寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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続編 愛くらい語らせろ

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 人間てのは、本能的に危険を感じ取ることが出来る生物かも知れねえ。第六感を馬鹿にしちゃいけない。
 俺は身をもって理解させられた。
「……んん……」
 喉奥で声が潰れてしまい、抗議は口から外に出ない。代わりに涎がだらだらと溢れ、とび色のシーツがぐっしょりと濃く染まった。
 こんなはずじゃなかった。
 つい数分前までは、俺の方が優勢だったんだ。


 つい数分前の俺は、ベッドの上でニヤリとしながら、悪巧みに頭をフル回転させていた。
 最初こそ日浦のキスに翻弄され、不気味な独り言にぞくっとさせられたが。
 シーツから漂うバニラのような柔軟剤の香りが鼻の穴を甘ったるさでいっぱいにして、この香りはあまり好ましくないと思ったら、一気に現実に引き戻された。
 危ねえ。危うく流されて蕩かされるところだった。
 そこから、形勢逆転しようって傾いた。
 俺だって特救の端くれ。腕立て腹筋は日課で、柔軟だって欠かしたことはない。だから、似たような体格なら最終的に若さが勝つ。一番員といっても、それは経験によるもの。実際の腕力は日浦より俺の方が上をいっていると踏んでいた。
 いつも流されるまま「メス」にされちまう。今夜は流されまい、俺こそがこいつを組み敷いて全身舐めまくって快楽漬けにして、ヒイヒイ泣かせてやる。ってか、そもそも何で俺が「オンナ」なんだよ。似たり寄ったりの体格ならお前でもいいじゃねえか。
 なんてあからさまに闘志を燃やしていたら、相手に見透かされてしまった。
「何?別れた彼女と再会して『オス』を思い出した?」
 表情筋の死んでいる俺は動揺を一切見せない。
「図星か」
 何で日浦はあっさり見破るかな。
「なら、話は早いだろうがよ」
「俺を抱くって?」
「悪いかよ」
「いや。無理だから」
 心底呆れたと言わんばかりに日浦は肩を大きく揺すりながら溜め息をついた。
 隙を見せ過ぎだ。
 露骨な態度にむかっ腹が立ったが、そんな状況下でもチャンスを探り、素早く手を伸ばすと日浦の両手首をがっちりと掴んだ。手錠のごとく動きを封じてやる。これで日浦は身動きが取れない。
 あとは経験の成せる技で、キスで腰砕けにしてやれば、もう俺に従う他ないだろ。
 涙を零してがる日浦なんて、想像出来ないけど。
「諦めろよ、日浦」
 膝立ちになり、見下ろしてやる。染めていないと言い張るだけあって、髪の根元から赤茶色だ。しかも、なかなかお高いシャンプーを使用しているのか、髪の毛一本一本が艶々に輝いている。癖のあるやや畝った髪質。よもや日浦の旋毛を見る日が来ようとは。それだけでもう組み敷いた気になって、優越感でいっぱいになる。
「これで俺を従えたつもりか?」
 余裕綽々な言い方に反して、見上げてきた切れ長の瞳は挑むように吊り上がっている。
「せいぜい、ほざいてろよ」
 締めた手首に力を込める。むかつくことに日浦は顔色一つ変えない。むしろ状況を楽しむかのように、ニヤニヤと口元を緩めて白い歯を覗かせた。
「絶対、てめえを抱いてやるからな」
 
 
 それが、つい三分前の出来事。
 悲しいかな。今、俺は両手を後ろに捻られ、日浦のでかい手で両手首をがっちり掴まれ、身動きが取れない。振り払おうとすればするほど締め付けられ、あまりの痛みに顔をしかめても、無視される。赦すつもりはさらさらないらしい。
 
 
 
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