【完結】死に戻り令嬢リリアーナ・ラーナの恋愛騒動記

氷 豹人

文字の大きさ
27 / 71

恋の情報量

しおりを挟む
「ザカリス様。絶対にこちらよ」
 リリアーナは気まずさを払拭するため、声を張って明るく振る舞う。
 生垣迷路は複雑に仕分けられた壁によって行く手を阻んだ。進んでは戻り、また進んでは戻りの繰り返しで、一向に出口へ辿り着かない。
 約三千本のイヌマキによる植え込みは、高さ二メートルを軽く超える。それが壁となり、通路となって、人々を楽しませた。
「そんなわけないだろ。造りから考えて、左側へ進むべきだ」
「いいえ。私の直感は当たるのです。絶対に右だわ」
「根拠もなしに言い切るな」
 ずんずんと進むリリアーナについて行けば、案の定行き止まりで、ザカリスは舌打ちした。
 万が一、迷って抜け出せない輩がいるとしても、屋敷のテラスから望遠鏡でジョナサンの従者が見張っているから、困っていればすぐに助け出されるのだが。
「途中で降りるなんて、俺の矜持が許さないからな」
 ザカリスはムキになっている。どうあっても自力で出たいらしい。
「ザカリス様ったら、意外に子供っぽいのね」
「何だと! 」
 リリアーナの失言に、ザカリスはたちまちこめかみに青筋を浮かせた。
 彼が何事かを怒鳴りつけようとした、そのとき、二人の間をびゅん、と黄金色の風の塊が過った。 
 ギョッとして、二人同時にその風の主の方を向く。
 まるで何かに取り憑かれたかのように、黄金色の髪に赤いドレスを身につけた令嬢が、脇目もふらず猛スピードで駆けていった。
「何だ。アニストン家の氷の悪女じゃないか」
 ザカリスは、その髪とドレス、それから男性の平均よりも高い身長から、その令嬢が誰でもあるかすぐに見破った。
「あのご令嬢、美人なのに壁の花をしていらっしゃる方だわ」
 リリアーナも彼女には覚えがある。
「ああ。ツンツンしてお高くとまってるとかで、男は皆んな、声すらかけられない」
 だから、「氷の悪女」。「悪女」の単語から、相手にされない男らのやっかみが見受けられる。
「まあ、俺の好みから外れているから、最初から声なんて掛けようなどは思わないがな」
 ご令嬢は、右へ左へ凄いスピードで行き来し、やがて角を曲がって見えなくなってしまった。
 一体、何だったのか?
 気を取り直し、リリアーナはザカリスに微笑みかけた。
「ザカリス様のお好きなタイプは、どのような方なのですか? 」
「俺か? 俺は小動物みたいに愛らしい女だな。あの氷の悪女とは真反対の」
「そうなのですね? 」
 ニンマリとリリアーナが笑う。
「では、私が好みということですね」
 ふと、ザカリスが動きを止めた。
「な、何だと! 」
 三拍遅れで憤怒する。
「アニストン家のご令嬢と正反対の方を好まれるのでしょう? 可愛らしいのは目を瞑れど、私は背は低いし、あのご令嬢のような豊満な胸ではないし。条件には当てはまります」
 図々しくも、自分をアピールする機会は逃さない。少しでも引っ掛からなければ。
「あ、厚かましいことを言うな」
 ぷい、とザカリスはそっぽ向いた。
 そんなことで挫けている場合ではない。
「ザカリス様ったら。もう。素直じゃないんだから」
「おい。思い込みも大概にしろ」
「嫌だわ。照れちゃって」
 ザカリスはダンマリを決め込む。最早、構っている方がバカだ、とでも言いたげに。
「天邪鬼なんだから。ザカリス様は」
 リリアーナは両頬に手を当てて、体をくねらせた。
「昨日の見合いの件は、不問にしますね」
 これこそが言いたかった。どさくさ紛れに口にした。
 改まって言えば、気まずくて仕方ないから。
 が、やはりシン、と空気が静まり返る。
 ずっしりと水気を含んで酸素に重みが増したかのごとく、息苦しささえ覚えた。
 ザカリスは腰まで上半身を折り曲げ、リリアーナに頭を下げた。
 ギョッとリリアーナがニ、三歩、踵を引く。
「……すまなかった、リリアーナ。お前の気持ちをわかっていながら。浅はかだった」
「ザカリス様? 」
 いきなりザカリスが顔を上げたかと思えば、腰を屈め、右頬をずいっとリリアーナに近づけてきたのだ。
 彼から距離を縮めてきたことで、いつもは攻める一方のリリアーナは怯んで身を引いた。
「お前に殴られても仕方ないことをした。遠慮なく俺を殴れ」
 ザカリスはさらに距離を詰める。
「ザ、ザカリス様? ちょっと? 殴れと仰られましても? 」
「良いから、さっさと殴れ。拳で」
 昨日の無礼を不問にするすべらしい。
 彼なりの詫びのつもりだが、リリアーナは困り果てて、浅黒く日焼けしたその頬をじっと見つめるしかない。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...