英雄喰らいの元勇者候補は傷が治らない-N-

久遠ノト@マクド物書き

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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》

39 計画の頓挫

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「どうなっているんだっ!? なぜ、塔の魔法使い一人も始末できないッ!?」

 部屋中に怒号が響いていた。
 王城の一室。特別に用意されたその部屋の中には男が一人。部屋隅に控えている兵士が二人。部屋外にも兵士が立っていた。

「た、大変申し訳ございません。部隊を派遣しているのですが……」

「またそれか! コレがどれだけ重要な仕事が理解しているんだろうな……?」

 乱れる金髪。机に座っている藍瞳の男──モスカは、机の上にあった資料を投げるように捨てた。

「アイツに送った部隊も殺され、塔の魔法使いもまともに仕留められない。勇者一党が旅に出ている間、人材育成に励むことはなかったのか!?」

 振り下ろされた拳によって、机が真っ二つに割れた。
 場が静まりかえる。誰も、彼の怒りをなだめることなど出来やしなかった。





 ルートスから手紙が来た。内容は『勇者の旅の叙事が何者かによって書き写された形跡がある』ということ。
 魔王の討伐失敗の全責任をディエス・エレに押し付けたモスカにとって、それは知られたくない事実であり、知られたら最後、一国制の衰退にも繋がる可能性のある最も重要性が高い事項である。

「……馬鹿馬鹿しい。オレが出たら済む話だ」

 乱れた髪を揺らし、モスカが鎧立てに手を伸ばす。

「なりませんモスカ様。今は大きく動く場面では」

「今動かなくていつ動く……? オマエは叙事が世間に広まった時の責任を取れるのか? なァ?」

 落ちてゆらめく前髪の向こうから覗く藍色の瞳は闇を帯びて、疲弊した顔は屈辱と焦りに歪んでいる。
 一兵卒にその回答が得られる訳もない。責任も同じだ。誰が取るとなれば、手回しの遅れたモスカが咎められる。

「取れるのかって聞いてんだろ!」

「モスカ様、私が変わりに答えさせていただきます」

 言葉に詰まる兵士に変わり、メガネをかけている召使い長が前に出てきた。

「事態が急を要する際に最も重要なのは冷静な判断を下すことです。今、重要なことを洗い出していけば、答えは見つかるはずです」

 落ち着きのある召使い長に宥められる形で、モスカの熱は一時的に収まっていく。

「…………叙事の書き写しが広まるのを阻止する。それが目的だ」

「そのためには書き写した人物が持っている写しを抹消する必要がある。幸い、塔の方の叙事は改変が済んでいるでお間違いはありませんね」

「そうだ。その通りだ。だから、その最短の解決方法がその人物を殺すことだ」

「ですが、その者に護衛が着いているという報告があります。モスカ様がお一人で向かうよりも、機を伺い、顔の知られていない部隊で対処させるのが良いかと」

「それで成功すると思うのか? 確実に? 絶対に成功すると言えるか?」

「それは……」

「敵戦力の調査すらまともに出来ずに撃退された奴らと同じだ。またやられるぞ。王国軍は弱い……オレが育成機関にいた時から変わらない。お前らに任せても無駄だ」

「ですが、モスカ様は……顔が広く知られています。国王様もそれは望まないと思われます」

「いま、国王の話をしてどうなる? 顔色を伺って、コトが進むのか?」

 恐ろしいほど真っ直ぐな意思に召使い長は下唇を噛む。

「……本当にそれで合っているのでしょうか? モスカ様、他にもできることが──」

「話にならん。退け。……オレが直接始末してくる」

 鎧を着込んだモスカは召使い長を手で払い除け、扉を開けた。その姿にドキマギしたのは扉の前で立っていた二人の兵士で。

「勇者様ッ!? どこへ」

「城の外へ出る。アイツらにもそう伝えろ」

「でしたら、揃われるのを待たれた方が」

「要らん。場所は追って知らせる。──涸沢ターシアへ連絡を飛ばせ。斥候だ。位置を知らせるように伝えろ」

 王国兵は短く返事を返す。
 陽光が斜めから差し込む回廊で、モスカは下で訓練をしていた若人へ声を投げる。

「オイ、木剣を振っているお前」

「ハイッ!」

 どこから声が聞こえてきたのか分からなかった兵士は背筋を正し、声主を見上げ、

「ハッ、ゆ、勇者様ッ!? え、ハイッ!? どういたしましたか!」

「馬車を用意しろ。同乗者は不要だ」

「馬車……」

「命令だ。急げ」

「ハイッ!! 直ちに用意いたします!!」

 兵舎へとかけていく少年兵を見て、モスカは目を薄める。
 黒に近い茶髪。瞳の色は白いが、どことなく追放した彼に似ている。

「……気分が悪い」少年から視線を切り、回廊を進む。

 ──『国王様もそれは望まないと思われます』

 召使い長の一言を思い出し、モスカは短く舌打ちを打った。

「居心地の悪い」

 勇者といえども、その資金提供者スポンサーは王国だ。その長は国王であるから、勇者はその命令に絶対でなければならない。

「……勇者といえども、ここではただの人形に過ぎん」
 
 現国王は昔、名うての戦士だった
 
 生ける伝説──ドラコ。
 昔、推定深度六:国崩しカラミティの龍種を単騎撃破したことでその名は一気に広がった。国王の剣はその龍種から剥ぎ取れた素材で作られた一品だ。

 英雄となったドラコは前代国王の懐刀となり、長年と支えてきた。
 そう、彼は王族ではないのだ。
 
 次代の国王を選ぶ時になり、ドラコへ王国を一新するために王座を渡したのが事の始まりだった。

 出鱈目な出来事に当時の国民は大反対。しかし、その懐刀は王座に就くと同時に周辺国家を平定、堕落していた貴族たちを追放。前代国王の意思である「能力あるものは誰しも、平等に機会があるべきだ」を引き継ぎ、今現在の王国を作り上げた。

 何十年も前の話だ。
 どこまでが真実かは知らないが、あの国王は何をするかは分からないのは事実。

「馬車は用意できたか。涸沢ターシアとの連絡は」

「はい。ここに」「涸沢ターシアに連絡を飛ばしました。移動中には返ってくると思われます」

 よし。これで、場所を特定した後は直接モスカが手を下せば終わり。

「勇者様。王様がお呼びです」

 用意された馬車に乗り込もうとした手前、走り寄ってきた将官にそう伝えられる。

「……なんだ」

「執務室にて、お待ちしております」

「要件を話せ。急いでる」

「私の方ではお聞きしておりませんので、なんとも……」

 外面だけ申し訳なさそうにする将官。どうせ、こいつは鳩だ。
 王様は最大の支援者。彼の支援を受けられないとなると……勇者は終わりだ。あと少しだったというのに。

「……わかった」後ろを振り向かずに集まっていた者たちに告げる。「解散しておいてくれ」

 馬車を用意した若い兵士。御者。
 それらの関係者に言を伝え、モスカは将官に連れられ執務室に向かった。

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