【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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1-2 世界把握編:小さき転生者、旅に同行する

25 裸の付き合い

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 その姿を見て急いで外に出ようとしたのだが、肩を押さえつけられて「裸の付き合いっていうじゃない?」と言われて押し戻され、浴槽に肩まで浸からせれた。
 ムロさん達と話をしてたんじゃないのか! 入りすぎてたのか……!?

「――あっ」

 そうだ、念の為に紫の方の瞳は閉じておかないと……。一応怪我をしているという話だったし。
 そうして紫の瞳の方を閉じて、体を小さくしていると。

「ひっさしぶりのお風呂~!!」

 足を浴槽につけ、目の前に座ってきた。
 肩や胸当たりにある傷。腕や足腰にあざのようなモノが見える。
 それより上と下は刺激が強かったので、エルシアさんに背中を向けて座りなおした。

「あ~! それにしてもいい湯だぁぁぁぁぁ……やっぱりお風呂っていいわぁ」

「そ、そうですね……」

 と言いながらもごもごと僕の体の両端から見える足を見て、目をぎゅっと瞑る。
 顔や腕は日焼けしているのに足は日焼けをしていないから境界線がはっきりと見える。

(破壊力……っ)

 何も考えるな、無心だ、無心になれ……。エルシアさんは僕の恩人だ。変なことを考えるな……。

「あ、そうだ! どうよどうよ。私達との旅は楽しい? 満喫してる?」

「それはもう、はい、とても。楽しいです」

「良き良き」

「エルシアさんも他のお二人も優しいですし、村では体験できないことばかりを体験させてもらって」

「ほぉほぉ、そう言われると照れるね~。子どもと接する機会なんてそうそうないから、ちょびっとだけ不安だったんだぁ。クラちゃんが良い子で助かったよ」

 そう言いながらエルシアさんは僕の背中を突いて遊んでくる。
 こそばゆい感覚を我慢させられている状況で、体を縮めこんでいると。

「ねぇ、いい機会だからあの二人のこと少し教えてあげよっか」

「! ムロさんとレヴィさんの……!?」
 
 一瞬だけ後ろを振り向こうとして、焦って背中を向けなおした。
 
「そうそう。普段はあんなだけど、実はすごい人たちなのよ」

「聞きたい……です」

「じゃあまずはレヴィのことから!」

 と言ってエルシアさんは体勢を整えて――目を瞑ってて分からないが――話し始めた。

「レヴィは冒険者の中でも上位の実力者でさ。それこそ魔導士の中でレヴィのことを慕っている人もいるくらいに凄い人なの」

 と僕の背中にすらすらと何かを描くように指を走らせながら。

「そして! そのレヴィとずっとパーティーを組んでたのがムロ! クラちゃんと同じく村出身でね、最近は上位冒険者になったりしてね~。レヴィとは私が冒険者になる前からパーティーを組んでたくらい長年の付き合いなのよ、あの二人は」

 ふふんと鼻を鳴らすのを背中で感じて、聞いている僕もなんだか嬉しい気持ちになってくる。
 状況が状況なだけあって、素直にそうなんですね、と喜べはしないのだけど……。
 そっと目を開き、エルシアさんの足を見て、小さくうなりながらまた目をギュッと瞑った。

「でも、二人ともエラそうにしないの。ムロとか特にそうだとおもうけど」

 くっくっく、と優しい声で笑う。

「もっと自信を持っていいと思うのになぁ。レヴィと一緒に前線に立ってられるだけですごいっていうのにねぇ~……」

「エ、エルシアさんも……そんな二人とパーティーを組んでるじゃないですか」

「えぇ? 私ぃ? 私なんかまだまだよ。経験を積ませるために血盟主が二人と組ませてくれたんだし、実力じゃあないわ」

 エルシアさんにしては珍しく謙遜をしてる。それほどまでに二人は強いということなのか。
 
「私が血盟に入る前にもう一人がいたらしいんだけど、入れ違いで抜けちゃったらしくて。その枠に入りたての私をバーンっとね、バーンと入れてくれた訳。だから、別に、実力じゃあ……」

