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第一章:大英雄の産声《ルクス・ゲネシス》
56 英雄譚が始まる
しおりを挟む──記憶が千切れ、落ちていく。
その時に垣間見える一瞬が、色浅く、思い出したくもないようなものばかりだった。
勇者に選ばれなかったあの日の夜。
桃髪の姉が不安になっていた。
私達は、勇者に選ばれなかったらどうなるんだろうね、って。
布団の中でまるで子どものように泣きじゃくって、不安で押しつぶされそうだった。
オレは、大丈夫、と言ったハズだ。
勇者に選ばれなくても、オレたちは兄妹だし、神官さん達も分かってくれるよと。
一晩、姉の不安に寄り添っていた。
が、神官の怒号に起こされて見た光景に、オレは喉の奥にモノがひっかかったような気がした。
次の日、姉は神官に殺されていたのだ。
錫杖で、岩で、剣で。
地面に惨めに横たわる姉の背中を刺して。
何度も、何度も、何度も──
その姉の手には花が握られていた。
謝ろうとしていたのだろう。ごめんなさい、って。
勇者に選ばれなくて、ごめんなさいって。
なのに、オレの姉は……優しく笑う姉は……神官に殺されていた。
オレは思わず神官達を殴り飛ばして、姉を救って、他の神官達が来て。
姉を殺したのがオレのせいにされた。
どれだけ違うと訴えかけても信じてもらえなかった。
目の前が真っ暗になった。
今まで楽しかったはずの場所が、黒く渦巻いて居心地が悪くなって。
それで──それで……思ったんだ。
「オレの言葉が届かないのは、オレが弱いからだ」って。
自分たちのことを信じてくれないのは、自分たちが何者でもないから。
力を持っていたら、言葉に説得力があったら、こうはならなかった。
あの日、姉は殺されなかったのだ。
神官たちの言葉よりもオレの言葉をみんな信じてくれて、殴られたり、罵られたりしなかったのに。
◇◇◇
そうだ。
あの時に答えは出ていたじゃないか。
それを長い年月に削られ、すっかり忘れてしまっていた。
──今のお前は、オマエらしくない。
知ってるよ。あぁ、知っているとも。
──エレ、英雄になるって言ってタ。
あぁ、そうだな。オレはいつもそう言ってた。
──力がなければ搾取されるだけだ。
そのとおりだ。
全く、本当に……そのとおりだ。
このままでは、あの時の無力だった時のオレと同じ道を辿ることになってたよな。
「……」
時代が動く。
カメラを構えている新聞記者は、直感的にそう感じた。
何故かは分からない。
国賊と言われているあの男を見ていると、そう思ってしまうのだ。
その時、その男と目が合った。
思わず固唾を飲み込んでしまうほどの、不思議な瞳をしている。
「ハッ……ハハハハハハハハッ!!」
オレは笑った。
周りの兵士が怯えたように声を引きつらせた。
なんでだ。おまえらも笑えよ。
だって、こんなに、気分が、いいんだから。
「あーー……あぁ。ほんと、オレって本当に馬鹿だなぁ~……」
結局、オレは昔から変わらなかったんだ。
心のどこかでは英雄になることを諦めきれてないのに、必死に諦める理由を探して。
「なりてぇモンを誤魔化して、言い訳作って、遠ざけてたんだ……」
兵士に目を向けると、武器を持つ手が震えていた。
どうしたんだよ。バケモノを見るような目だな。
「怒りに任せて、私を殺すかね?」
「いいや。そんなことはしないさ。そんな価値もない」
国王の眉が嫌悪感で跳ねる。
「ただ、アンタには感謝してるよ! ずっと考えてたんだ。今後、どうするかってな!」
ようやく手に入れた自分の時間。何気のない日常。
それらを奪おうとするのは……いつも、力を持つやつばかりだった。
あのときもそうだ。
選ばれなかったオレらの生きる権利を剥奪しようとしたのは大人たちだった。
抗うことのできない権力者たちだった。
だから、オレは、憧れたんだ。
強くて──誰よりも信頼されて──みんなを護ることができる英雄に。
だから、オレは、勇者の付き人になったんだ。
勇者を護って魔王のもとに連れていけば、オレが英雄になる近道になると思ったから。
でも…………その結果が、コレだ。
搾取され、搾取され──オレの手の平の上に残ったのは、包帯と傷だけ。
英雄ほどの名声も、望むものも与えられず、国賊だと罵られる。
自分の体を犠牲にして得たものはなんだ、という問が頭を巡る。
古傷の痛みはずっと脳みそに絶えず信号を送ってきている。
──『おまえはなにをしてるんだ』──
これを止める方法は、とうの昔に得ている。
「──いい機会だ。新聞各社、国民の皆々様方。この私の宣誓を国中に広めてください」
オレは、勇者でなければ英雄にもなれていない。
何者でもない只人だ。
だからこそ、ここで誓おう。
なろうとしなければ、なれないのだから。
「オレは英雄に憧れてた。
悪を倒し、民を護る。
龍を討ち、偉業を成し遂げる。
腹に風穴が空いても。脳みそが吹き飛んでも。
誰も不幸にならない世界を作るんだ。
この両手の届く場所にいる人は絶対助けるんだって。
泣く赤子に名前をささやくだけで、泣き止むような大きな存在になるんだ」
こどものような憧れだ。
だが、この感情は嘘じゃあない。
「でも……オレは、誰から望まれてないらしい」
現実を受け止め、前を向いた。
「から、もう、やめた。──きれいな英雄に憧れるのは」
国王の顔に影が差し込む。
上から降り注いでいた日光を影が遮った。
「……我が名はディエス・エレ。遠く東部の《行商の街》《麗水の海港》《中立都市》に生を受けた、神殿の子。輝く星を求めて遠路を歩き求めたが、得られる物は無し。己の身も朽ち、双脚で大地に立つ事すら儘ならぬ」
無造作に王のもとに近づいていく。
その自然な足取りに、周りは静止が遅れ、間合いへの侵入を許してしまう。
──そして、エレの瞳に掛かった色を国王は見てしまった。
「……!」
美しい。
思わず生唾を飲み込んでしまうほどに。
死を前にしてこそ人は輝くという。人の本質が分かるという。
彼の瞳に浮かんでいたのは星。それも流れ星のように煌めく星だ。
かつての三英雄が惚れこんだ瞳。それと全く同じ輝きを放っているではないか。
古めかしい所作で礼を行うと、オレは口元に笑みを浮かべる。
「然れども、新しく此処で誓いを立てよう──」
奪われるのが嫌なら、奪われないようにすればいい。
罵られるのが嫌なら、罵られないようにすればいい。
オレを信じない奴より、強い力と名声を得たらいい。
そして、それは英雄になっても叶わないと知った。
ヴァンドやモスカが目の前で教えてくれたから。
──だから、オレがなるべきなのは『ただの英雄』じゃあない。
屈託のない笑みを浮かべて、答えを口にする。
「オレは──他の英雄を喰らって、誰にも縛られない最強の英雄──大英雄になる、と!」
常に進化する物語の英雄のように。
周りを巻き込んでいき、国王よりも名高く、オレの名前を大陸中に広めてやる。
そのためには、手段を選ばない。
「ここからは、オレの英雄譚だ……!!」
さぁ、始めよう。
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