【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
25 / 283
1-2 世界把握編:小さき転生者、旅に同行する

23 村での宿泊だと!

しおりを挟む


 エルシアさんの個性溢れる料理を食べてから何週間か経った。

 あの後、一日ごとにレヴィさんの料理とムロさんの料理を食べさせてもらったけど、想像通りムロさんはお肉ばかりでレヴィさんのは二人の偏った食事を補うように野菜と魚を多めにしてくれた。

 食べるだけだと申し訳ないと思って料理の手伝いを名乗り出ると、食器の準備を任せてもらえた。
 その時に料理をしている様子を覗いてみたけど、特にこの世界特有の料理法とかなさそうだった。

 とまれ、楽しい時間だった。狩りの手伝いや、お遣いをして、同じ屋根の下でぐーすかと寝たりと。ムロさんは豪快なイビキをかくから何回起こされたか分からないが。

 そんな充実した期間を送っていた中、個人的に一番大きかったのが、三人からこの世界の話を色々と聞くことができたことだった。
 エリルがしてくれた理論的な話とはまた別で、冒険者という職業と、この世界で生きている人の視点からの情報で大変興味深いものが多くあった。

 1.僕が拾われた場所は【ロベル王国】の西方らしい。
 2.僕たちがいるこの土地は海洋国で全体を【ARCUS第四地区】という。
 3.海の外には他の土地ががある。ARCUSの本土が大きくあり、それらを囲うように一から四までの地区が海に浮かんでいるらしい。
 4.この世界には魔王がいる。

 僕たちがいる『ARCUS第四地区』というところは三つの王国があるようで、王国の名前は西から『ロベル』『ぺネロ』『デュアラル』。それぞれの王国の領土が、僕たち『ARCUS第四地区』に住んでいる人の行動可能領域だと言われた。
 その王国の領土以外の土地は三体の魔王が支配しているらしい。
 その領地に何年かに一度『領土奪還』を掲げ、侵攻しているという話も聞いた。

 領土ってそんなに大事なのかな? 
 
 って思ったけど、僕らが住んでいる、この『ARCUS第四地区』の土地の四分の三は魔王の領土らしい。なるほど、魔王の脅威に曝されているというヤツだ。
 ちなみにドラゴンはしっかりいるらしい。
 とりあえず『ファンタジーの世界』で、『土地の四分の三は魔王が持ってる』が重要そうだな。

「――デュアラル王国の王国軍トップの元帥はマールベリーとエスタの二人なのだが、出会ったら注意をしておけ。出会うことはないとは思うが、中々に癖が強い。実力はあるが……なんというか変人の類だ。で……っと、大体こんなものか? クラディスがどこまで知っているかわからないから大きく言ったが、どうだ?」

 今は、丁度デュアラル王国の話を聞き終えたところだ。
 僕らが今向かっている王国は所謂大国というものらしく、住み心地が他の二国と比べて良いらしい。その理由を諸々と、その王国を守っている王国軍の話を少し聞いた。
 とりあえず……住みやすいが、王国軍のトップの癖が強い、と覚えておけばいいか。

「ありがとうございます。大変勉強になりました。村の中にいた時はそんなこと教えてもらわなかったので」

「そうか、なら良かった」

 今の時間は早朝。レヴィさんの寝ぐせは今日も調子がよろしいようだ。

「ん、私の顔に何かついているのか?」

「いえ、何でも……あ、今日はどんな予定かって聞いていいですか?」

「今日の予定か、今日は昼前頃に着く村に泊まる予定だな。そのあとは特には予定はない気がする」

 と言ってから、そうだ、と思い出したように。

「クラディスが良かったらでいいんだが、冒険者の登録でもしておくか?」

「冒険者って、もしかしてレヴィさん達と同じやつですか? 僕なんかでもなれるんですか……?」

「もちろん。その反応なら何も問題なさそうだな、あとでムロのほうに連絡をしておく」

「ありがとうございます!」

 冒険者になれるという話があれば、黙っていられない。
 今後、佳奈を探しに旅に出る際に旅先で依頼を達成して生計を立てることができる。

「久しぶりにゆっくり湯舟に浸かれる……」

「レヴィさんもお風呂は好きですか?」

「あぁ、大好きだ。クラディスは?」

 眠たそうな顔から嬉しそうな表情になったレヴィさんを見つめ、僕もへらっと笑った。

「僕も、大好きです」

 こちらの世界にもお風呂という文化があって大変喜ばしい。日本男児のほとんどはお風呂が大好きだからな。
 シャワーよりお風呂、行水よりお風呂。お風呂は大変良いモノだ。
 それに……前は忙しくてシャワーばかりだったからな。
 村につくまでが待ち遠しかったので、もう少しレヴィさんと会話をしていき、時間を使っていった。



      ◆



 村にはレヴィさんの予定時刻の昼前に着いた。
 大きい村――というより小さな町といった方がいい気がするな。村のイメージの域を超えて大きかった。
 食事ができそうなお店やその他嗜好品を取り扱っているお店、それと商店街のような食材を取り揃えているお店が並んでいる小さな通りも目に付く。
 
「では、お借りしていただいたお部屋は二階の奥の213と214ですね。はい、鍵を渡しておきます」

「明日の昼までに出ればいいか?」

「そうですね、明日の予約は数件だけなのでそこまで厳密に時間設定はしませんが、大体14時を過ぎた場合、二日分の料金が発生するかと」

「分かった。ではそのようにする」

 二階の奥が空き部屋が数室あったということで、二部屋を借りたようだ。二部屋ということは男女で部屋を別々にするという配慮なのだろう。

 それにしても、しっかりとした造りの宿屋だなぁ……。
 和風ではないけど、床も木材で作られているようで落ち着く造りになっている。
 宿の受付は、僕の背丈では顔すらのぞかせることができない程高かった。幼い時をよく思い出させてくれた。
 あの絶妙な高さはアイス屋さんの試食の時とか、借りたスプーンを戻す所が高すぎて困っていたのと同じだ。またあの思いをすることになるとは思ってもみなかった。

 受付が終わったら、借りた部屋に荷物を入れるのが始まった。
 手荷物は僕はなかったので三人の荷物の運び入れを手伝ったのだが、荷物といってもエルシアさんが持っていたような袋に大体のモノは入っているので、持ち運びが簡単だった。
 袋に入れてない物はカウンターの荷物を預かるところに預けていった。
 
 荷物入れを終了したので、ムロさんとレヴィさんの部屋にふらふらとついて行こうとしたのだが「クラちゃん!! クラちゃんはこっち!!」と持ち上げられ、隣室に連れていかれた。
 
 部屋に入るとエルシアさんはベッドにダイブをして、跳ねた。

「あ~!! ベッド!! ひさしぶりの~。やっぱりベッドはいいモノだわー……」

「ぼ、僕とエルシアさんが同室って、僕、男なんですけど……」

「え~? クラちゃんはだから関係ないもーーん。それに、ベッドは基本2つずつだから四人だったし2人2人に分かれないといけないの。だからクラちゃんと私は同室決定! 異論は認めません!」

「異論をするつもりはありませんけど……、さすがに」

「え~、嫌なら三人部屋借りようか? 今ならまだキャンセルも……」

「いえ! そんな嫌じゃありません! けど、遠慮っていうか」

「アハハハッ、分かったわ。私に遠慮しなくてもいいから一緒の部屋で決定ね」

 エルシアさんは荷物を地面に投げ、黒く長い靴下を脱ぎ始め「うわ、臭い……」と言って、靴下も投げた。
 その後は上着も脱ぎ、シャツ姿になって冷蔵庫のようなモノに入っていた冷水を飲みだした。
 
 冷蔵庫……とは多分違うのだろうけど、予想していたより文明の水準は高い。
 そもそも魔法とか袋を拡張してる時点で、元の世界より文明は先に先に進んでいるのかもしれない。
 
「……っぱぁ! 水がこんなにおいしく感じるとは……。あ、そういえばお風呂どうする? 先に入る? 今日はもう特に何も用事がないらしいけど」

「いいんですか? エルシアさんの方が疲れているんじゃ」

「私の心配はいいよ~慣れっこだし。クラちゃんの方が慣れてないんだろうから、先に入っていいよ!」

「それなら、お言葉に甘えさせてもらいます」

 ここずっと「行水」ばかりだったから、はやく体をしっかりと洗いたかったというのが本音。
 それにお昼前に入るということは夕方にまた入ることができる、一日に二度も三度も大好きなお風呂に入れるのは宿のいいところだろう。
 
 浴槽に湯がたまるまで特に何もすることがなかったので、部屋を見て回ることにした。
 部屋の湯舟はビジネスホテルより少し大きいほどのサイズなのだが、この体なら全く問題ないサイズ。
 トイレとは別の仕様らしくエルシアさんのトイレと被ることはないし、なんと脱衣室もあった。

 二つのベッドがあって部屋はそこまで広くはないが、二人が一日、二日滞在するくらいなら何も問題なさそう。

「クラちゃん興味津々だね」

「ちょっとウキウキって感じです」

「それは良かった。まぁゆっくりしててね、ちょっとムロ達のとこ行ってくるから~」

「ムロさんのとこ……?」 

「なんか話があるとかなんとかって。どうせ今後の調整とかなんでしょうけど」

「調整……分かりました。でしたら、部屋の鍵とかって……」

「ん、あ~、鍵は一応もって出ておくね。そんなに時間かからないと思うけど」

 そういうとエルシアさんは笑いながら、シャツの上に上着を羽織ってムロさんたちのいる隣室まで行った。

「一人……になった。暇になってしまった」

 僕もエルシアさんがしたようにベッドにダイブしてみたい気はあるけど、さすがに汗かいたままだしちょっと遠慮しよう。

 チラと見た脱衣所は衣類を入れるケースのようなモノもあったし、姿見もあった。乾燥機や洗濯機のようなものは確認できなかったけど、なかなかいい宿のような気がする。
 そう思うと、冒険者とか他の職業の人が行き来する地点の村にこういう宿があったり、それなりの品物をそろえていたら疑似的な観光業のようなモノができるのではないか? 
 ふむふむ。そう考えると興味深い。

 そう思って浴槽を覗いてみるとお湯がいい感じに湯が溜まっているのが見えた。

「溜まってるってことは……入るしかないよな」

 少し気持ちが舞い上がり、僕は入るために脱衣を始めた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...