212 / 283
4-1 理外回帰編:大規模クエスト
191 英雄に焦がれる者
しおりを挟む「あの匂いがする袋、あれもあんたらがやったのか?」
「お前はこの人数不利の状況で、そんなことを聞くのか? 自分の立場分かってんのか」
否定も肯定もせずはぐらかすというのは、したとみていいだろう。
態度はでかいが脳みそは小さいらしい。
「なんのために魔法を打った? 冒険者同士の揉め事はタブーだと知ってると思うけど」
「なんのために……? ハンッ。いいぜ、教えてやるよ。……俺らはな、簡単に有名になって英雄になりてぇんだ」
「……?」
なにそれ。
人数有利で、こちらの両手が人を背負って塞がっているからか余裕を醸し出しているのがよく分かる。余裕なのは分かるけど、何を言い出すかと思ったら……。
少しだけ張り詰めてた緊張感や緊迫感が薄れて、目の前の年上の狼人が、将来の夢を語る少年にしか見えなくなってきた。
「俺らが英雄って言われるためには、何だってする。お前らにさっき打った魔法もそうさ。お前らを殺した方が競争率が下がるからな」
「英雄ね……、もしかして蜥蜴人の人が僕にゴブリンのクエストを進めたのも」
「そうだよ、僕はアレで君が死んでくれたらいいと思っていた」
いい人だと思っていた人が一人減ってしまった。残念だよ、ほんと。
今思うと『ゴブリン退治』なんて最初のクエストでやるような内容じゃないもんな。
初めてのクエストはそれこそ薬草採集や、ダンジョンがある森ではなくて、普通の森や平原にいるスライムとかを倒すのが一般的なんだろうし。
「僕はあなたのことを信じてたんですけどね」
「勝手にどうも。まぁ君以外の冒険者は、俺が勧めたクエストで大体死んだから……僕としては大成功な作戦だったよ」
「情報が少ない駆け出し冒険者は憐れだな、はははっ」
「しょうもない……。あるじ、行きましょう。構ってるだけ時間の無駄です」
「行かせると思うのか?」
アンが森の中に入ろうとしたのをスケアが剣を向けて制した。
目の前に振り下ろされた剣。それを見て眉一つ動かさなかったが、その時に袖から見えたモノには目を見張った。
「刺青……お前、フーシェンの……」
「あぁ、バレちまったか。そうさ、俺たちはついこの前フーシェンにスカウトされた。利害の一致だよ、あそこは俺たちの野望を叶えるための最適な場所だ」
「冒険者を減らせば、それだけ私達が目立つことが増える。だからこのクエストで多くの冒険者を殺そうとしたのさ」
マトモだと思っていた森人の人の口から「多くの冒険者を殺す」と聞こえて、先程の行動が間違いであったという可能性はなくなった。
僕達に魔法を撃ってきたのはこのベルトゥアって森人だ。
魔素が一緒な時点で99%故意だとは思っていたけど……この人も真面目な人だと思っていたんだけどなぁ。
「ということは、匂い袋はやっぱり君たちなんだねぇ。数を減らすって言いながら魔物の手を借りて、自分の手は汚さないんだ」
「お前らに何がわかんだよ。俺らは全力でやってんだ……!! 成りたいモノに成ろうとして何が悪い――ッ!!」
グッと剣をアンの喉元まで上げた――次の瞬間スケアの体が宙を舞い後方の木へと蹴り飛ばされた。
「威嚇のつもりでも、殺せる道具を人に向けた時点で殺る気だと捉えれるが……殺るのか?」
「がはっ……! ってめぇ!! 俺らのバックにはフーシェンが居るんだぞ!! タダで済むと思うな――」
「それがどうした」
「……なんだと?」
「後ろに何かが居たとして、お前らは何もしないのか? 英雄とはそんなものか……呆れる」
骨のある人達かと思っていたら「僕らの後ろには大きな組織が~」って悪役みたいなセリフ吐き出したらもう終わりだ。そのビッグネームに甘えてるだけの人間っていう印象になってしまう。
それにしてもフーシェンと僕らの関係を知らされてない……のか?
もしかして一端の血盟員には知らせてないのか? 知らせる利益と知らせない利益だったら、知らせる方が大きいと思うんだけどな。
「俺らは楽に名を上げるんだ!! 名を売る為の土台が……お前らは動かずにただ踏まれとけばいいんだ!」
「英雄になりたいなら周りを蹴落とさずに自分達が強くなればいい。お前らがやっているのは遠回りだ」
アンのオブラートに包まない正論パンチで、六人の表情が一気に変化した。
「……俺達が強くないって? 有名じゃないって……? 何も知らずに知ったような口を叩くんじゃねぇ!!! 俺達はダンジョンの記録保持者だ!! それに目立つために同じ思考を持つ他種族を集めてパーティーを組んだ!!」
「才能がないから何でも全力を尽くして名前を上げようとしてんのさ! やりたくないことだってする!! みんながやってる努力だけじゃ足りないんだ……!」
「才能がある人間には分からない話だろうよ!!」
激昴に激昴だ。溜め込んでいた鬱憤がチラチラと見える。
不思議に思っていたけど、英雄になりたいって人はこの世界じゃ珍しくないのか。
だって、小さな時から御伽噺を聞かされて実際に数百年前には魔王を撃退した英雄がいるんだ。
称号Ⅰを持っていてもいなくても、誰もが英雄になれるチャンスがある。
だが、野球選手になりたい人が他人をバットで殴打して他の選手を殺したりはしない。そういうことをして目標の存在に成れたとしても、後ろめたさはないのだろうか。
そこまでして英雄という存在になりたいのか。
「ベルトゥアァッ! 拘束魔法だ!! まとめて殺るぞ!!」
エルフが杖を構えたのを確認すると、ケトスが指先を空になぞった。
「――『複合魔法:多重泥壁』」
次の瞬間には、攻撃態勢に入っていた6人は水と土が混ざった泥の壁で囲われていた。
一度包囲することが出来ると、そこから何重にも重ねていき、終いには10層以上の壁が彼らを覆う。
えぇ……絶対、これから熱い戦いが!! ってところだったろうに。
「えげつない……」
「あれだけ英雄願望がある子なら直ぐに出てこれるさ」
「殺さなくてもいいのですか?」
「アンの手は料理や掃除ができる綺麗なお手手なんだから、したらダメー」
「あるじ……」
「親バカしなくてもいいから!!! 早く行くよ!!」
「邪魔だ! 間に入ってくるな!!」
こちらに近づいたアンの間にケトスが割って入って……って、何だかケトスが真面目に対応してくれるようになったから笑ってしまう。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる