駄だろう。
「国の不利益となる人物を処理するために」
「それは勇者がする仕事かな? 部隊を送れば済む話だろう」
「時間の無駄です。私が直接手を下した方が早い。王国内でしたら単独行動でも問題有りませんし、それに──」
「そうか。そういうことなら問題はない。これから任せる仕事をしてもらえれば、そのようにしてもらって構わない」
モスカに向けて笑みを浮かべる国王。
「あの選ばれなかった者を一党に組み込もうとしたのは、モスカ。お前だったな」
空気が一瞬にして淀んだ。ピリ、と手が痺れる。
「…………はい」
モスカは内心で毒づく。当時のディエス・エレという英雄候補の一人は、誰が見ても勇者の一党に相応しいと思われた。
王様も疑問を呈さず受け入れたはずだ。
「あの者は魔王を殺す目的を達成せず、国民を不安にさせた責任を取った」
「ならば、私はその者を選んだ責任を取れ、と」
「理解が早くて助かるよ」
王は目の奥に闇を宿し、それを誤魔化すように口角を持ち上げて頬肉で隠した。
「彼を解放してあげたまえ。これは勇者の君にしか出来ない仕事さ」
机の上を指でトントンっと叩く。
「それに……今抱えている問題も彼を解放したら済む話ではないかね?」
「それは……そうですが」
解放。それが何を指しているのかはもちろん分かっている。だが、ここは一応認識の違いがないようにしなければならない。
「私にしかできない仕事……というのは?」
国王は机の上に置いていた書面を確かめつつ、言葉を続ける。
「選ばれなかった者の研究は数年前に止まった。今までなかった只人の登場に、皆は恐れ、それと同時に理解をしようとした。そして、彼らは勇者の器である、という段階で止まっている」
「それは私も把握をしております。彼らの力は人智を超えています」
「そのとおりだ。だからこそ、役目というものが与えられている」
「力には代償が伴う。強大な力を持つものはその分、運命の波が大きくなる。……私は魔王を倒すことが役目。では、彼らは」
「只人が魔王に勝つための礎となること。しかし、彼に関してはその役目を放棄した。役目は果たせれなければ、彼の器は意味がないということになる」
強大な力を持つ者が役目を放棄した結果、国の敵になることがある。現状のディエス・エレの立ち位置は国にとっても看過できない場所であった。
「だからこそ、その因果を断ち切り、彼を静かに看取ることが出来るのは勇者であるモスカ。オマエなのだ」
上げていた口角を下げる。
先程よりも瞳の奥の闇は深くなっていた。
「ディエス・エレを殺せ。勇者のお前なら、息の根を止められる。これは、研究者と神官からの有力な情報だ」
「……!」
身体中に電撃が走った気がした。
それは神託にもにた感覚であった。
「アイツも旅路に同じようなことを言っていました」
モスカは旅路で、一度だけ聞いたことがあった。
殺しても死なぬ体であったエレに、貴様は何故死なぬのだ、と。
──俺が死ぬ時は、役目を終えた時だろうな。
彼に与えられた役目とは、勇者の補助。
その彼の因果を断ち切ることができるとしたら、魔王か勇者だけ。勇者が必要としなかった場合、彼の役目は果たせれなくなる。
そして、モスカは勇者だ。
(オレが、アイツの天敵というわけか)
心の内で笑った。
「その日には観衆も用意をする。存分に勇者の力を見せてくれたまえ。それが終われば、そちらの仕事も進めたらいい」
勇者の信用を損なわず、一大の催し物にする。
これで、すべてが解決をすることができる。
「御心のままに」
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