寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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「はあああ?てめえ、何寝ぼけたこと言ってるんだ?キスしていいかぁ?何が取り敢えずだぁ?よくもそんな恥ずかしい台詞が言えたもんだな」
 三十路の男に向かって、何を考えてるんだ、こいつ。 
「いちいち、うるさいな。お前が緊張してるから、気を使ってやったんだろうが」
「俺は処女じゃねえ」
「じゃあ、するぞ。いいのか。本当にするぞ」
「お、おお。来い」
 俺はぎゅっと瞼を閉じ、両方の拳を握って胸を逸らせた。ついでに息も止めた。
 あれ?俺、何やってんだ?これって、来いってどんと構えるところか?もしかして対応間違えた?
 などと急に冷静になった脳味噌は、重なった唇によってあっさりと煙幕が張られた。
「ん……」
 重なったかと思えば、たちまち舌で唇の引き結びを割られる。自分の舌の上に火種を乗っけられたように熱い。火傷しそうにヒリヒリした感覚。痺れるようなそれに驚いて舌を引くと、やつが逃すまいと追いかけてきた。後頭部を掴まれ、引き寄せられる。絡み合い、ぴちゃぴちゃと音を立てる。逃げても逃げても追いかけてくる。とうとう俺は掴まった。諦めて相手の歯の裏を舐めてやると、相手の唇の端から熱っぽさが細い吐息となって漏れた。こいつ、一丁前に反応してやがる。色恋に手馴れているはずの日浦が、俺の繰り出すキスで陶酔していることに、何故か心が弾んだ。それじゃあ、次は粘膜を舐ってやる。どんな反応を示すのか。俺は新しい遊びを覚えた子供のように、夢中になっていた。
 日浦の指先が、俺の項を頂点として、背骨の筋を辿って行く。下着のゴムを弾くと、その中へと直に滑り込んだ。さらに下へと進む。
 微睡みの霧が晴れた。
 骨が抉れたかと思うほどの軋み方。俺の拳は日浦の頬に見事にヒットを決めていた。
「て、てめえ。キスだけで終わるんじゃねえのか」
「誰もそんなこと言ってない」
「ふざけんな……うっ」
 会心の一撃が通じない。そればかりか、報復だと言わんばかりにマットレスに背中を押しつけられ、脛に負荷が掛かる。組み敷かれ、動きを封じられた。
「どうせご無沙汰だろ。大人しく俺に任せとけよ。あっちゃん」
「その呼び方、やめろ」
「じゃあ、篤司」
 耳朶噛んで囁くな。鳥肌が仙骨をぞぞっと揺すった。
 三十六の今まで女が途切れたことがないと自慢しているやつだ。あっちの方も俺の経験を凌駕している。日浦の巧みな指遣いは、俺から拒絶をあっさり奪った。どたばたとベッドで取っ組み合いになりながらも、やつは俺の股間を直で握ると、虫が這うように撫でて擦って軽く弾いて、確実に官能を煽っていく。
「篤司。気持ち良い?」
「う……う……るせえ……」
「素直じゃないなあ」
 現に握って確かめてんだから、聞かなくてもわかるだろうがよ。
 ぱんぱんに腫れ上がった部分から、すっと手が滑って後ろの窄まりへと指が伸びる。風俗でいたした悪い遊びが脳裏を過った。まさか。俺の良過ぎる直感は、時として恨めしい。日浦の中指が後肛の襞をぐるりと撫で回した。
「ちょっ……俺はまだ……するって……言って……ねえ」
「往生際が悪いぞ。一緒に新世界に行こうじゃないか」
「て、てめえ……一人で……行っ……とけ……ぁあ」
「喘ぎながら言われても、説得力ないぞ」
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