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3-2 残穢足枷編:彼女の幸せは
153 彼女の口角が上がっていた
しおりを挟む毎度おなじみの森の奥へと進んで行くんだけど……。
ケトスは鼻歌を歌いながら何か企んでいるような顔をしているし、アンはその反対で真剣そうな表情をして、ギルドから借りていた拳殻の感触を確かめているようだった。
声をかけづらい雰囲気だなぁ……。
アンも真剣を通り越してすごく緊張しているような表情になってるし。
……それにしてもケトスが僕たちを誘った理由が分からない。
ケトスは別に一人でクエストに行くことだってできる、無理して僕やアンを誘わなくてもいいんだ。僕は怪我をしてるっていうのは伝えておいたはずなのに、それでもクエストに誘っているということは何かあるのか……?
「ケトス……何考えてるのさ」
「なにが~?」
「クエストなんて一人で行けるでしょ? なんでわざわざアンを誘っていくの」
「ん~? 深く考えすぎじゃない? ただ僕一人じゃ寂しいから誘っただけさ」
「……無茶をさせるのだけはやめてよ」
「それは、彼女次第だと思うよ」
ケトスは歩くスピードを上げて、奥へ奥へと入って行った。
しばらく歩き、完全に日が沈んだ頃に開けた空間に出た。
そこは、来る途中まであった木の幹とは比べモノにならないほどの巨大な木が幾つか点在していて、月明かりが差し込んで青白く幻想的な雰囲気を出している場所。全体的にスケールが大きいが地形の凹凸が少ない、湖のようなモノも見えて蓮の葉が浮いているのが見えた。今までで一番魔素が濃く感じられる。
この森林地帯って中位ダンジョンがあるらしいけど……もしかしてここなのかな。
「久しぶりに来たぁ~……ぁ」
森林部から抜けて、広場の中央へと伸びをしながら歩いていくケトス。
「……ケトス。そろそろ教えてくれる? 今日受けたのってどんなクエスト?」
「簡単なクエストよ、たった二体のゴブリンキングを倒すだけ」
「またそうやって……!」
意図せずケトスの勝手に振り回されることに対して、言葉に少し苛立ちが滲んでしまった。
そのことに気付いたのか、チラッと中央の方を確認して両の平をこちらへと上げた。
「あはは、ごめんね。でも、今回目撃されたゴブリンキングに特徴があるんだ。その特徴を聞いて、もしかして……と思って声をかけたワケ」
「『特徴』……?」
「魔法耐性が秀で、中位冒険者の魔導士の魔法攻撃を食らってもダメージが通らなかった。中でも特に水属性のが秀でてる……ってね。それも二体とも」
「二体のゴブリンキング……水属性魔法……?」
「思い当たる節があるでしょ。前、僕とクラディスが会った時にクラディスが水柱で動きを止めてたホブゴブリン、いたよね? アレ、倒した?」
「あの時の水柱で動きを止めたホブ……。いや……倒してない」
「その時に魔法耐性を獲得して、この期間中に進化……十分考えることができるんじゃないかな」
どう記憶を思い出しても、あの水柱の解除タイミングは覚えていないし、あの中に閉じ込めていたホブ二体も倒したような覚えがない。
ゴブリンの強打を食らって倒れた瞬間に解除されて……逃げた……? それで、力を蓄えて進化して……。
『ヴアアアアァァァァッァァァッ!!!!!!』
「お出ましだね。目撃場所はあってたみたいだ」
中央の大きな木の幹の影から姿を現したのは、巨躯のゴブリンキング二体とその群れ。数は百を超えているだろうかと思える程。
「ケトス……ダメだ。魔法攻撃が効かないんだよ!? 僕もケトスも攻撃手段が制限されるし……それに」
「違う違う。言ったでしょ? 今回あの二体を倒すのはそこで殺気が駄々洩れしている付き人さん。僕の今回武器は壊れかけの斧だけだからサポートに徹するよ。クラディスは見学ね」
「さすがに無謀すぎる。アンは魔物との実践経験が無いんだぞ! なのに最初から相手があれだと荷が……」
そう言いかけると、アンが僕の前に立って頭を下げてきた。
「あるじ、わたしいけます。やれます……! だから、どうか……行かせてください!!」
「なんで……」
「ほら、アンちゃんもああ言ってるんだからさ。それに、主人の不始末を自分の手で片付けれるっていうのは彼女にとって光栄なことじゃないかな?」
アンがなんで頭を下げてまで戦いたいのか分からなかった。
戦うのは闘技場のことを思い出させてしまうかもしれないから……させたくはないと思って、しばらくは意図的に避けていた。
すると、その後ろにいるケトスがバレない様に手でオーケーサインを出してきたから、その意図を汲んで渋々承諾することにした。
「……はぁー……アン、無理はしたらダメだからね」
「! ありがとうございます! 必ず、勝利をあるじの手に納めて見せます。わたしは……あるじの一等級戦闘奴隷なので……!!」
「戦闘奴隷なので」……か。
アンのこんな表情初めて見た。活き活きとしているが、どこか寂しく、闘技場で戦っている時を彷彿とさせる。
止めればよかったと思った。だけど、僕といる時には見せないその表情の理由もしりたいとも思った。
ぼくは、アンが口角を上げていたから、それを見守る意味を込めて半歩後ろに下がった。
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