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幕間のお話
閑話 クラディス気絶後の
しおりを挟む気絶したクラディスを背負い、帰路に着いた。
泊っている宿に着いて扉を開くと、レヴィが新聞を広げて情報の仕入れ中。
物音に反応して顔を上げたのに対し、ムロは背中の少年を揺する。
「トレーニングに連れて行って、疲れさせたのか」
「まぁそんなところだ」
ほどほどにしておけよ、と言って再び新聞に目を戻すと……
「レヴィ、ちょっといいか」
と、改めて声を出したムロ。
疑問に思って顔を上げると、ムロらしくない表情で「話がある」と言って宿の外へ出た。
クラディスを地面に寝かせて、ムロは壁にもたれかかるその様子は神妙もの。
遅れて出てきたレヴィが辺りに《遮音魔法》を張ると、先ほどまで聞こえていた外界の音がぴたりと遮断されて静かな空間が作り上がった。
「で、どうしたのだ。一体」
と、レヴィが聞くとムロは一呼吸を置いて、
「お前って魔導士協会のどこにいったっけ」
と言った。
思いがけない質問に「は……?」と声が漏れたが、ムロは決してふざけているようではない。
「……今は《大賢》だな。師匠の一つ手前だが……どうした?」
「《八之枢軸魔導編成中隊《カトゥルエレ》》の昇級審査で落ちたんだよな、この前」
「あぁ……そうだが」
その言葉を聞いて、脳内の言葉をまとめるように再度深呼吸。
レヴィは協会外にいる魔導士の中でも最上級の位にいる男だ。
一つ上の位に行けばそれこそ称号Ⅰには刻まれなくとも、一般的な【賢者】の仲間入りになるようなほどの。
本来なら協会に常在していなければいけない。冒険者稼業と両立していい次元はとうの昔に越している。
だから、そんな自分の立場がしっかりある人間の意見を聞きたかった。
「……なぁ、クラディスのことどう見る? ただのガキじゃねぇのは分かってんだろ」
クラディスを成長させることに賛成なのか、ということを。
ムロの一言で、何を言おうとしているのかを理解したように姿勢を正す。
そして目線はムロから、地面で横になっているクラディスの方へ。
数秒見つめたのち、視線を戻して小首を傾げた。
「もしかして、私のことを心配していてくれるのか?」
薄笑いを浮かべるレヴィに、ムロはため息をつく。
「私は大丈夫さ。出会ったときにこの子が普通の子でないのは分かっていた」
紫の瞳で、この世界のことを何も知らない少年。
狼に襲われて逃げた先でムロと出会う強運の持ち主。
希少な薬草を袋いっぱいに採ってくることができ、ムロから聞いた話では魔物が展開する魔法陣を二人よりも早く察することが出来た。
たった数週間ではあったが、クラディスが普通の村人ではないことくらい分かる。
しかし、そうは思っていながらも。
「……優しい子だよ、とても。昔のお前のように」
「んだそれ。真面目な話をしてんだぞ」
「こちらもそのつもりだ。けれど、それが答えになるのではないか?」
そう言って宿に戻ろうとしたレヴィ。
「はぐらかすな。いいのかって聞いてんだ。お前は、それで」
「……まだ、決めれないさ」
背中に向けて問われた言葉に対して応えて、少し振り返る。
「……だって」
言葉に表すのは難しいその言葉。
成長をしている姿を見てみたいが、大きな賭けになっているような気もする。
少年の動向で、自分の立場がガラガラと音を立てて崩れるかもしれない。
出会ったばかりの少年にそれだけの信用を、信頼を置いても言い訳がない。
ましてや、思慮深い魔導士ならば危険な橋は渡らないだろう。
――周りの人達はちゃんとレヴィさんの実力を知ってますから。
膝上でこちらを見上げる幼い子どもの笑顔が思い出される。
あの時、なにか温かいものを感じた。
子どもが言った言葉にしては重みがあり、しっかりとした言葉だった。
たった少しの会話。されど、それだけでこれほどまでに判断を鈍らせる。
「私にも、よく……分からないのだ」
だから、
「本人に聞くさ、いずれか」
そう言って、レヴィは宿へ戻っていった。
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