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2-3 少年立志編:大人たちは机で語る
091 ギルド定例会議⑤
しおりを挟む会議後の残った資料の回収は一般のスタッフの仕事。今回は役員会議に出席をしていたペルシェトとナグモが担当になっている。
長卓の上に放り投げられている書類を束ねていく中、ペルシェトは資料を片手に椅子から動かないナグモをチラチラと見て、もぞもぞと体をうごかしている。
(うぅ、気まずい)
机の上の資料は回収して箱に入れたのだが、最後の資料はナグモが持っているから箱を持って出ていくこともできないし、勝手に部屋を出るのもおかしい。
ペルシェトは逃げ遅れてしまったのだ。
ナグモの周りをクルクルと周って顔を覗かせて見せるが、動じず。
ランクアップのページを見つめて一ミリも動かない様子はとても様になっているのだけれども、今はそんな場合じゃあない。
そうこうしている内に猫人族の耳がぺしゃんと倒れた。
「……はぁ」
とため息がつかれ、ペルシェトはすかさず箱を突き出す。
「ナグモさん、その! その紙で回収が終わるからくれると嬉しいかな……ぁ、なんて」
「あぁ、待たせてたんですね。すみません」
「いえっ、そんな……全然……!」
緊張しすぎてクラディスのような受け答えをしてしまったが、無事にナグモのところにあった一人用の資料を回収するのが成功。
だが、顔を上げた時に見えたナグモの表情は、特別、普段と何か違うわけでもないように思えた。反抗的な目はしているが、そこまで腹が立ってたりしてないのかもしれない。
「……うぅ」
ペルシェトは箱を持ったまま退出しようとした体を戻し、ナグモの横に箱を置いた。
「た、ため息つくと幸運が逃げるらしいですよ!」
天井を見上げていた顔をペルシェトの方に向け、驚いているような表情になった。
さっきまで重たい雰囲気だったというのに、普段の調子で話すペルシェトを見てナグモの口元が緩んだ。
「……最後、ちょっとイラッとしてしまいました」
と話す表情は普段のそれ。
ようやく雰囲気が良くなった、と感じたペルシェトも普段の調子に戻すことにした。
「あはは……仕方ないですよお。まぁあの役員は以前に丸リーダーにも噛み付いてたから職員のことがあまり好きじゃないんですって、多分。たしかその後に『クラディス君のところに行ってくる』って言って走っていったような……」
「クラディス様はギルドスタッフの癒しですからねぇ……」
まるで小動物みたいに、と続けて笑った。
白髪の眼帯で、スタッフ全員の飲み物のツボを押さえている。そんな彼は手が空けばギルドスタッフの仕事の手伝いもさせられ、ある程度の雑用はできるようになっている。
その雑用中に、ペットのように抱きかかえられて遊ばれているのを見かける。
まだここに来て一月と少しだと言うのに、すっかり馴染んでいる様子。
「私達も癒されに行きます?」
「そう都合よく会えますか? あー、えー……っと」
予定表を思い返すと、たしか今日はティナがオフの日であったはず。
「……多分、クエストしてるか、寝てるかだと思いますよ」
「なら無理そうですかね? あ、じゃあ、久しぶりに私の家で宅飲みでもしますか!」
「……飲みは遠慮しときます……けど、仕事したくないから今日はもう帰りたいなぁ」
「サボりますか! 今日の仕事ってこの会議だけですし、あとはぁ……残業みたいなモノだからコソコソして抜け出したら大丈夫かな……?」
「そーですね。残りの仕事、サボっちゃいましょうか」
椅子にもたれていた体を起こして、ナグモは資料の入った箱をひょいっと持ち上げた。
「じゃ、鍋でもしましょーか」
「賛成! もちろんナグモ先輩の奢りですよね?」
「こういう時にしか出さない後輩アピールは効果なしですね」
「ぶ~! ま、半々かなぁ~」
「……7:3、ですかね」
「お、せんぱーい!! ありがとございマース!!」
「私が3ですよ」
「え゛っ」
ペルシェトの元気な反応を楽しみつつ、二人はしれっと仕事を放棄して街へ出ていった。
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