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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
44 五大神よりも自分主義
しおりを挟むこの世界には五大神と呼ばれる神様がいる。
《皆を護る大楯》《背中を押す者》──正義神
剣を真っ直ぐに地面につくその姿は、己の心情を曲げないことの表れである。一点を見つめるその瞳には折れぬ不屈の心が宿っている。
秩序の神の長女として生まれ、穢れを知らぬ無垢な存在は皆が正しい道へ進むことを望まれている。
《生命の母》《魂の導き手》──流転神
かぶりを深くし、外界との関わりを遮断する彼女は静謐を好む。寡黙で小柄なその体の周りには無数の雫が糸を引いて踊っている。
かつては信仰の薄かった彼女は、一人の英雄と共にその名を広くした。静謐を守り通す彼女は信徒をどの神よりも尊び、愛している。
《学問の神》《世界を見渡す者》──知識神
鷲鼻の老爺は本を片手に持ち、人を圧死させてしまいそうな瞳を外界へ向けている。好奇、疑惑、敵対、歓喜。それらが入れ混じる目の奥の思惑を知るは神ですらも困難である。
知識のためならば全てを差し出す彼の知識欲は留まるところを知らない。学ばずの者は人間にあらず。彼の言葉は時に刃物よりも鋭い。
《地母神》《春の神》──豊穣神
ベールに包まれる彼女は慈しみを持った笑みを口元に浮かべている。稲穂の前を歩く彼女の後ろには、春の風と生命が息吹く。
農家や女性の支持が最も多いのが彼女だ。
《はじまりの神》《燈の神》──黎明神
あかりの灯った球体に囲まれ、自信を顔に浮かべる男性の神。白髪で赤目。秩序の神から生まれた兄弟の長男である彼は、戦争で神々を束ねていた。
光を。光を。光を。悪は滅するべきである。絶対的な意志を持つ彼を信仰する者の生き様は光に照らされるだろう。
神殿にいた時を懐かしく思い出す。
祈りを捧げる毎日。まだ、最悪が始まっていない、幸せな日々だ。
「『神殿の子』の君だ。祝祷もできるのだろう?」
久々に聞いた『神殿の子』という言葉に耳が反応する。
「祝いの言葉を一つ、お願いしていいかな?」
「……オレは神官じゃあないんだが?」
「神官の過程は収めたのだろう?」
どうも、イキョウは斥候が神官の猿真似をすることを望んでいるらしい。
こうなった彼は梃子でも動かない。
「……巡れよ魂、祝えよ出会い。我々の行く先に、幸多からんことを――こんなんで良いか? オレが信仰してる神じゃあないからな。なんの気休めにもならんぞ」
「良い良い。気持ちがあれば良いのだ」
「適当だな」
「何かあった時だけ頼らせてもらうようにはしてる」
「そりゃあ良い。自分主義は一番生きやすいだろうさ」
嫌悪感を隠さずに嫌味を飛ばすと、イキョウは満足げに皺を寄せる。
なんで祈りを捧げさせたんだか。まぁ、たまには年上の言うことも聞くのが大事か。
「まさに、反抗期の孫と懐の深い老爺のようですね!」
「オマエは黙ってろ」
コイツは例外だ。なに珈琲を作りながら混ざってきてんだか。
「っていうか、なんでイキョウはソイツを護衛にしてんだよ」
「お。二人は知り合いかな? さすが顔が広いな」
「ちょっと前に会ったばかりだ。ちなみに、遅れた理由はソイツのせい。実力は本物みたいだが、性格が悪い。……組合の職員なんだろう? 人は選んだ方がいいぞ」
「オクルスは職員だが、他と違ってな。荒事解決を専門にしてる腕っこきだ。二人は戦ってみたのか? どっちが勝ったのかな?」
「引き分けですよマスター。お孫さんはとても強かったです」
「汗一つかいてない奴がなんか言ってるよ」
「いえいえ、冒険者を鎮圧するために武器の使用は禁じられています。となると……私の反則負けですかね」
「国賊をなだめるのは別問題だろう?」
「あぁ! そうでしたね。よかった。始末書を書かなければならないと思ってたんです」
顔の皮厚すぎる男だよ、ほんとに。
場が温まっていくのを感じた。本題から入らないということは、それなりの理由があるのだろう。
組合長統括が食後の談笑をしにだけやってくる訳がないのだ。
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