【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

文字の大きさ
72 / 283
2-1 少年立志編:勇者と転生者の出会い

70 身体強化

しおりを挟む




 ようやく群れの中心から抜け出すことができて落ち大勢を整えることができた僕は、周囲に見えるゴブリンでもはぐれ気味の個体を見つけて倒していっていた。 
 だが、そんな僕の前に、新品のホブゴブリンが僕の前に立ちはだかり、僕の攻撃を易々と受け止めてきた。グッと腕に力を込めるが、ホブゴブリンも負けじと棍棒で押し返し、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見下ろしてくる。
 
「なに、余裕そうな表情してんだお前……なめないでもらって良いですかね……!!」

 その顔を見たことで、溜まっていたストレスが溢れ出たのを感じる。
 弱い、俺ならやれる、丘上の奴は無理だとしてもこいつなら……とかそんな感じの表情だ。
 
「クラディスー。盛り上がってるところ申し訳ないけど、身体強化使わないの? せっかく教えっ――危なっ!」

「え? なに!? 何か言った!?」

「しんたいきょーーかーー!!!」

「そんな、身体強化って言ったって……まだ使えないよ!」

「いッ!! や、魔法をそれだけ使えてるんだ、できるって!」

 どうやらキングの攻撃とゴブリン達の猛攻を避けながらこっちのことまで気にかけてたらしい。
 そんな状況で僕にアドバイス……? 化け物か?

「身体強化、今の僕なんかに――」

「なに? 挑戦が怖いの?」

 その言葉だけが混沌とした中で鮮明に聞こえ、胸へと突き刺さった。

「なんで? 冒険者なんでしょ? 慎重に行きたいの? それでいつになったら強くなれるの? 100%じゃないと動きたくないの?」

「し、死ぬかもしれない、から」

「死ぬのが怖いなら、高い足場でも作って震えながら見ればいいじゃん。そうやって頓挫してる間に僕がこいつら全員倒すからさ。ずっと、そうしておけばいいんじゃない?」

 逃げて、逃げて、ホブ程度に攻撃を止められてさ。
 ケトスの言葉が執拗に自分の現状を痛い程突いてくる。 

「お前に……何が分かるんだよ」

 小声でつぶやき、小刀を握る力を強めた。
 こんな命張って戦うことなんか初めてなんだぞ。右も左も分からない、見ようと努力をしていても脳内に押し寄せる情報の濁流が通常行われるはずだった思考を阻害し、体を硬直させる。
 そんな中で、成功したことがないどころか学び終えてないことを実践投入だと?

「強くなりたいんでしょ? だったら、死に物狂いで戦わないと。それとも……口だけ?」

 一々、煽ってくるケトスに腹が立つ。
 だけど、煽られてようやく自分がしなければならないことを理解する自分の方がもっと腹が立つ。
 妹を探して守るために、恩人に恩を返すために、転生者への認識を改めるために――強くなると決めた。それは、口だけじゃない。

「拍子抜け、珍しくオモシロイ奴だと思ったのに」

「……せぇ」

「……? なんて?」

「うるせぇ、黙ってろ。今、やってやるから」

「……へぇ?」

 このままでは本当に殺されてしまう。考えろ、どうすればいい?
 ケトスの教えを思い出すためには時間が必要だ。そして、思い出して、理解するためにももっと時間が必要だ。

 一旦離れるためにホブゴブリンを蹴飛ばして後ずさった。
 その後の追撃を躱しながら、囲もうとしてくるゴブリンの頭部に衝撃インパクトを当て、ケトスの教えを思い出す。

 全身の魔素を体中に張り巡らせる……ここまでは、やったことが何度もある。
 あとは……力を込める? 体に力を込めてみるのはただの気張るだけだ、違う。
 なんだ。どうしたらいい? 筋肉、魔素、魔法、魔導? 
 
「――あ」
 
 魔素に力を込める? 沸騰させる?
 魔素の質を高めるために、魔素を練り上げる。体に魔素が流転させる速度を高め、体を機能向上をサポートする――……。

 ケトスの言葉と脳内で魔導書に書かれていた言葉を思い出しながら、僕は攻撃を避け続けた。



      ◆◇◆



『グギャァァ!!』

 ホブゴブリンは目の前の少年が一切攻撃をしてこないことを疑問に思っていた。
 すべての攻撃を回避しているというのに全く反撃をして来ようとせず、まるで戦いに集中していないとも思える少年の様子は、ホブゴブリンが今まで戦ってきた相手のどれにも当てはまらない。

 反撃の隙を狙っている?
 負傷した傷を治している? 
 仲間の連携を待っている? 
 武器が壊れた? 
 それとも体力を消費させるのが目的か?

 ホブの表情が歪んだ。
 一部の群れを引きいる個体として、周りにはゴブリンに情けない姿は見せることはできない。
 段々と湧き上がる苛立ちが冷静を欠かせ、脈絡のない攻撃を意図せず繰り出し始めてしまうまでに。

 そんな状態のホブゴブリンには、その目の前にいる少年の奇行が、着々とホブを屠る力を身に着けようとしている姿だとは思いつくことはないだろう。『攻撃を避けるための思考』と『身体強化をスキルとして会得しようと巡らす思考』を同時処理していることにも尚のこと気づくわけもない。

『ギャギャギャ!!』

『グゥゥギャアアァァッ!』

 ゴブリンに背後を取らせ、攻撃をさせてもひょいと避けられてしまう。
 目で見ている訳でもないのに、何故避けれる? そんな思いがホブの攻撃を加速させる。

「……違う」

『グゥァ……?』

「もっと、魔法のように……」

 ぶつぶつと呟く言葉の意味など知らないが、こちらを馬鹿にしているに違いない。

『グガァァァッ!!!』

 だが、いくら少年よりも太く、大きな棍棒を振り回そうと流れるような動きで躱される。
 さらには自身の攻撃と同時に行われた全方位からのゴブリンの攻撃も見事に躱され、投擲物すら目に見えているかのように避けられてしまった。ホブゴブリンやゴブリンからは既に息が上がり始め、疲労の色が見えだしていた。

 避けることに関して、クラディスは同年代の者達から頭が何個も抜きんでている。
 毎日毎日死ぬ気でナグモの攻撃を避け、隙をうかがっている彼が避けに徹していたのならば並大抵の魔物モンスターでは、クラディスに傷などつけることはできないだろう。
 そんなことなど露も知らないホブの攻撃を避け続け、クラディスは『身体強化』について着々とまとめていっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて

ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記  大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。 それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。  生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、 まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。  しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。 無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。 これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?  依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、 いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。 誰かこの悪循環、何とかして! まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...