寡黙な消防士でも恋はする

氷 豹人

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続編 愛くらい語らせろ

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 ミイとの約束は十一時。
 待ち合わせ場所は大黒谷駅の東口。明治時代に資産を投げ打って鉄道を通し、産業の礎を築いた名士の、通称仙人ひげのおっさんの銅像前。
 そして現在、九時四十五分。
「おい。遅刻するだろ」
「うちを十時半に出れば、確実に間に合う」
「準備があるだろうがよ」
「服着替えるつもり?」
「そうじゃなくて……うぁ」
 話の途中で声がひっくり返ってしまった。
 失敗した。
 後悔の二文字が頭の中をメリーゴーランドようにぐるぐる回っている。
 同時に日浦の指も、俺の太腿の付け根の際どい部分にぐるぐる円を描いていた。いや、いっそ思い切り触れよ。握れよ。焦ったいな。
「これからミイに会うのに。何で」
 自分でもびっくりするくらい声が掠れてしまっている。
 朝の大交替を終え、それぞれの家に帰るよりも、そのままどちらかの家に行って、待機しよう。時間は有効に使わないと。
 尤もらしい提案に乗っかったのが、そもそもの間違いだ。
 同じ大黒谷町住まいといっても、日浦は駅近の独身者向けマンション。俺は元嫁の強い希望により購入した、駅から徒歩二十分の立地にある分譲マンションに、離婚後もそのまま居着いている。売却も考えたが、手続きが色々面倒くせえし。
 右隣の住人は昼夜逆転の仕事なのかわざわざ夜中にオンラインゲームで興奮して叫ぶわ(防音きいてるのに、何で聞こえるんだ?かなり声でかいやつか?)、左隣はプロレスラーみたいなやつで、妙に付き纏ってくるわ。最悪。
 一度日浦に愚痴ったら、一緒に住むかと提案されたが、丁重にお断りした。同棲って、なんか照れるだろ。
「あ、あんまり騒いだら、隣に聞こえる」
 今日は俺のマンションで待機。
 幾ら元嫁の私物が一切なくなったとしても、美和子と使っていたベッドに日浦と寝るのは抵抗がある。何回かに一回は断り切れずにいるものの、何かと理由をつけて日浦がうちに立ち入ることを避けていた。が、今日は致し方ない。日浦のマンションは年に一度の定期点検があり、業者が廊下やロビーを行き来して落ち着かないらしい。
「行儀良く時間潰す気でいたのか?」
 日浦はニヤリと頬の肉を歪める。
 よく考えたら、こいつが大人しく待つはずがなかった。
 後ろ手に玄関扉を閉め、きっちり鍵まで掛けたと思えば、三和土に押し倒されてしまっていた。
「聞かせてやってるんだよ。壁に耳つけて聞き耳立ててるやつに」
「誰に」
「内緒」
 片目を瞑って投げキス。確かに絵になるけどよ。喜ぶのは市局の女どもだけだから。
 そもそも聞き耳立ててるって、何で断言出来るんだ。
「ちゃんとマーキングしとかないと。ふらふら危なっかしいから」
「ふざけんな」
「至って真面目だけど」
 言いながら日浦はすでにインナーシャツを脱ぎ捨てており、上半身剥き出しになっている。もうかよ。
 いつみても惚れ惚れする筋肉のつき方。見事に盛り上がった大胸筋。腹はシックスパックに割れて、腰は締まり、逞しい上腕二頭筋。総重量十キロある防火服を片手で軽々担げるはずだ。姿形はまさにギリシア彫像。
「さあ、風呂入るぞ。シャワー浴びて、さっぱりしよう。来いよ、あっちゃん」
 いきなり腕を掴まれ、断るより早く浴室へ引きずられる。
「おい、やめろ!俺はいいから!」
「さっぱりするから。早く早く。時間ないから」
 早口で好き勝手言う男に、そのままずるずると連れて行かれる。がっちり掴むその手はコンクリートより硬い。そういえばレスキューの採用試験で化けモン並みの握力って、代々伝わって来てたわ。
 
 
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