寡黙な消防士でも恋はする

晴 菜葉

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続編 愛くらい語らせろ

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 頭からぬるい湯を浴びて、思わず両目を瞑ってしまった。膝が戦慄いて、立っていられない。額に張り付いた前髪からは、ぽたぽたと鬱陶しいくらいに雫が垂れて、頬から顎へと伝っていく。壁を支えにするには、ユニットバスのパネルは指が滑って心許ない。
「時間が」
「大丈夫だよ」
 俺の言葉にわざと被せて、日浦は耳元で吐く息に声を足した。何が大丈夫だ。全然大丈夫じゃねえよ。
 真後ろに立つ日浦はシャワーの飛沫だけ浴びて、まるで暖をとるように俺の腰に腕を回して肌を密着させる。
 身長は同じくらいなのに、明らかに日浦の足の付け根は俺の腰より十センチばかり高い位置にある。
 その事実にカーッと頭に血が昇り、ぎりぎりと奥歯を擦り潰した。  
「てめえ。覚えとけよ」
「あっちゃん。大黒谷の元締めが出てるよ」
「うるせえ。黙っとけ」
 俺がカッカカッカするのは、日浦のマネキンみたいな脚の長さに神経を逆撫でされただけじゃない。
 さっきからゆるゆると腰の上から尾てい骨を行き来する硬いモンが無視出来ないからだ。だからって、口に出すのは憚れる。
 あと三十分くらいで女に会うってのに。発情してるんじゃねえ。
「気を逸らせようと頑張ってるけどさ」
 言いながら耳朶を噛んでくるな。
 バレてるし。
「あっちゃんだって、興奮してるじゃないか」
 指摘され、俺はますます奥歯を噛む。そりゃ、固いモンで皮膚をこれみよがしに擦られたら、そうなるだろ。
「これから別れた女と会うのに、このままじゃ駄目だろ」
 言って、日浦はおもむろに俺の勃ち上がったものを握った。
「ひぁっ」
 不意打ちに喉がひくつき、鼻から声が抜ける。いきなりは反則だ。
「何か張り合ってねえか?」
 ミイに。と、敢えて名指しはやめとく。
 だが、ちゃんと日浦には伝わったようだ。
「今更?」
 背後の声が不気味なくらい低くなった。
「何でてめえ、ミイに会う気になったんだ?」
 何も今、聞く必要ないが気を逸らしておかないと、うっかり喘いでしまいそうだ。日浦の指はまるで個体の生物のように忙しなく蠢いて、だけど肝心の気持ちいいポイントはわざと外して上下する。触れそうで触れない。わざわざ先端を避けて。
 もどかしい。焦ったい。歯痒い。まだるっこしい。思いつく限りの似たような言葉を心の内に並べたてれば、嫌でも日浦の指遣いに意識が集中してしまう。
 駄目だ。頭ん中がもう、それしか考えつかねえ。
「花岡さんちの閉じ込めだよ」
 不意に日浦は答える。
「あそこんちのちゃぶ台に、『やさしい世界』のパンフレットがあった」
 耳朶にかかる息すら、ぞくぞくと肌を粟立たせる。
「やばいんじゃないのか。それ」
 振り返ろうとしたが、首筋に顔を埋めてくる日浦が邪魔で出来ない。
 眉唾ものだが、仮に連日の火災にその宗教団体が関わっているとして。火災なんて、ただのお遊びじゃねえ。下手したら命を奪いかねない事案だぞ。
「もしかして、調べてる俺達の命も」
 口封じに。言いかけて、頭のてっぺんから冷えていく。頭の中で、火だるまになる自分の姿が膨らんでいく。
 日浦は埋めた首筋に痛みを伴わない程度に軽く歯を立てた。
「ドラマの見過ぎだろ」
「だけど!」
 まだ火だるまのイメージは消えない。
「うぁ!」
 いきなり弱い部分を爪で引っ掻かれ、踵が浮いた。わざと快楽のポイントを外して弄っていたくせに。ここにきてかよ。
「ほら。いい声で鳴けよ。隣に聞こえるくらい」
 出来るか。なんて、口答えは日浦の唇に塞がれた。
「通気口から筒抜けだからな」
 どこに筒抜けだ?まさか、外に漏れてる?
「エレベーターで会ったけど、明らかにお前を不埒な目で見てたからな」
「あのプロレスラーが?気のせいだろ」
「鈍感」
 淫靡な指先が前から腰回りへと添い、後肛の縁で緩慢な円を描く。潜り込みそうで、だけど寸前で離れていく。
「あっ……ああ……」
 後ろがひくつき、刺激を求めて収縮する。
「顔、真っ赤。笠置が見たら騒ぎ立てそうだな」
「ど、どうせ鉄仮面だよ」
「俺の前では百面相だけどな」
「悪かったな」
 余裕ぶる日浦を拳骨してやりたい。
「悪くない」
 やや声が掠れている。背中を上下に滑る日浦も、さらにぱんぱんに膨れている。
 限界なくせに、それでも日浦は一糸乱れず。
「次は蕩けてる顔でも拝もうかな」
「へ、変態オヤジかよ」
「俺を怒らせたいのか?」
「うあっ!ちょっ、激しい!」
 ずっぽりと、いきなり指二本が後肛に潜った。恣意的な指遣いは、俺の都合などお構いなしだ。









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