 そう言いかけて、バシャバシャと湯を叩き、口を尖らしているような声で。

「……まぁ、私だって? 弱くはないんだけどね?」

 そう言いながら僕の背中にまたゆらゆらと線を描く。

 エルシアさんは二人のことを冒険者として本当に尊敬をしているようで。

 なんだかそれを知って、僕はちょっとにやにやとしてしまっている。

 恩人さん達にも恩人さん達なりの事情があって、三人は三人でちゃんとした過去があって僕を助けてくれた。当たり前の事なのに、なんだか、過去を知れて嬉しく感じている。
 そこで瞑っていた目を開き、エルシアさんの古傷のある足を見て。
 
「エルシアさんが弱いって僕は思ってないですよ」

 と生意気だと思いながらも言った。

「ふむ、クラちゃんに何が分かるんだい? 教えてくれたまえ」

「分からないです。でも、分からないなりにそう思っただけです。僕の恩人さんは強いですから」 

「ほお、その心は?」

「昔の人が、他人を褒めれる人は強い人だ、って言ってました」

 これは僕のわがままだ。恩人が弱いわけがないという希望的観測であって、事実とは異なっているかもしれない。
 だけど、エルシアさんは弱くない。エルシアさんが、弱いわけがない。

「なら私はめっちゃめちゃ強いってことか!」

「そういうことです」

「だったら、クラちゃんも私を褒めたから強い子ってことだね」

 こどものように無邪気に笑い、髪の毛をわしゃわしゃと撫でられた。
 あっ、そういう……ことになるのか。

「いや、僕は弱いので、その話は嘘になるかもしれません」

「ええっ!!? せっかく喜んだのに!!」



      ◇◇◇



 そこから数分、湯船につかって疲れを癒しているといろんな話を聞いた。
 ムロさんとレヴィさんの昔ばなしや、入っている血盟のお話。
 そしてお酒が大好きなのに酔いやすいから困っているんだという話。まさかのエルシアさんは酒癖が悪いらしい。エルシアさんの介抱なら喜んでさせてもらおう。

「で、酒癖が悪いって具体的にどんな」

「脱いで、絡んで。結局記憶がぱぁーって飛んじゃうの。だから酒癖が悪いって言われても身に覚えがないんだけどねぇ~」

 あぁ……重症さんだった。

「クラちゃんと一緒にお酒飲むときがあったらその時は楽しく飲もうね? ね!」

「はい。はい……」

 この世界ではお酒を飲める年齢は何歳からなのだろうか。
 20歳か? それとももう少し年齢が下なのか。冒険者になれる年齢は15歳からだと聞いて気がするから、15歳からが成人ってことなのだろうか。

「エルシアさん、僕って何歳に見えます?」

「12歳くらい?」

「15歳って言ったら信じてくれます?」

 僕の年齢は僕でも分からない。だから、どうなるんだろうか。
 冒険者登録は割とずさんだからできるとかなんとかって聞いた気がするけども。

「……ん~……12か13くらい? ちょっとこっち向いてみて」

「はい、これで――」

 そう言ってくるりと反転をすると、僕の顔をむにっと掴み。

「ようやくこっち向いたなァ!!!」

「うわあああぁっ!!!?」

 はめられた!! これを狙っていたのか!
 必死に体勢を戻そうとすれど完全に体の動きを止められている状態。
 苦し紛れに視線だけは背けるが覗き込もうとするエルシアさんの顔がちらちらと映り、その度にまた方向を変える。

「ふっふっふ。照れ屋さんだね~。私なんて胸がペタンコだからさ中々女の子に見られないんだよ? そんな反応してくれるってことは、私を女性だと思ってくれているのかな?」

「そ、それは。当たり前のことで……それに、胸は関係ないと……!」

「ほぉ~? へぇ~、そうなんだね。」

 そう言うと、僕の頬から手を外して――腰をぎゅむっと掴んできた。

「な、なにを!?」

「このスケベ!!」

「す、すけべ……!? って、それはちょっと違っ――ちょっとそこは掴まないでほしくって!」

「やーい、クラちゃんのスケベ~。ぺちゃパイ好き~」

「や、やめてくださっ!! やめろぉっ!!」
 
 腰を持たれたことで、エルシアさんにあられもない姿を見せてしまう。 
 それが恥ずかしくて、必死に手を握って抵抗するが、掴む手はまったく動かない。

「やーめない! エッチなこと考えているませた男の子の言うことは聞きません!」

 そわそわ。お腹から指を這わせてきて、僕の胸部の下辺りまで手が上がってくる。
 それと同時に体を密着させ、お腹でエルシアさんの体温を感じ、その感触できゅーっと頭に熱が篭っていく。

(やばいっ、やばいっ、やばいっ!! 恥ずかしいとか、そう言うのじゃなくて。いや、そう言うのもあるんだけど、そうじゃなくて――ッ!)

 力を籠め、エルシアさんの手を握り、胸の前まえ持ち上げた。
 
「いっ、いい加減にしてくださいっ! 僕だって、男なんですよ!!」

 きょとんとした顔をしたエルシアさん。
 しかし、すぐに悪そうな笑みを浮かべ、僕の手を解き、僕の頬をつまんだ。

「ほぉ? 男だってぇ? 可愛い女の子みたいな顔と体して!」

「ふぉくをこふぉもあふかいしないふぇくふぁさい!!!」

「やだ!!!」

「やふぁらない!!」

 少し狭い浴槽に入っている二人の間で、お互いの顔を見つめあう数秒の時間が過ぎる。
 
「……ぷっ、あははははははっ!」

 吹き出したエルシアさんは頬の手を放した。すぐに僕は体を守るように端に寄せる。

「……あ~、面白かった。クラちゃん何言ってるのかわからなかったもん。ふぇるしあは多分私のことなんだろうなぁって、くくくっ」

「良くないですよ……あまりからかわないでください」

「やだやだ。かわいい男の子と一緒に入ってるんだから手を出さないと冒険者の名折れよ名折れ!」

 手を顔の前でひらひらとさせて、歯を出してニシシと笑った。
 そして離れた僕の方をじろじろと下から見ていき、口元がうずいたのが見えた。

 あ、これ、やばいかも。

 僕の直感がそう告げ、すぐに湯船から出ようとすると、グイっと手を引っ張られた。  

「ちょっ、どこ触って――」

「減るもんじゃないからいいだろぉー!! まだ、入り給え!!」

「や、やめてっ!!!」

「力勝負で私と勝負するのか! いいだろう! ふははははっ!!!」

 その後、十数分に渡ってテンションの上がったエルシアさんからお金が発生しそうな場所まで触られてしまい、ようやく満足したようで解放してもらった。

 エルシアさんが積極的すぎる……何も出来なかった。
 女性に押さえつけられているのを振り解けなかったのは男として大問題だ。
 手や腰、胸……体の至る所に残っているエルシアさんの感触で、また顔が赤くなってしまう。
 
「疲れを癒すために入ったお風呂だったのに……疲れた……」

 風呂場から聞こえてくるエルシアさんの鼻歌を聞きながら、姿見の前で閉じていた紫の目を開けてみてみた。

(……こっちの目のことって、エルシアさんは知らないんだよな)

 レヴィさんに言われた「その紫の瞳は誰にも見せたらいけないよ」という言いつけは守ろうと思っていたけど、いつまでエルシアさんに「怪我」という嘘をつき続けないとダメなのか。

「まぁ、いいタイミングがあればその時に言おう」

 それにしても紫色の瞳、か。いつ見てもきれいな色をしている。
 裸のまま脱衣所に立っていると風邪を引いてしまうと思って服を着ようとしたのだが、自分の投げている衣類を見て数秒立ち止まった。
 
「僕、着替え持ってなくないか……?」
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