英雄喰らいの元勇者候補は傷が治らない-N-

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
52 / 68
第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》

51 はめられた

しおりを挟む




「発言に気をつけろよ、クソジジィ」

「自分の言葉の責任くらいは取れるさ」

 睨み上げるが、イキョウは動じない。

 何を言い出すかと思えば、アレッタを勇者一党に組み込みたいって……?

「アイツはまだ、金等級になったばかりの神官だぞ。練度が違う」

「だからこそだ。成長途中ならば、神殿側との交渉も上手くいくだろう」

「他人が連れてる奴を引っ張るにしても順序がある。脳の味噌はどうした? 家に忘れてきたのか?」

「はて、順序がある……そうかな? 私が知り得ているところで、君が英雄の仲間になった経緯も、勇者一党に引き抜かれた際も、順序などなく早急だったとは思うのだが?」

「時代が違う。それに、オレが望んで順序を省いたんだ」

「つまりはその通りだ。何事も順序を守らねばならないものと、守らなくてもいいものがある。それに、お前が連れている神官だ。他のやつが目をつけるとは思わなかったのかな?」

 微笑みを崩さぬまま、イキョウは続ける。

「エレが仲間を連れているという話を聞いて、珍しいと思ったのだ。神官、それも少女だ! どういう風の吹き回しかと皆思っているよ」

 情報が早すぎる。アレッタとともに行動する際はかぶりをしていた。
 見られたとしたら今朝、冒険者組合に立ち寄った時しかない。

 隣で立っているオクルスに目を向けた。コイツか。

「それに、ディエスの仲間になるには些か不安がある。不釣り合いだろう。その少女のためでもあると思うんだが」

「アイツは仲間じゃあない。旅に同伴しているただのガキだ」

 イキョウの表情に少し変化が見えた。
 オレが魔法を勉強し、ある程度は使えることを知っているからか。「仲間じゃない」という言葉が嘘ではないことに、引っかかったのだろう。

「仲間じゃないなら、なおさら勇者一党へ組み入れることが彼女に取っての幸せではないかね? 誉れだ。彼女の母親や父親も両手を上げて喜ぶことだろう」

「そうは思わないな」

「なぜ?」

「アイツは多分、親から虐待を受けてた」

 机の上に足を投げて、話を続けた。

「アイツの母親や父親にオレは会ったことがない。あの年頃の子どもが両親の話をしようともしない。虐待ではなくとも訳アリだろう。それに、アイツは勇者よりもオレをご指名のようだ」 

「それでも、勇者一党の神官として旅ができることは今生最大の幸せであり、栄光だと思うが。それに知っているだろう? 神官を一党に組み込むことの難しさを」

「それがアイツをあんな場所に放り込む理由にはならない」

 あんな場所呼ばわりをすると、イキョウは口元を隠すように手で覆った。

「断固として断らせてもらう。オレはアイツを勇者一党に入れてやるために連れてるわけじゃない」

 アレッタにオレと同じ思いはしてほしくない。
 不幸から逃げてきた少女を、より不幸にするためにオレは一緒に居るわけじゃないんだ。

「そうか。それは残念だ……非常に、残念だよ」

 残念がるイキョウはわざとらしく肩を落とし、ため息をついた。

「……イキョウ。お前は変わったよ。お互いのためにこれ以上、関わるのはやめた方がいい」

「寂しいことを言ってくれるじゃないか」

「王国からの命令に背けず、受け入れている時点で冒険者組合は最早独立組織じゃなく、王国のイヌだ。昔のアンタなら、対等にぶつかるくらいの気兼ねは見せたはずだ」

「老驥伏櫪という訳にはいかぬのでな。しかし、今回ばかりはディエスが読み間違えているな」

「なに?」

「若かりし頃の私でも、同じことをしたはずだ。いや、まったく、孫が国の意向へ背くとは──残念だよ」

 その瞬間、カチッと重々しい針の音が響いた。
 部屋にかけられていた魔法が解けると、手を掛けようとした先には扉が無いことに気づく。
 そして、もう一つ。オレを囲む──胸に牡丹が刻印された鎧を身につける王国兵が十人いたことも。


「……はめたな? クソジジィ」


「長らく国から離れていたのだ。この地下倉庫が王城と繋がっているとは気が付かないだろう?」


 腰帯に下げている短剣に手を当てようとし、その手を止めた。

「はいはい。そういうことかよ」

 流れるように拘束しようとする兵達相手に、衣嚢に手を突っ込んだまま。

「触れるな。抵抗はしない」

 少し凄んだだけで王国兵に躊躇いが見えた。
 所詮、その程度だ。戦うべき相手がいない状態で剣を振るう彼らに、現場で戦ってきた者の圧は耐えられない。
 オクルスの方がよほど熟達した戦士だ。

「……冒険者組合と王国が、ここまで蜜月な関係だったとは」

「この席はディエスの言う通り、存外堪えるのかもしれないな。しかし、私の判断は間違ってはいないと思っている」

「老いたな。オレに祝福をさせた理由はコレか? 上手く計画が事を進めれてよかったな。改めて褒めてやるよ、おじいちゃん」

 その軽口に反応したのは、イキョウでもオクルスでもなく、王国兵だ。

「口を慎め! 貴様にどれだけの実績があろうと、

「王国から離れずに鈍らを振り回してる君たちに裁かれるなんて最高だよ、まったく」

「だ、黙ってついてこい! こっちだ」

「言わなくても着いていってるだろう? 焦るなって──なぁ、イキョウ。いい勉強になったよ。信頼すべき相手は良く考えて選ばないとな!」

「ディエス! 武器と装備を」

「装備を取り上げる?……穏やかじゃないなぁ」

 王国兵に押されるように導かれながら、短剣と腰帯を渡す。それらを検め、スリット越しにオレに疑いの目を向けた。

「……これだけか?」

 無言で両手を上げる。ご自由に探せというアピールだ。
 隠し持っているものが無いかを探られる中、上着を引っ張り上げた王国兵は体に刻まれた傷跡に息を潜めた。

「これは──っ」

「なァ。王国の兵になれば、人の上着を勝手に持ち上げ、上裸を見ることも可能なのか? 良い職業だな。寒いんだが?」

「あ、あぁ……」

「で、問題はないんだな?」

 王国兵はお互いに目配せをすると、何人かがコクリと頷く。

「これ、返してもらえんの? その武器とか小道具とか、割と愛着があってね」

「……行くぞ」

「質問の答えじゃあねぇだろうがよ。まぁいいや。……じゃあな、ジジイ」

 取ってつけたような挨拶をして、頬を掻くイキョウから視線を切った。

「早く歩け」

 背中を小突かれ、イキョウの後ろの時計が掛かっていた所にあった通路の奥へとオレと王国兵は消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...