【HIDE LEVELING】転生者は咎人だと言われました〜転生者ってバレたら殺されるらしいから、実力を隠しながらレベルアップしていきます〜

久遠ノト@マクド物書き

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幕間のお話

閑話 戦闘奴隷の生き様②

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「……投げてやりゃぁ、よかったかなぁ」

 投げていた手を目の上に被せ、震える声で呟いた。
 その言葉には後悔の念などは含まれていないようで、むしろ、妙案であったともとれる声色。

「幸せそうな顔しやがって……何が希望のない目だよ……」

 アンが横を通り過ぎて行った後、シルクの目尻には我知らずに涙が浮かんでいた。
 どれだけロバート公に殴られ、大火傷を負わされても、赤子や妊婦を惨たらしく殺しても流れなかった涙が視界をぼやけさせる。

「っ……俺も……主人が違えば……手から血の匂いがしなくなってたのかなぁ」

 ズシ……ズシ……とゆっくりと森の奥から現れたのは、フォレストウルフと言われる魔物モンスターの上位種。フォレストウルフの進化個体エヴォルだった。

 一体だけ現れたその魔物モンスターは、意識を失っている身動きの取れない冒険者の目の前まで迫った。
 クンクン、と匂いを嗅ぐと無抵抗の彼らの上半身を包み込むように大きな口を広げ、ぱくり。

 ゴリッ。と重々しい音。

 男達の屈強な体なんて最初からそこになかったのように、空間ごとなくなったように噛まれた跡は綺麗な断面図となっていた。

 残った下半身から血が上方向に向かって噴出し、血の出が悪くなるとバシャッと血を巻き上げながらシルクに向かって倒れ込む。

「……はは」

 辺り一面に散ったその血液を舐め取りながら、残った下半身も一口で喰らった。

 そのフォレストウルフの口の中には、冒険者の服だった布が歯と歯の間に挟まり、手や足だったと思われる肉片が舌の上で回され、白く尖った犬歯と歯茎は冒険者の血液で真っ赤に染め上がっていた。

 ぺろり、と舌なめずりをすると、シルクの方を向いてゆっくりと近づいてくる。

 一歩、また一歩と近づく足取りは、無抵抗でご馳走が食べれれることに喜んでいるかのように軽やかだ。

 しかし、シルクはそんなことはもうどうでも良かった。

 ――目の前で大きな口が開かれ、悪臭が鼻を劈く。

 シルクには他の道はなかった。
 人を殺し、主人の御機嫌を取っていなければ自分が死んでしまう。
 家族がお金欲しさに自分を売り飛ばした瞬間から、自分の人生の結末はここであったのかもしれない。
 結局は、その一族も自分の手で殺めてしまったのだが。それも、もう、昔の話だ。

 ――生暖かい息が自分に当たるのを感じる。

 死が目の前にあるという状況でシルクは目を閉じて笑い、閉じた目から涙が溢れ出てきた。
 
「いいなぁ……俺だって……まともに生きたかったなぁ……っ」

 彼が最後に呟いたのは、後悔と、かつて同じ場所で奴隷だった少女に対しての嫉妬だった。

 最後に少女へと投石をしなかった理由は定かではない。
 ではないが、おそらくは少女のため、という訳ではないのだろう。

 積み上げてきた奴隷という存在意義の否定だろうか。
 最期だからと、命令に対してのささやかな抵抗のつもりか。

 奴隷の自分を否定し、自分も新しく――いや。
 過去の、人殺しをしない、誰も傷つけない、無垢な少年だった時に戻ろうとしてたのかもしれない。

 例え、そうであったとしても、既に、抗うことのできない幕引きはシルクを覆っていた。

 次の瞬間、月明かりで仄かに明かりを感じていたのが一瞬にして黒く暗転したのを最後に、シルクの意識は溶けるように消えていった。
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