150 / 283
3-2 残穢足枷編:彼女の幸せは
147 またこれか
しおりを挟む僕は727番の子と一緒に帰って寝たはずだ……。
直近の記憶を思い返してみるが、僕の目の前に広がる空間に見覚えがなかった。そして、また体が自由に動かない。
(はぁ……またこれか)
この世界に来た時に一度だけ経験したことあるこの感覚。
あれはまだムロさん達と会って数日とかの話だったっけ。
あの時は……この空間がタイルがひっくり返るようにパタパタと色つけられていったな……。
暗い空間を見つめていると、前回と同じように空間に色がついて行ったのだが、前回の洞窟のような場所とは違った。
周りが木々に囲まれ、僕以外の人は……いないか?
見覚えのない森林だ。ケトスとあった場所やティナ先生と訓練していた場所とは少し違う気がする。
「前にあった時から成長をしていないな」
僕の背中から、聞いたことが無い声が聞こえてきた。
声にも若干の曇りが入り、声の高さなどが微妙に分からないようになっている。
「楽しくない、全くと言ってもいいほどだ。不快感すら覚える」
僕の前に出てきて、ようやく顔が見えたかと思うとまだ顔にモヤがかかってよく見えなかった。空中に浮かび、こちらを見下ろしている。服装は……これもぼやけているか。
手も足も何も動かないから前と同じようにその人の言葉を待っていると、景色が一度揺らいだ。
「俺を楽しませてくれ。それが君の――であり、――だ。その実力で楽しめるとは思えないが、それは仕方ない」
(この人は……ぼくに怒っているのか?)
楽しませる? 成長をしていない? それに所々にノイズが走り、聞き取れないところがあった。
(なんではじめましての人に煽られないといけないんだよぉ)
最近こういうの多いよ、知らない人に一方的に言われるの。辛いんだからね。
何らかのメッセージ性があるのかな? 目は自由に動くから拾える情報を得ようと目を動かしても、森林、目の前に顔も分からない人がいること以外分からない。
エリルが言ってたように僕の記憶とかそういうのに異物が混じったんだな。前も声が明確に聞き取れなかったし……。転生っていう時のバグみたいな感じだと思えばいいか。
そう思っていると、前を歩いていた人の足が止まって世界が静止した。
木から落ちていた葉が止まり、風で揺らいでいた風景がそのままの状態になる。
「……で、目が覚める、と。はぁ……」
結局、夢っていうの以外情報がないんだよな。
「……んっ…………」
床に敷いている布団で少女が寝返りをうっているのを見て、夢なんかどうでも良く思えて体を起こした。
「せっかくの休みなのに早く起きたな……。眠い……」
外はまだ明るくないし、今日の予定なんか考えて無かった。この子を買うってこと以外頭になかったからな仕方ないけど……ゆっくり何かしながら考えたらいいか。
予定何てそんなポンポン出てくるわけでもないしな。
音を立てないようにキッチンまで行って料理を始めた。
◇◇◇
「朝は……そうだな、スープとパンと目玉焼き……とかでいいかな。好みとかわからないし」
とりあえず、無難なやつを用意しておこう。
「それにしても……あの端末をつくれるまで技術が発達してるなら家電とかも刻印魔法や魔石を使わずに、科学力だけでどうにかなりそうなものだけどなぁ」
ネットとかは使えないにしろ、何かしら応用は効くような気がする。
あ、魔石やそういう研究が進んでる方が安心感があるのかな。金持ちのああいう場所で使う限定で開発された技術なのかもしれない。
中央広場にあるモニターのようなモノも、魔法技術の応用で作られた映像記録や伝達する媒体を何かして何かしたモノなんだろう。アレができるということはカメラみたいな物もありそうだ。
(新聞には写真があったか。写真は少なくともいけて……割と文明が進んでるみたいだ)
料理を作ったり色々準備をしながら昨日のことや、この世界の技術力のことを寝ぼけてる頭で考えていると、ベッドの方から軋むような音が聞こえてきた。
「あ、起きた~? おはよ」
「す、す、すみません……あるじより寝てしまっていて……」
「いいのいいの、そんな気を使わないで~。僕が訳分からない時間に起きただけだから」
「しかし……」
「あ、だったらお皿とか出しておいてくれない? そこの棚にあるから……の前に、朝起きたから顔洗う? まだ眠たいでしょ」
「いえ……大丈夫です」
「ホント? この部屋にあるモノなら自由に使っていいからね」
流石にまだ慣れてないのか、よく眠っていたと思ったら罪悪感で押しつぶされそうな表情をして起きてきた。
毎日どんな生活をしていたのか詮索するのは苦だよな。
「あのっ、お皿は……」
「二人分だから、平べったいのとスープが入りそうなそこが深いやつを2つずつかな」
「私にも頂けるのですか……?」
「そうだよ? え、要らなかった?」
「いえ、そんなことは……。ただ、今まで朝食など食べたことがなかったので」
「だったらゆっくり食べてね、無理だったら無理して食べる必要はないし」
あまり広くないキッチンで二人で当たらないように盛り付けて、テーブルまで運んで向かい側に座ってと促した。しかし僕が座るまで立ったままだったので早く座った。
「あるじ」
「『あるじ』じゃなくてさ、名前で呼んでよ。クラディスって名前だからさ」
「……あるじ」
「あー、名前で呼ぶのはできない?」
「名前で呼ぶなど……そんな分不相応なこと、できません」
「そっか。強要するものでもないし、呼びやすい方でいいよ」
エリルにも『ますたー』って呼ばれるし、ナグモさんにも『クラディス様』って呼ばれてるから今更何て呼ばれてもいいんだけどさ。『あるじ』か『あるじ』ねぇ……うーんモゾモゾする。
「……あっ、飲み物持ってきてなかった」
「! それは私が」
「いーよ、座っててー。ミルク? それともお茶? 何がいいかな」
「え、な、あの……」
「一緒に決める? そうしよっか」
「は、はい」
ゆっくりと朝食を食べて、お皿を流しに持っていくと皿洗いをしようとしたので一緒に皿洗いをした。
その間も明らかに僕に対してへりくだった態度を続け、リラックスも出来ない少女を見て、僕は頭を悩ました。
(どうしたらリラックスをしてくれるのか)
この子は何がしたいんだろうか、女の子が好きなのってなんだろう。佳奈が好きだったのは、美味しいもの食べて、服を買って、化粧品を……。
「……っ、ぅ……」
座って落ち着かない様子の少女を見て、あれこれ考えるのは辞めた。
「ね、今日はお出かけしよっか」
「お出かけ……ですか?」
「どこに行くかって言うのは僕もわからないけど、楽しみにしててね」
「分かりました」
何を悩む必要があるんだ。この子に楽しく生きてもらいたいから僕は教えれることをできるだけ教えるんだ。好き嫌いが分からないんだったら探って行けばいい。それだけの時間はたっぷりある。
寝巻きから外に出るようの服を着て、少女にも昨日買った服を着てもらった。
ぼくは袖あまりの服。寒くなってきたからね。少女はボーイッシュな見た目になった。
ふむ、ペルシェトさんが似合うと思って選んでくれた服だけど、この子とボーイッシュなファッションは似合っていると思う。
「よし、街に向かってれっつごー!」
「ご、ごー……」
今日でこの環境に慣れてくれるとは思わないけど、少し楽しいことでも見つかってくれたら嬉しい。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる