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5-1 最上位種発芽編:世界が変わっても
245 体の異変
しおりを挟む「はぁ……? そんなことを言ったのですか、アイツは」
「う、うん。だから、アンも気にかけてあげてね」
ギルドでアンに会い、アルマさんのことを伝えると眉間のシワが凄いことになってしまった。うわぁ、こんなアンの顔初めて見た。
怒り? いや、呆れ……? なんだその表情……。とりあえずなにかの感情の最大級であることは分かる。
「何か見つかるまで家に置いておく……。今後は勉強も家事も掃除も何もしない人型の何かを家に置いておくってことでいいですね」
「……何かやりたいことを見つけるまでね」
「あるじはあるじ以外の人のことを過大評価し過ぎです。現状維持ができるならまだしも、甘えて後退する人間がほとんどなのですよ。あるじほど向上心に溢れながら次々に挑戦する人はそうそういません」
「あはは……僕はじっとしてられない性格だからね……。けど、アルマさんは大丈夫だと思うよ」
「そうですかね……? 私はそこら辺にいる有象無象と同じようにしか見えませんが」
「……アンって、アルマさんに特別当たりが厳しいけど、何かあった?」
前から思ってたけど、アンがアルマさんに対して何か特別な感情がある気がする。
有象無象だと認識しているなら会話すら最低限に済ますはずなのに、執拗に食ってかかっているのをよく見かけていた。
「……嫌いなんですよ。ああいう他人の後ろを着いていくことしか出来ないヤツ」
目を横に流しながらサラッと酷いことを言ったのを聞き、驚きながらも声を抑えた。
「寄生することでしか生きていけないような奴が、わたしのあるじを寄生先にしているのに腹が立ってるんです」
なるほど。受け身ばかりな態度が気に食わないって感じか。
「アンの言いたいことは何となく分かった。今回ばかりはアルマさん次第だから待ってみよう」
「どうせ動きませんよ。ああいうのはケツを叩かないと動かないんです。なんならわたしが叩きに行きましょうか」
嫌いだなんだと言いながら、そういうことを言うのか。アンらしいというか、なんというか。
「ふふっ」
「な、なんで笑うんですか?」
「いや。なんでもないよ」
「……? そ、そうですか?」
「ただ、アンが叩いちゃうと痛そうだなって」
「あ、あるじのことは叩きませんよ……?」
「はははっ」
アンもなんだかんだ気にかけてくれているようだし、本当にアルマさんがどう動くかだ。
しかし、アルマさんのことばかり気にかけてもいられない。
出払っていたギルドのスタッフが徐々に西部ギルドに戻ってき始めて、ナグモさんとペルシェトさんの時間が作れるようになってから僕とアンに割いてくれる時間が増えた。
治癒士の勉強会も再開され、朝から昼前はそれで使われるようになった。
それに関しては自主訓練の時間を減らすことで対応したのだが、ナグモさんが僕へと追加で課した練習内容も濃いことから疲労が蓄積していくのを感じた。
「クラディスくん、勉強会を再開してください!」
――ズズズズっ。
そして、アルマさんの文字の勉強も再開して自分の使える時間が無くなっていった。
◇◇◇
睡眠時間が二時間取れたらいい方。そんな生活が来るとは思わなかった。
いつもより視界が狭い気がする。黒いのが縁にあって……なんか、体が重たい気がする。
「なに、言い訳してんだって話だ……」
首を横に振り、息を吐いた。
「頑張らなきゃ、いけないんだから」
頑張れば報われるのならば、頑張るしかない。
朝からアルマさんの勉強の内容を確認して、作業をする。
街の人達が動き出す時間になったらアンと一緒にギルドに出かける。
治癒士の勉強を受けて昼食を済ますと、ナグモさんが出した自主練習をしながら魔素操作の練習。
日が暮れるとナグモさんと夜中の二時まで訓練。
――ズズズズズズっ。
僕が気が付かない内に、すごい速度で疲れが溜まっていく。
体がだんだんと錆びていくような感覚がする。
「クラディスくん……?」
「っぁ……あ、あ? あぁ。ごめん。ウトウトしてた。なんだっけ」
急に声が聞こえ、姿勢を正した。この声はアルマさん、か。
かおを覗き込まれ、なにか言われた気がした。口が動いているのだけ分かる。
「──……」
なんだ……? なんだこれ。
声が、上手く聞こえなくなって。
「大丈夫、声、聞こえてます?」
大声で叫ばれ、目をパチクリ。
やっと声が聞こえた。びっくりした。それにしてもそんな大きな声で言わなくても……あれ? でも、そんなことアルマさんがするわけもないし……。
「ダイジョウブ、心配しなくても……ちょっと、かおだけ、洗ってきます」
「う、うん……」
ゆらと椅子を持ち、立ち上がった。トイレはどっちにいけばあるんだっけ――……。
「あるじ、すこし休まれた方が」
「ううん、いいよ……大丈夫」
体を心配してくれたアンに力なく笑うと、顔を洗ってアルマさんの勉強会の続きをした。
「――ス様、クラディス様」
「……っえ?」
「どうしました? 突然立ち尽くしたので……」
「?」
なんで……さっきまで、あるまさんの勉強会をしてたハズ……。
手にはいつの間にか木剣が握られている。
汗もかいてるし、ナグモさんもいつも通りの顔をしてる。
あ……いま、訓練中?
「えっ、あぁ……すみません。ぼーっとしてて」
目をこすり、目を開く。上手く開かない。
視界が、段々と悪くなっていってる。なんだ、これ。ずっとゴーグル付けてるみたいな……ぼやけてるし。
「それに動きのキレがない、初日の方がまだ動けていましたよ。体を酷使しすぎじゃありませんか?」
「いや、そんなことは……」
誤魔化しながら後ろ首を抑えると、ふわっとした感覚が襲った。
目の前が暗転をして──光が眩しく感じた。
「……えっ」
「んにゃ? どーしたの?」
「あるじ……?」
「…………」
これ、なにが……起きて……。
「ごめん……なさい。なんでもない、です……」
顔を抑え、自分の意識がハッキリしていないことに恐怖を覚えた。
間の記憶が……ないってことあるのか……?
でも、ちゃんと、それまでは普通に生活を送って……無意識で、日常を送ってる……?
ふとした瞬間だけ、意識が戻る。いままでこんなことって──……。
「目の下のクマも凄いし、しっかり寝てますか?」
「あぁ……、そ、そうですね」
はっ、はっ…………ふぅ……ふっ。
「……会話のキャッチボールもできてないけど」
――呼吸がおかしい。
――――上手く、呼吸ができない。
「っ……はっ……ふっ……」
息が、吸えない。
苦しい。
──ドクンッ。
心臓の音が、うるさい。
「あるじ、やはり……」
「何か知ってるの?」
明かりが眩しく感じた――
目がおかしい。鼻も、匂いがしない。
口の中が異様に乾いてる。
耳の外で心臓が鳴ってる。
頭が後ろに引っ張られて。
「……新しい同居人に勉強を教えるために、日が昇る前から準備をしているんだ。それに、深夜の訓練が終わってから勉強を教えているから、まともに寝れて――」
耳に入ってくる言葉の意味が理解できない。
目に入る情報が脳まで届かない。
――ズズズズズズズズズズズズ――
じわっと黒い斑点が現れ、大きくなり、視界を覆い尽くしていく。
「……っあ――」
ぐら、と視点が傾き、一瞬だけ身体が浮かんだ気がした。
「クラディスくん? ……クラディスくん!?」
「あるじ……!」
何が起こったのか分からないまま、鋭い頭痛が響いたのを最後に、目の前が完全に真っ暗になった。
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