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4-5 理外回帰編:魔族との遭逢
228 起床した魔族
しおりを挟むユシル村に戻ると、丁度アンが起きて髪をくしゃくしゃにしてるところだった。すぐにボサボサにしちゃうんだから。
「傷治ったよ、ほら」
「ん……あ、治癒師に……よかったです。……? 治ってますか、それ」
「おおむねってかんじ」
「おおむね……むね……むねの話は、やめて……ほしい」
寝ぼけてるアンほど無防備な人はいないなぁ。で、相変わらずあの子は寝てると。
いつまで寝てるんだか。でも……何もしてないと……うん、魔素は感じないか。
「で、料理を作ろうと思います」
「うぅ……い」
ぬあと手をあげ、桜が落ちるように手を落として、ベッドに寝そべった。余程疲れてるみたいだ。
この宿に帰ってくる途中で、適当なモンスターを一つまみ。お肉を調達。あとは山菜。勝手にとってもいいものなのか。私有地とかだったらごめんね。
血抜き作業とか可食部の選別ももう慣れたもんだなぁ。感慨深いよ。
料理をしているとアンが二度寝の体勢に入ったので、聞こえるようにため息をついた。すると、顔だけ起こし、ぬぁぬぇとか変なことをいいながらモゴモゴと動き始めた。
「んぅ……? 美味しい匂いがする」
「あ」
すると、寝ていた少女がむくりと体を起こして、こちらを静かに見つめてきた。
「……おはよう」
「ん? あ、さっきまでいた人達……」
「さっきか。……まぁ、さっきになるのか」
五日くらい前だけど、寝てたら一瞬だもんな。
あの迷宮の中でも見たことがあるけど、やっぱり明るい場所で、緊張感がないとよく分かるな。
赤色の瞳、緑がかった黒色の髪色でボブのような髪型で肩上まで伸びている。
目鼻立ちはしっかりとしているが、厳しいような雰囲気はなく、僕よりも年上でケトスやイブと同じ年齢のような気がする。
(の割には、子どものような面影もあるけど)
身長は僕らより頭一つ分大きいほどで、胸部も黒いフード付きの服の上からも分かるほどに……大きい。
まぁ、料理の匂いに釣られて起きる時点で人間らしいというかなんというか。イブもアンもそうだったしな。この世界は食い意地張ってる人ばかりだ。
「起きてから色んな話を聞こうと思ってたんだけど……その前にお腹って空いてます?」
「お腹……お腹……」
自分の下腹部に手を当てて、文字通りお腹と相談しているような素振りを見せて、こちらに顔を上げて「減ってない……」と呟いた。
「あら、減ってないのか。だったらちょっと待っててね。僕達はお腹がペコペコだから、これ食べ終わったら色々お話しよう」
──ぐぅ~。
「……あ。減ってる……かも」
「なら、一緒に食べよう。器とかは……なんか代用したらいいか」
収納袋から適当に引っ張り出して、盛り付け。
アンが寝ぼけながらも頑張って警戒をしているのを笑いつつ、簡単に料理を食べて、お姉さんに話を聞くことにした。
お姉さんの話をまとめていくとこうだ。
・いつからこの最西の街、レイメイの北部にある下位ダンジョンの五階層にいるのかは覚えていない。
・あの魔物は自分が召喚したモノ。
・人を殺していた理由は『あの空間に入ってきて、襲ってきたから』
このお姉さんが、大量の冒険者を殺しているということは今更問いただす気にもならない。そのことは僕やアンが公言しなければ誰も分からないからだ。
殺人者の肩を持つことになるが、話を聞いている限り訳アリのような気がする。
「お姉さんは装備も何も持っていないように思えるけど、やっぱりあの黒い骸骨で倒してたってことなの?」
「私、それしかできないから」
「僕やアンが倒したあの三体の骸骨もお姉さんが出したってことか。そういうことなら……あ、倒したらやっぱりもう出せなくなっちゃうってことだよね?」
「? ううん」
お姉さんが僕の質問に首をかしげたかと思うと、背後に三つの黒色の魔法陣が展開され、無傷のスパルトイが出てきて鎮座した。
「闇属性の魔法……」
「こんな風に何回でも出せるよ、少しだけ疲れるけど……」
敵意が全く感じられない魔物三体が目の前にいる。すごく不思議な光景だけど……そこで少し不思議に思った。
どうやって魔物を使役しているのか、ということではない。
このお姉さんの魔素が全く感じられなかったことだ。
普通。なにかしらの魔法を使うと、魔素を消費するというのに。
「お姉さん、試しに魔素を出してくれないかな」
「魔素……?」
「あー……あの黒い骸骨のほうって出せる?」
「う、うん」
力を込めるような様子を見せると先程までよりも強大な黒い魔法陣が展開され、背後にあの骸骨が佇んだ。
チラッとだけ感じ取ることができた魔素の色――黒色。
うん。やっぱり、魔族だ。
そのことをアンも感じ取った様子で少しだけ敵意を向けた。すぐに手で制すと我慢をして一歩後ろに引いてくれた。
それにしても、なんで三体のときは魔素が感じなかったのに……。今考えても分かることではないか。
「…………名前、お姉さんの名前は何ていうの?」
「私は……アルマ……アルマ・ハイドレンジ……」
電子レンジ? いや、聞き間違いか。
「そっか、だったらアルマさんはこれから先、どうしたい?」
襲ってくる気配もないし、後ろにいるスパルトイ三体と骸骨も襲ってくる気配がない。
黒い魔素が見えたといえ……会話ができているし敵対をしてきていないのであるなら、アルマさんの選択次第では。
「先って言われても、私は頼れるひとがいなくて……何をどうしたらいいのか分からなくて……」
「だったら、一緒に来る? アルマさんの意見を聞きたいんだ」
「いいの?」
「アルマさんが自立するまでの期間だけどね、それでいいなら――」
「それでっ、お願いします」
「分かった。じゃあ、これからよろしくね」
アンに目配せをしておく。
(なんの気まぐれですか、あるじ)
(放っておくのもなぁって。危害を加えるようだったら、そのときはその時だよ。ぼくの従者は強いから)
(……もう、こんなときだけ調子いいんですから)
アルマさんは魔素の放出が物凄く抑えられている状態だ。
僕みたいな魔素の色が見える人がいたとしても心配はないだろう。あとは服装かな。
肌の上から黒い服を着ているような状態だ。裸足のままだし……、街で何かを買わないといけないな。
「お世話になりました」
そんなこんなで、ユシル村の人にお別れの挨拶をした。
「いえ……冒険者さんのお役に立てたならよかったです」
「とても助かりました」そこで、ふと頭に浮かんだ。「お姉さんは、ユシル村の人ですか?」
「いえ。わたしは違います。というか……ユシル村の出身の人はいないと思いますよ。生き残った人がいないとかなんとかって聞いてるので」
生き残った人がいない……か。
佳奈の手がかりがあるかと思っていたけど……。
(もしかして……転生して、既に死んだ?)
「…………」
いや、エリルには生存確認を行ってもらってる。
まだ生きてるはずだ。じゃあ……最西の街にはいないってことか?
「あのぉ……?」
「そうですか。すみません。では、この村の再興は何が目的で……?」
「王国とこの村の出身者からの要望にはなります。村だけでなく、訓練場も併設して、最西の街を盛り上げようという目的らしいです」
この村の出身者? いるのかそんな人。まぁ、故郷がなくなれば寂しいか。
「上手くいくといいですね」
「はい。冒険者さんたちの旅路も明るきものであるよう、祈っております」
そうして、僕たちはユシル村をあとにした。
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