47 / 283
1-4 世界把握編:小さき転生者、冒険者ギルドで暮らす
45 ▽魔導書を手に入れた
しおりを挟むその場で二人とは解散した。
二人は昼からのお仕事の開始時間が決められているから、余裕そうな感じで昼食をとっていたみたい。
食事をしながらゆっくりと仕事のスイッチをONにしていった丸さんは、食事後に「やだ! 行きたくない!!」と駄々をこねていたペルシェトさんを連れていった。
やることがないからどうしようか、訓練もなくなったって言ってたし。
ギルドの正面出口から出ていく途中にスタッフルームを覗いてみたら、本当にバタバタとしていたから、そそくさとギルドから外に出ていった。
出ていっても特にすることがなく、目的地もないことに気づくのは早かった。
外の空気をこうやって意識的に吸うのですら久しぶりに感じる。
(いや、ほんとうに外の空気美味しいな……)
そうか、排気ガスみたいなのが出ないから……。なるほど。
周りを見てもみんな徒歩で車なんかひとつも見当たらない。だから空気が田舎のように美味しいのかも。
「また、機会があれば散策もいいかもしれない」
家に引きこもっているわけでもないのに外の世界を新鮮に感じた。
寮とギルドまでの数分の道を行って、ギルド内で一日を過ごして……帰る。明らかにやばい生活をしている。
朝の勉強会のやる内容がそろそろ終わるって言ってたから、終わったらその時間を使って足を延ばしてみるのもいいかも。
ぼんやり考えながら歩いていると自然と寮について、玄関に入っていた。
足も正直モノだね。この道しか知らないもんね。
僕が住まわせてもらっている寮は、木造の広い正面玄関がある。
大きいと感じるのに、これでもこの国の中にもかなりの数建てられている一般的な寮の一つだというのだから驚きだ。
一階に十程の室数で、二階はそれより多く二十弱の室数。玄関のセキュリティはほとんどないに等しく、誰でも簡単に部屋の前まで行くことができる。
そんなの危ないじゃないか! と思っていた時期が僕にもある。
だけど冒険者ギルドの男性スタッフというのは元冒険者が多い。死なずに引退する冒険者の数は少なく、そんな百戦錬磨の人たち住まうこの場所になにかをしようとすると、とんでもないことになるから誰も仕掛けてくることはないと気づいた。
珍しく早く帰ってこれたことに若干の嬉しさを感じながら、正面玄関《エントランス》を抜けた。
この時間は、やっぱり誰もいないのかな?
人の気配が感じないから、二階に行く階段の近くにある部屋の投函口を横目で確認して、二階にある部屋に行こうとした。
「あれっ」
気のせいかと思って二段ほど上がっていた階段を下りて、自分の投函口を確認した。
「あ、やっぱりなにか入ってる……?」
僕の部屋の番号『213』が振られたところを見て、取り出してみると大きな本と一枚の紙が入っていた。
折りたたまれていた紙を広げると、髪の上に『クラディスへ、レヴィ』と見えた。
「レヴィさんから!?」
大きな声をだしてしまい、ハッと急いで口を閉じて、急いで本と紙を両手で持って部屋まで走っていった。
「危ない……、怒られちゃう」
扉をゆっくり閉めて一息つくと、ベッドまで歩いて行って本を置いた。
その横に座ってたたまれている紙を開いて、書かれていることに目を通した。
その紙の内容はこうだった。
『クラディスへ、レヴィだ。元気に過ごしているだろうか? まず、私達が勝手に三ヶ月という期間の設定をしたのは申し訳ないと思っている。しかし、クラディスはその期間でも十分強くなれるという話し合いの元での決定だということは言っておきたかった』
あれは皆がちゃんと話して決めた期間だったんだ。過大評価だと思うけど、なんだか照れるな。
三ヶ月という期間の話はナグモさんとの話から、全く気にすることが無くなった。それに加え、三人からも強くなれる期間だと書かれているので俄然、自信が出てくる。
そんなことを考えながらベッドに横になって、手紙を見上げる形で持ち上げた。
「……んぇ?」
カーテンを閉めていない窓から光が差し込み、文字が透けて見えた。
「裏も何か書いてある?」
裏返してみるとまだ文章が続いていた。
『――さて、話は変わるが、この用紙と一緒に置いていったのは初級の魔導書だ。日々の訓練や勉強で大変だと思うが、数ページでもいい読んでいて欲しい。応援している』
裏面短いけど、これで文章は終わり……かな?
表面と裏面を何度か見てみるけど、それ以外に書かれていなかったことをしっかりと確認して、ベッドの横にある小さな台に置いた。
僕は大変なのか。そうか。
朝から夜までギルドで拘束され、勉強から倒れるまでの訓練の日々。
通常の人なら逃げ出す環境に置かれているというのは薄々感じてはいた。だけど、勉強は楽しく、スタッフさんはいい人ばかりだし、倒れてしまうのは僕の体力不足だからだ。
日々成長しているのが勉強面でも戦闘面でも感じているから、なんだかんだ言っても僕はこの生活が気に入っている。
本当に囚人みたいな生活してるけど、賢くならないと社会的にも生きていけないし、強くならないと物理的に生きていけない。
「……魔導書……。読んでみるか」
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる