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4-4 理外回帰編:始まりの地の異変
219 ボス部屋に閉じ込められて数日
しおりを挟むカリカリ、キュッ。
凹凸のない土壁を地面の上に作って、そこの上に紙を置いて絵と文字を走らせる。
ある程度走らせると紙を持ち上げて、確認。
うん……出来た。
「そのまま聞いてくれたらいいんだけど、僕が思うに……多分、こんな感じだと思うんだ」
書いた紙を『灯』で照らしながら、食事中のアンの方に傾けて見せる。
「……はむっ……もぐもぐ」
「──それで、壁での分断とか、意図的に炎の壁を解除するーとか。あいつは戦闘中に学習をしていってるんだと思う。それは意図的に炎の壁を解除したのも、こちらの油断を誘うためにやったことだと考えられて……」
「もぐもぐ……はふほろ……。しょれなら……ング……。事の話が」
「つくでしょ」
「ふみゅっ……んっ、ぁっ」
喉に詰まらせたのか胸元をガンガン叩いてるアンの側にあるのは、骸骨騎士のイラストつきのの特徴が書かれた紙。絵心がないとかいわないでおくれよ。
□あいつは戦闘を学習をしてる。
□真ん中に立たれると危ない。
□投げた武器をすぐ手に戻せれる。
□炎は任意でしか消えない。
□胸の装甲は厚い。そこに核があるはず。
□めっちゃ僕を狙ってくる。多分パーティーの穴だと思ってる。
□自己修復能力は高い。
□移動拘束系スキルの『威圧』を持ってるから、メンタルを強く持っていないといけない(鑑定で確認済)
僕が睨まれた、と感じたのは恐らくこれだ。
じゃあ『威圧』されたんだったら動けなくてもしょうがないじゃん! って思う奴がいるなら、頬を引っぱたいて小一時間説教をしてやりたい。
心を強く持っていたなら、僕があいつを恐れなければ、かからなかった。
威圧、とはそういうものなのだ。
おそらく、ダンプカーのような迫力があった、と感じた時も威圧を行っていたんだと思う。
だけど、その時にはかからなかった、っていうのが答えだ。
あー……話がそれた、閑話休題。
「……僕達より前にここの部屋に来た人たちがやった戦術とか技の使い方とかを学習してる場合もあるから、要注意なのは変わらないよ。これまでのダンジョン内の魔物というより森で生きてる狡猾な魔物みたいに駆け引きをしてくる、って頭に入れておけば大丈夫だとは思う」
「もぐもぐ……」
「飲み物は大丈夫?」
「んぐ……っ、ほし、い、ですっ」
「はい、あまり余裕が無いからごくごく飲まないでね」
「ふぁい……っ。んっ……ん」
なんでこんな悠長に話が出来て食事ができているのか、と疑問に思われるかもしれない。
その理由は、僕達の現状の問題でもあるのです。
夕食を美味しそうに食べているアンの後方に目を向けると――一日前と同じ格好で動かない壁際の骸骨騎士。
僕達は、まだ五階層目に閉じ込められたままなのだ。
◇◇◇
あれから、色々な実験をして行った。
分かったことはただ一つ。
今の状態のアイツに攻撃をしても全くと言っていいほど効果なし、ということだ。
腕を吹き飛ばしたはずの衝撃も、よろめかしたはずの蹴りも、剣を弾いた風刃も、だ。
今の状態は防御に専念をしている、っていうのは確かだろう。
武器は持っているけど護るように構え、身を縮めて佇んでいる。
「……こちらの消耗を待っているのかもしれませんね」
「となれば、下手に連続して検証をするのも危険かな」
何度見てもダンジョン内から魔素を取り入れている様子はない。やっぱり核となる魔石から魔素を供給してるみたい。それはつまり、向こうも有限であり、消耗はするということだ。
だけど……消耗っていう点で見ると、こっちの方が激しいんだよな。
腕や鎧を魔素で何度も作り上げる化け物相手に我慢比べが通用するとは思わないし、食事とかそういう面の心配もある。
反対側の壁にもたれ掛かり、上にある燭台の明かりを見つめた。
「三日……過ぎちゃうかもなぁ、女装か……」
なんでこの世界の僕はこうも童顔で、女の子と間違われるような顔つきをしているのか。
向こうの世界じゃかっこよかったとは……言わないけど、少なからず今の僕よりは男らしかったような気がする。
「はあ~」
──ぴょこぴょこ。
「……」
肩を落とす僕の横で、きょろきょろとしながら耳を隠し、髪の毛を整えてる人が一人。
「アン、ちょっと見てみたいって思ったでしょ」
「えっ!? いや、えっ、そんな」
ぴょこぴょこ?
