【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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3-2 残穢足枷編:彼女の幸せは

152 もしかしてうざがられてるのかなぁ

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 ……正直な話、骨折が痛いです。

 中々治らないし、治るまでは体を動かしたり、やりたいこともできない。人生初骨折なんですけども、これほどまでに長引くとは思ってもみなかった。
 治すには動かずに安静にすることが大事だそうで、「何も予定が無い日は家でゆっくりしてね!」と、かかりつけ医ペルシェトさんに言われた。

(……んー、無理! ゆっくりできる性格じゃない)

 つくづく自分の前世はマグロか何かだと思う。何かしてないと退屈で死んじゃいそうだから、そういう日はアンとお出かけをするようにした。
 「前世」とか、転生ジョークでこれから使って行けそう。使った瞬間殺されちゃうんだけどさ。
 


 現実逃避はこれくらいで、今日は薬草採集のクエストを受けた。

 本当は魔物モンスター退治をしたかったんだけど、ペルシェトさんが受付で待ち構えていて笑顔でこのクエストをお勧めしてきた、これくらいならいいみたい。
 僕とアンが受けることができるレベルのクエストで、薬草の名前はドゴン草と言って、希少度は低く、集めれるだけ集めてもいいと言われた。

 僕が一つ採ってアンに渡して、同じのを集めてもらうようにして二人で手分けして採集を始めた。

「って始めたクエストだけど……どうしたもんかなぁ……」

 僕の頭の中では、アンが楽しんでくれるようなことをアレコレ考えてばかり。
 現時点のアンの反応なんだけど、まずは甘い物が好きだというのは分かってる。だけど買い物はあまり好きではない。服選びもそれほど好きではないようだ。勉強はペルシェトさんの話をよく聞いているから……興味はある気がする。
 甘いものが好きだからって、甘い物をずっと作って振舞うっていうのはなぁー……。

「あるじ、ここ一帯の採集が終わりました」

「あれっ、もう終わった!? ホントだ……。めっちゃ早いよ! ご苦労様!」

「……ありがとうございます」

 アンが採ってきてくれた袋を『鑑定』してみると、本当に全てドゴン草だった。短い茎、広い葉が所狭しと入っている。
 始まって五分も経ってないのに……。アンはやっぱりすごいな。

「……他には……」

「?」

「他にはありませんか……?」

「他に? だったら今日の帰りに買い物するから、荷物持ってくれるとありがたいかな」

「そういうのではなく……もっと……っ」

「……アン?」

「……っ……いえ、申し訳ありません。なんでもありません」

 そういうと、アンは僕の袋を持って採集に向かっていった。
 ……最後に見せた表情には、すごい剣幕がありながらも憂色が見え隠れしていたような気がした。
 
 アンの中にあるのは、どういう感情なのだろうか。
 もしかしたら僕が想像していることとは違って『楽しい』という感情以前のような問題に思えた。

 

     ◇◇◇



「やっぱり僕が嫌いなのかなぁ……」

 アンがお風呂に入っている間、ソファに寝間着のまま横になって唸るように呟いた。
 僕は人付き合いが上手ではなかったけど人の気持ちとかは分かろうと努力してきたつもりだし、今も現在進行形で分かろうとしている。

「……構いすぎ? ウザがられてる?」

 出会って数日で構いすぎだったのかな、放っておいてほしいとか……? 
 本人に直接聞くのだけは絶対違うものな。「僕のことが嫌いなの!?」って、どこのヒステリックだって話だ。

(何か……ないのかな)

 すると、お風呂場から上がったアンが寝間着に着替えて出てきたから、ソファのスペースを開けて隣に座るように促した。
 向こうを向いてもらってドライヤーで長く綺麗な髪の毛を乾かし、アンが僕の部屋に来た日に買ったくしいた。
 腰まで伸びている真っ黒の髪の毛だから手入れをしないとすぐに傷んでしまうと思って始めたことだ。

 それにしてもやっぱり綺麗な髪だなぁ……。僕が髪フェチだったら最高に喜びそう。

 優しく柔モノに触るように手入れをしていく。髪の毛は女の子の命だと佳奈から聞いたことがあるし、僕にくしを渡してかせていたからこういうのは慣れている。
 髪の毛のセットもバリエーションは少ないが、人並みにはできるから……そうだな、アンが望めば髪型を変えても――

「あ、こういうのがダメなのか……?」

「……? あるじ?」

「え、あぁ、ごめん、なんでもないよ」

 確かにこれは距離感が近いな、好きでもない人に髪の毛を触られるのは嫌か。
 自分を買った人の命令だから従わないとダメだと思って付き合ってくれてるのかも……。そう思えばアンの口から「嫌です」という言葉は聞いたことが無い。

「んなぁぁ……」

「……?」

 思わず、嘆息にも似た変な声が漏れた。
 悩んでもやっぱりどうしたらいいのか分からない。
 アンの髪を乾かし終えたからホットミルクでも飲んで落ち着こうと思ってキッチンに向かうと、ドアをノックする音が聞こえた。

「お客さん……?」

「クラディス~! 起きてるー??」

「……ケトス?」

 扉を開けると紙をヒラヒラとさせて、ニヤニヤしているケトスの姿があった。

「ちょっとクエスト行かない?」

「えー……? もう夕方だよ。それに骨折がまだ治ってないし」

「分かってるって! 今日はクラディスは付き添い! メインはそこの付き人さんさ」

「アンを……クエストに? それは……冒険者に登録はしたけど……でも」

「客人ですか?」

「あっ、アンちゃん……だっけ。魔物モンスターと戦いに行かない? とびっきりいい相手見つけたからさ」

「ケトス……あまりそういうのは――」

「行きます」

「……アン……?」

「即答、いいね。じゃあ早速行こうか」

 アンの目の色が変わり、クエストの誘いに即答をした。
 その時の表情は、僕が何かを誘った時には見たことがなかった顔だった。
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