【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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幕間のお話

閑話 ユシル村③

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 すっかり辺りが暗くなってきており、まだモノが見える暗さではあるが早く車に乗って比較的安全そうな場所にまで移動したいところだった。

 そんな中、三人はムロを先頭に歩いて帰っていくが、微妙に雰囲気が重いことをエルシアは感じ取っていた。
 雰囲気が悪い原因は検討が着いていたのだが、あまり触れてはいけないと思い、口をつぐんだ。

 ……ムロは村出身なのだ。

 以前ムロが話してくれた。ムロはデュアラル王国の管理している領地にあった小さな村の出だという。そしてその村も警備隊を含め魔物モンスターに全滅させられたらしい。

 ムロ一人を除いて。

 魔物モンスターが襲ってきた時と警備の交代時期が重なったらしく、王国方面に逃げていたところを冒険者に助けてもらったのだと。
 そんな出自を持っているムロだ、ユシル村とは直接の関わりがないとはいえ、やはり思うところがあるのだろうか? 面影を重ねているのだろうか?

 冒険者は死が着いて回る職業だ、そうわりきっているが……村人は違う。

 彼らは戦闘能力がないものが多く、それらが成すすべなく蹂躙され、殺されたのだ。

 三人は頭のどこかで自分達がもう少しはやく出発していたら……。と考えても仕方がないことだと分かっていても考えてしまっていた。
 そんなこんなで珍しくムロが心憂いていることになんと声をかけていいのか分からず最後尾でオロオロしてしまっているエルシア。

 するとレヴィが手に持っていた小さな球体にぽわっと光がともった。ギルドからの連絡が入ったようだ。
 球体は通信具となっておりレベルの高い冒険者はギルドの情報を入手するために所持していることが多い代物。
 これがあるかないかで冒険者は冒険者としての実力がある程度わかる物差しの一つになっている。

「……ムロ、ギルドから連絡が入った。死体の調査を――」

「断っとけ。……ったく自分らの国なら王国から何か派遣しろっての」

「そう伝えておくな」

 レヴィが球体に向かって、次の予定があるのでそのクエストはほかの冒険者か王国にでも出してやってくれと言葉を発し、球体をしまった。
 少し歩くと車の位置に着き、三人は乗りこみレヴィが運転席に座った。

「来た道を帰っていくか?」

「そうだな」

「わかった。一度王国方面に走らせるようにするさ」

 運転席の近くにある照明をつけ車内を明るく灯そうとしたレヴィだったが、二人の少し重い雰囲気を読んで手を球体に戻した。
 車の先頭を反転させ、車を走らせる。

 三人の中で無言の時間が続く。

 エルシアがそわそわしながらムロとレヴィをチラチラと見るが、二人とも話すことは無く、この場を何とかするために何か話題はないかと探してみるが、エルシアも何も思いつかなかった。
 はぁ……と溜息をつき、自分のカバンから飲み物を取り出そうとした。
 そこには飲み物とすこしクシャッとなった紙が入っていた、暗くて何が書いてあるのかよく見えないがエルシアは私物ということもあり何が書いてあるのか分かった。

 その紙はギルドから持ってきたクエストの張り紙。

 捨てようと思っていたのを捨てるのを忘れて入れたままだっただけのモノなのだが、何気ない会話のネタには出来そうだ。

「……あ~クエストの紙捨ててなかったぁ」

 環境音に声が入ることで静かな空間に自分の声が響いた。
 少しわざとらしい声をだったが、どっちか反応するかと思ったがムロは壁側を向いて寝てるし、レヴィは運転しているまま。

 結局会話になることは無かった。

 2人が話そうとしなくても、エルシアは何かきっかけを作ろうと疑問形で話しかけようと考えた。
 どうしても、この誰も悪くないのにどんよりした重い雰囲気が耐えられなかったのだ。

「そういえば、クエストって失敗なのかな……?」

「……しょうがないだろ、守る云々の話じゃなかった」

 ムロが普段通りの声を返した……のだが、やはり声には少しの苛立ちがこもっている

「そうだけど……さぁ」

 せっかくあれこれ考えていたエルシアだったのだが、ムロの反応で少しひるんでしまった。
 そっとしておいた方がいいのだろうか? とエルシアは思った。ムロの言葉の次になにかを続けようとしていた言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。

「――マーシャルに怒られるかもしれないな」

 レヴィが運転席から普段より砕けた声で話した。
 三人は同じ血盟に所属しており、その血盟主がマーシャルという人物だ。
 その血盟が掲げている今期の目標がクエスト失敗をしないというモノ。それを血盟に属しているムロたちの三人が犯してしまったという話だった。

「……そうだった、最悪だ」

 ムロは壁側を向いていた顔を天井の方に向け、頭の後ろに両手を回していた手を顔に当て、唸りながらゆっくりと上体を起こした。
 それを見てエルシアがニシシと笑い、二人は運転席のところまで歩いていき三人は隣に並んだ。
 レヴィの話の転換が効いたようだ。エルシアは心の中で親指を立ててレヴィのムロの取り扱い方を高評価した。

「ご機嫌とるために帰り道に何か土産を買って帰るか?」

「そうするか……マーシャルって何が好きだっけ?」

「……お酒だな」

「決まりね」

「エルシアはただただ一緒に飲みたいだけだろう?」

「当たり前じゃない。お酒はいい物よ」

「飲むのはいいが、エルシアは酒癖が悪いのが難点だな」

「そもそも失敗した俺らが一緒に席に座れると思うか? 雑用させられるぞ」

「違いないな」

「そんなぁ……」

 雰囲気が悪くなったときは大体エルシアが何か話をしてくれていつものように雰囲気に戻る。

 それはもちろんエルシアの性格から来るものだ。

 何気ない会話に控えめに笑うレヴィと、まだ気持ちの切り替えはできてはいないが糸目になり歯を見せ笑うムロ、アハハと笑うエルシア。

 いつもの雰囲気に戻っていったことがどことなく感じられた。
 エルシアが手に持っていた水筒を自分のバックにしまいに車内に戻っていった、それと同時にムロは南の方の風景を頬杖をつきぼぉっと眺め始めた。

 三人の間で車体のタイヤの音と揺れる際の音だけの時間が数秒間続いた。
 しかしそれは、先程までの重たい雰囲気ではなく言葉が繋がれなくても雰囲気が悪くならないタイプのものだった。
 無言の時間というのは雰囲気がもろに出てしまう。仲のいい間柄ならば無言の時間も全く気にならないものなのだ。

「……そうだ、今日はどうする? 最寄りの村はここから少し遠いが」

「交代しながらでいいんじゃない?」

「交代……ということは寝ていたムロが次の運転手だな」

 レヴィは隣にいるムロに声をかけた。
 ……声をかけたのだが、ムロから返事がない。
 またなにか不機嫌になったのか? と疑問に思ったが、ムロの方を見るとそうでは無さそうだ。

「ムロ? どうしたのだ――」

「ぁ……」

 そこにはムロが変わらず座っていたのだが、先程の様子と違う点が一つあった。
 ついていた頬杖の手を横に置いていた鞘に収まっている剣に伸ばしていた。

「――ガキが襲われてる」

 ムロの口から抑揚が全くなくムロが見えている光景が漏れ出したような声が発された。
 その目は真剣そのもので暗い平原の遠くの一点を凝視して、前のめりになっていた。

「は? どこに……」

「…………て。」

 ムロは何かを発したが、その何かを聞きなおそうとする暇はなく、そんな余裕はなく。意識はそこまで行かなかった。

 レヴィとエルシアはムロの「ガキが襲われている」という言葉で頭の処理の大半を使っていた。そしてそれに対して何か行動を起こそうとした。

 だが頭で考えている二人を置いて、ムロは反射神経レベルの動きで剣を片手に移動している車から飛び降りた。

「ちょ――」

「――『身体強化』」

 放った言葉と同時にムロは地面に着地し、着地点の土を抉り、すさまじい速度で風のように駆けていった。
 その男の背中はユシル村の救えなかった百数の命を悔やみ、今救える可能性がある目の前の一つの命を何としてでも助けようとするものだった。

 ムロの行動で頭をクリアにさせられた2人は考えていたことを一旦やめた。

「ちょ! ムロ!!! レヴィ! 車止めて!!」

「あ、あぁ……」

 運転席から身を乗り出したエルシアの言う通りに急ブレーキがかけられた車体は、鈍い停止音を平野に響かせ、街道から少しはみ出る形で急停止をした。

「ムロ!! 待ちなさい!! ムロ!!!!」

 エルシアとレヴィが車から降りる時にはすでに暗闇にムロの姿は見えなくなっていた。

「いっつも先に行くんだから……!」

 ムロに対しての愚痴を吐き捨て、何も持たず、ムロの後を追いかけていくように走っていった。
 二人が走っていったのをレヴィは少しため息をついてみおくり、冷静に車の台の少し下にある鍵を抜いた。

「こんな時間にこども……か」

 レヴィは2人が走って行ったルートを頭に描きながら、車の横に備え付けられている照明をもって小走りで追いかけていった。
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