ほんっと、可愛らしくて分かりやすい耳だこと。でも、
「見せないから、絶対」
「そ、うですか……」
しゅんっとしたアンに苦笑い。
三日ってことは……タイムリミットは、あと一日と少し。
その間に効いた時と効かなかった時の違いを見つけないといけない。
(もう少し、情報が必要だ──……)
「さ、そろそろわたしの出番ということでしょうかね!!」
突然聞こえた声に、思考を整理するために瞑っていた目を開けた。
そこには、ばばーんっとヒーローのポーズをしているお馴染みの彼女。
「エリ――あーーー……」
「エリ? 女性の名前ですか?」
エリルの声はアンに聞こえないんだった。
そう、このコロコロと笑う声も聞こえないのだ。
「エリちゃんです! 満を持して登場しました!」
こんのぉ……。
(……で、えりちゃんはなんの用?)
「ますたーとそこのお嬢さんがピンチだと思ってですねえ~」
(べっつに……ぴんちじゃないけど)
地面にあぐらで座って強がる僕を見下ろし、ふむぅ? と興味ありげな表情。どうせ全部お見通しなんだから……意地が悪い。
(…………ちょっとは、ピンチ、かも)
「でしょう! そうでしょう!」
えっへん、と胸を張る。
そのいつも通りの姿に安心を覚えつつ、負けた気がして、不満げな態度は崩さない。
(でも、どうするのさ。バケモノみたいな強いアイツにどう勝つの?)
「では、一旦、細かく整理をしましょうか」
たたたっと走り、入口の方に向かった。
すると、くるりと反転してシュシュッとシャドーボクシングをし始めた。
屋内部活の人達がやるような、ゆっくりともっさりとしたもの。さすがデスクワーカー。
そんな彼女が入口から出口にかけて移動していくのを見つめ、
(それ……もしかして)
「はい! ますたーと付き人さんの真似です」
あぁ……。はい。
さっきまでの整理って言って、実演をしてくれてるのね。
「それで、ですねっ……! お二人が攻撃をする時には決まって、攻撃をするのを止めたあの魔物は」
入口から出口の方へ、押し込むように。
「直ぐに固くなって修復をし始めた……のです!」
攻勢だったシャドーボクシングが徐々に収まり、出口の方に行くと、ふぅと一息をついた。
「つまり、ますたー達が攻撃をしている時には魔素を防御に回していた。ということじゃないですかね!」
(…………あ)
「お分かりですね」
魔素で出来た体。
鎧も武器も、たぶん、全部。
だから、攻撃は攻撃、防御は防御って……均一ではなくて一部に集中をすることで……
(硬くなったり、力強くなれたり……!)
「身体強化、脚力増強、腕力増強の魔物バージョンッ! です!」
はあ…………よくそこまで考えつくものだ。
自分では分析ができていたと思っていたのに、すぐそこに答えはあったのか。
シャドーボクシングの意味はあったのかはさておき。
(でも、それで、攻略の糸口って)
「えっ、もう勝ったも同然じゃないですか!」
……。あーっと。
(………なんで?)
「だって、ほら、さっき話したことをまとめたら……」
疲れてるのか、先入観に囚われているのかは知らないけど……分からない。
胡座をかいてるまま、首を傾げて分かりませんとアピール。
(ふっふっふ! いいでしょう、ならば!す私が考えた特別プランでますたーの女装を回避させてさしあげますよ!)
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