【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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3-2 残穢足枷編:彼女の幸せは

150 王国内舟の旅

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 僕がまだギルドで勉強会をしている時の話、ペルシェトさんと丸さんからこの国の話や他の二国の話を聞いている時の事だ。

 その時に「この国って歩くだけで楽しいです、景観とか見ているだけでワクワクしますし」と話をすると、この国のおすすめポイントをいくつか教えてくれた。そのうちの一つが『王国に流れる河川での舟流し』だ。

 ギルドから少し遠い場所にあって僕の予定がなかなか空かず、行ってみることは出来なかったけど、この広場からなら少し歩けば着く。せっかくの機会だから社会勉強がてら行ってみよう。

「流し舟かぁ、見たことはあるけど乗ったことはないんだよなぁ」

「僕もないかな。アンは?」

「ありません」

「三人とも初めてってことだ。どんな感じなんだろうな~、楽しみ楽しみ」

 少し街の中に入っていき、話に聞いていた場所に着くと人族ヒューマンのオジさんが立っていた。
 そこで軽く説明を受けて受付をすると、直ぐに乗れるということで僕らは舟に乗り込んだ。

「お客さん達は始めてかい?」

「はい、三人とも初めてです」

「お、そうかいそうかい、じゃあ楽しんでくれよっと!」
 
 そう言うとおじさんが舟乗り場をゆっくりと押し、舟が少し揺れて出発した。
 外は暖かったのに、船に乗るとちょっと肌寒く感じる。視界もかなり低くなるから手を伸ばせば川の水に手が触れることができた。

「早速お客さんたちに質問だ。この国の河川がなんで広いか分かるかい?」

「物流を河川でやっていたとかですか……?」

「お、なんだい、知ってたのかい。まぁそーなんだよ。この国って街の景観を守るために魔法の研究が進んでなかった時や、今の物流の仕方が普及する前はこんな感じで物を運んでたって訳さ。すっごく前の話」

「はぁ~……やっぱり景観保護はしてるんですね」

「兄さん方は旅行かい? 来たときはビックリしたろう。この国の街並みは王族のセンスさね。みんな気に入ってるし、利便性も高いから有難いこった」

 王族がこの街のデザインの大元を決めたってことなのか。ふむ、友達になれるな。
 肌に感じていた少し寒い空気が少し暖かくなったかと思うと、視界が開けて太陽の日差しが降り注いできた。

「わぁぁぁぁぁぁ……すごい綺麗」

「凄く綺麗だし、落ち着く」

「さっきまではまだ狭かったからなぁ。こっから広いし、人と会うことだってあるぞー。ほら、あそこの窓の人、こっち見ながらくつろいでる」

「ほんとだ、手を振ったら変に思われるかな?」

「はっはっは、あの人が手を振り返したことは無いな」

「あれ、お知り合いなんですか?」

「んや、よくあそこからこっちを見ながら本読んだりしてるから顔を覚えただけだ」

「そういう人もいるんだ……」

「俺の声がでけぇから、暇つぶしにでも使ってくれてるんだろうさ」

 試しに手を振ってみるけど、こちらを見ているだけで動かなかった。

 そこでふと僕だけがこの舟の旅を楽しんでいるのではないかと思って、アンとケトスの方を見てみた。
 ケトスは周りの建物を見上げ、あまり透明度が高くない水の中を覗き込んだりしていた。アンはチラチラと辺りを見回しながらも、少しは楽しんでくれているようだった。

 そこからは櫓を漕ぐオジさんがこの国のことや街の景観の話や色んな話をしてくれていると、石橋が見えてきた。

「あっ、あそこって……今日通った所じゃない!?」

「わー、人が沢山通ってる。変な気分」

「ほら、あそこにいる人らは手を振ったら返してくれるよ。手を振ってみな」

 手を振ってみると、気が付いた親子連れが手をヒラヒラしてくれた。
 直ぐに石橋の下を通ると、子どもが反対側まで来てくれて、また手を振ってくれた。

「あはは、ばいばい~」

「ほんと、いつもとは違うから視線だし、通ることが無い所だから新鮮……」

「建物も、正面ばかりじゃなくて完全に背中を向けて、それも絶壁だったりするから面白いね」

「気に入って貰えて嬉しいよ、そこの嬢ちゃんはどうだい? 楽しかったかい?」

「……はい」

「なら良かった。じゃ、舟旅はこれで終わり」

 20分から30分近く乗っていたが、とてもその時間には思えないほど短く感じた。オジサンの話が上手いのもあるんだろうけど、それ以上に満喫出来たのは間違いない。
 三人とも舟から降りると、とりあえず目的地もなく歩くことにした。

「綺麗な街並みを別の角度から見るのってあんなに良いんだな」

「クラディス、ずっとキョロキョロしてたもんね」

「ケトスも人のこと言えないでしょ」

「僕は寒かったから身震いしてただけ~」

「えぇ~? 楽しんでたように見えたけどな。アンはどーだった? 寒かったけど大丈夫だった? 体とか冷えてない?」

「大丈夫です、楽しかったです」

 相変わらず単調というか単語単語にしか返してくれないけど、本人が楽しかったって言ったからとりあえず良かったとしよう。
 
「次はどこいく~?」

「何も考えてないなー」

「普段はクエストばっかりやってる人が珍しく休みを取ったんだから、良案が出てこなくても仕方ないね」

「何それ……ケトスの中で僕ってそんなイメージ?」

「超が付くほど真面目、息抜きの仕方を知らないお人好し~って思ってる。僕と真反対なだネ」

「ケトスは脱力し過ぎだと思うけどな」

「僕が普通。クラディスみたいな人って周りの冒険者にいないでしょ?」

「……まだ出会ってないだけかもしれない」

 ムロさんやエルシアさん……はどっちかっていうとケトス側か。レヴィさんは生真面目だと思うけど、他の冒険者はガサツというかオラオラしてると言うか、配慮がないというか……。

「じゃあ、今日はこれで解散にする?」

「そーするかな。クラディスは帰り道って分かる?」

「方角くらいなら分かるけど、微妙な感じ」

「じゃあ、途中まで一緒に帰ろう。僕まったく分かんないから」

「りょーかい、帰ろっか」

 僕のリフレッシュとアンの気分転換を兼ねたプチお出かけは昼過ぎに終わった。
 帰る道でケトスに「この腕だから、しばらくは戦闘系のクエストは受けれない」と伝えると「そりゃそうだ」と笑われて別れた。
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